一掃と捜索
「今度は群れで来るぞ! お前ら気をつけろよ!」
エッジのどこか楽しげな叫びが、洞窟内に響き渡る。トロル戦から間も無く、すぐに次の魔物が襲いかかってきた。
しかも今度はチーム戦だ。厄介なことに、一本道の通路に出たところを挟まれている。
前方からは赤くゆらめく蝶々が二匹。どうやら天井付近を飛んでいる。
それと一緒に通路を吠えながら向かってくる連中がいる。黒い狼が四匹はいた。
「わあ! いっぱいいるよう!」
パメラが怖がっていた。
しかも背後を向けば、トロルまでやってきている。
敵は七匹ほど。俺たちは実質三人だし、ゴーレムに守られているとはいえパメラが心配だった。
後ろにいたモニカは、迷うことなくトロルへ向かってゆく。
エッジに前を任せ、後ろは一人で片付けるつもりだろう。
ただ、この状況ではやはり厳しいと感じた。俺の魔法でどうにかする必要がある。
そう考えて前を見る。まず相手にするべきは、すばしこい狼達。
しかもそのうちの一匹が、迷うことなくエッジの横をすり抜け、こちらを狙ってきた。
「ちっ!」
エッジに人と変わらぬ大きさの蝶々がまとわりつく。
その隙をつくように、狼は弱い俺に飛びかかろうとする。
洞窟の中に、獣の叫びが反響する。奴はあの時、喉元めがけて飛びかかったと思う。
「リザン!」
パメラの悲痛な叫びが聞こえた。
俺は鍋の蓋を構えつつ、少しだけ後ろに下がる。狼が突っ込んできて、腕に尋常ではない衝撃が走った。
この小さな体では踏ん張りが効かず、そのまま後方へと飛んでしまう。ただ、すぐに転んで立ち上がった。
前を見れば狼が迫っていたようだが、徐々に足取りがふらつき、やがて前のめりに倒れた。
事前に発動させたショートスリープが効いたのだ。エッジとモニカは相手と拮抗状態だったが、ここで俺が自由になれた分有利である。
すぐにエッジに群がろうとする狼目掛けて杖を向け、攻撃魔法を放つ。選んだのはエアカッターだ。
杖から放たれた風の刃は、瞬きをする暇もないほどの速度で魔物達に襲いかかる。
エッジから少し離れたところを狙ったので、彼が巻き添えを喰うことはない。狼二匹が体の一部を切り裂かれ、大幅に戦力を削がれていた。
続けて空を舞う蝶々一匹にサンダーを放ち感電させ、眠っている狼と、先ほどの二匹にエアカッターを当ててトドメを指す。
「す、すご! すごーい! リザン!」
パメラの声に明るさが戻っている。エッジは残された蝶々と最後の狼を仕留めにかかっていた。
俺は振り向いてモニカの戦況を確認した。どうやら五分の戦いになっているようだが、巨体のトロルとそこまでやれていること自体、やはり腕が違う。
棍棒の不吉な打撃音を耳にしながら、十メートルほど離れた地点から杖を向ける。狙われづらいトロルの顔付近に、パッと見ではわからない魔法を放つ。
一瞬だが紫の光が奴の視界を襲ったことだろう。戸惑いの表情を浮かべた巨漢は、それでもモニカを殴り殺そうと棍棒を振り上げた。
だが、それは意図しない結果に終わる。
トロルは奇妙な動きで、棍棒を手放してしまった。しかも、両手で棍棒を持ち上げようとするが、動かず焦っている。
「もらった!」
叫ぶモニカの顔にも戸惑いがあった。無理もない。なぜいきなりこのような行動に出るか理解できないはず。
実はこの時、俺はトロルにデバフの魔法オールダウンを使っていた。名前から察せるとおり、全ての能力値を落とす魔法だ。
素早さも落ちている魔物は、急接近してくる剣の舞いを防ぐことができなかった。首を中心としてひたすらに攻撃を浴び、あえなく絶命した。
前を向くと、エッジが残った蝶々を仕留めている。挟み撃ちにされて厳しい状況におかれたが、どうにか勝利することができた。
すると、居ても立ってもいられなくなったのか、パメラがゴーレムから飛び降りてこちらに駆けてくる。そして抱きつかれた。
「リザーン! 良かったぁああ! リザンの魔法のおかげだね!」
「俺だけじゃないよ」
謙遜したものの、こうした反応は悪くない。エッジとモニカもこちらにやってきたが、大人達二人の反応は違っていた。
どこか呆然とした顔になっている。先に口を開いたのはエッジだった。
「……なあ少年、お前の魔法のおかげで助かった。礼を言うんだが……お前、詠唱はどうしたんだ?」
「省略したよ」
「は? 省略?」
経験豊富なはずのお兄さんが驚いている。イリスの話では詠唱なしで魔法を使える者は、この世界ではわりといる……という話だったが。
「それってごく一部の、優れた使い手にしかできないはずよ。しかもあなた……まだ十歳だったわよね?」
モニカも同じような反応をしてる。あまりにビックリしているようなので、こちらとしても落ち着かない気分になってきた。
「そうなんだ。これは教えてもらってできるようになったんだ。他にもできる人は沢山いるんじゃないの?」
「俺たちのギルドじゃ、そんな芸当ができる奴はいねえよ。驚いたなぁ、少年! お前は魔術の天才かもしれないぞ」
「そうね! 君ならもしかしたら、宮廷お抱えの魔術師になれるかもしれないわよ」
宮廷お抱えの魔術師っていうのは、どのくらい稀有な存在だろうか。新しい疑問が湧いた。
まだイリスに聞いていない内容だったので、この後質問してみようと思っていた。
「そうなの! リザンは魔法の天才で、すっごく強いんだよ!」
俺が褒められている姿を目にして、パメラが喜んでいる。あまり持ち上げられるのも考えものだ。
大体の話が終わり、魔物の素材も入手したところで、エッジが再び進むことを決めた。
「よし! じゃあ続きとするか。これは楽しみになってきたぜ」
ただ、その後は少しばかり行き詰まることになる。軽快に洞窟を進んだものの、ほぼ全ての通路を歩いても、メタルビーストは見つからなかった。
「あれ? 大体全部まわったよね。メタルビースト、いなくなったのかな?」
パメラが不思議そうに周囲を見渡す。確かにいなくなった可能性はある。
もしかしたら逃げてしまったのだろうか。
「あれ、これは……」
お目当ての魔物が見つからず、帰ろうかという雰囲気が漂ってきた頃、俺はふと足元に輝く何かを見つけた。
銀色の小さな粒が、いくつか落ちている。
「あら? 何かしら」
モニカもエッジも、それが何かは分かっていない様子だった。こういう時はイリスに聞いてみよう。
腕輪の状態から、スマホのような姿に変わったイリスのカメラを使い、まずは撮影。
「イリスさんを使うんだねっ!」
ゴーレムの肩に戻っていたパメラが、期待を露わにしている。エッジとモニカは不思議そうに覗いていた。
「なんだそりゃ? 魔道具か」
「初めて見るわ」
「あ、うん。そんな感じかな。ちょっとした情報を教えてくれるんだ」
ちょっとした情報どころではないが、あまり騒がれるのも良いとは思えないので控え目に言っておく。
==========
今はサランの洞窟にいる。メタルビーストがいるはずで、奴をずっと探してるけど見つからない。
ただ、こういうものが地面に落ちていたんだ。もしかしたら奴を辿れる足跡みたいなものじゃないかな?
==========
画像と一緒に書き込んだところ、返事はすぐに来た。この回答の早さが本当に助かる。
==========
サランの洞窟にはただいま目撃情報がございます。
そのため、洞窟内に潜んでいる可能性は高いと言えるでしょう。
見つからない場合、通路などに見落としがあるかもしれません。
画像はメタルビーストの古い微細胞と思われます。人間で言えば髪の毛などに近いものとなり、一定の周期で入れ替わっているのです。
画像を見たところ、奥のほうに細胞が残っているようです。
鮮明な画像を送りますので、こちらを参考にして追いかけてみてください。
もしこの後もメタルビーストの行方が分からなくなったら、画像をいただければ再度調べることができます。
探索頑張ってくださいね!
==========
コメントの後、すぐに送信されてきた表示された画像は、俺が送った画像を明るくしたようなものだった。
「まるで足跡だな。辿ってみよう」
エッジやモニカは、イリスの画面を見て戸惑っていた。まあそうなるのも無理はない。
ゴーレムの肩に戻っていたパメラは、こちらを見下ろしてワクワクしていた。
俺はメタルビーストの細胞の跡を辿り、見失ったらカメラで撮ってイリスに聞く、という作業を繰り返した。
そうしているうちに、普通に探索していては絶対に気がつかないものを見つけたのである。




