洞窟前の騒ぎ
とは言ったものの、この小さな旅には誤算がいっぱいあった。
東門には警備兵がいたが、一緒に出ていく人達の連れを装ってみたところ、特に警戒されず抜けることができた。
門を出てしばらく歩いたところで、人混みから静かに離れた俺は、近くにあった岩でストーンゴーレムを作り出した。
ゴーレムに周囲を警戒させつつ、洞窟へと向かう。
サフランの洞窟、という分かりやすい名前の洞窟へは、徒歩で二十分もかからない距離にあった。
時折冒険者達が腕を磨くために入っていく場所らしく、いつも魔物が現れては住み着いているようだ。
念の為、現在はどういった魔物が棲みついているかイリスに確認してみる。
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イリス。サランの洞窟についてだが、現在確認されている魔物を教えてほしい。
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サランの洞窟の状況についてですね!
現在は非常に貴重な魔物であるメタルビーストを筆頭に、トロルや黒狼、悪魔蝶々、人喰い花といった魔物が確認されています。
もし中に入られる際は、充分な準備をしてからの攻略をお勧めします。
サラン周辺についてもっと知りたい場合は、詳細を教えていただければ調査が可能です!
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少し前に聞いていた情報と違う。
実は二日ほど前にも、サランの洞窟については質問していたが、この時に黒狼とか悪魔蝶々という名前はなかった。
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二日前に聞いた魔物とは違う奴がいるみたいだな。
以前いた魔物より強い?
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サランの洞窟ですが、昨日冒険者が探索をした際、住み着いていた魔物はほとんどが倒されたようです。
しかしながら、メタルビーストは取り逃したという報告が確認されています。
また、サランは他地区から魔物が流れてくる時期があり、新しくやってきた魔物が住み着いたと考えられます。
◾️魔物の強さについて
黒狼は通常の狼よりも大きく、鋭い牙や爪を有しています。その一撃は、熊の胴体をあっさりと引き裂くほど。
さらには群れで行動するため、囲まれれば熟練の冒険者や騎士でも命の危険があります。
続いて悪魔蝶々についてですが、人と変わらない大きさを持つ蝶々の魔物です。
眠りの魔法スリープを使いこなすとされ、もし眠ってしまえば殺される可能性が高いです。
総じて二日目に占拠していた魔物達よりも、強力になったことは確かでしょう。
お一人での探索は非常に危険なため、協力者を募るなどをしてからの探索をオススメします!
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これは想定していたより危険だ。
ストーンゴーレムの守りがあるとはいえ、俺一人だけでは殺される可能性が高くなってきた。
そうなると、今日は出直したほうがいいか。せっかくのチャンスだが、死んでしまっては元も子もない。
ここまできて残念だったが、危険性が高すぎると判断した俺は、回れ右して帰ろうと思っていた。
だがその矢先、歓迎できない連中が現れたのである。
まず感じたのは、背後に何かの気配があるということ。今は小さな森に入ったところだった。
振り向いて眼を凝らすが、特別何も見つからない。この時、不意にストーンゴーレムが動き出したのでビクッとしてしまう。
「敵か」
ゴーレムは前のほうへと出て、俺を守るようにしていた。気配は前方から感じられ、やがて姿が鮮明になってくる。
現れたのは、大きな蟹みたいな魔物と、翼を生やした犬のような魔物だった。
飛行魔法を使っていた時、ちらっと目にしていた連中である。
蟹は真っ直ぐにこちらに向かってくることはできないようで、体を横にしながら突っ込んでくる。
翼を生やした犬もまた、吠えながらこちらに飛んできた。
ストーンゴーレムには、主を第一に守るよう命令してある。そのため、蟹の突進を抑えつつ、犬を捕まえようと手を伸ばしていた。
蟹は正面からぶつかり止まったが、犬は大きな手をひらりと抜けて、こちらへと向かってくる。
詠唱をしなくてはいけない状況だったら、恐らく大変厄介なことになっていたと思われる。
俺は焦らず杖を犬に向け、静かに魔法を発動させた。それは風とともに現れ、新緑と同じ色をした刃に変化する。
風魔法エアカッターが、真っ直ぐに犬目掛けて飛ぶ。ギリギリまで引きつけていたせいか、敵は攻撃をかわすことができず、胴体の部分から真っ二つに切り裂かれた。
次は蟹の相手をしなくてはいけないが、ストーンゴーレムと取っ組み合いになっているため、気をつけて対処する必要があった。
普通に魔法を放ったら味方に当たってしまう可能性がある。こうなると遠距離攻撃をする側は迷ってしまう。
でも、意外と攻略は難しくはなかった。取っ組み合い状態になっているゴーレムの体をよじ登り、肩のあたりまできた俺は、横向きになって押し続ける蟹に杖を向ける。
パメラと木登りをしていることが、こんなところで役立つなんて。
意外だなと思いつつ、渾身の火球を浴びせてやった。すると蟹は悶絶しながら、ストーンゴーレムから離れて逃げようとする。
途中で大きな手を自ら切り捨て、身軽になって逃げようとしていた。
ここで俺は、奴に追撃をしなかった。深追いしても何もいいことはない。むしろ洞窟に行ってからが本番だから、魔力は温存しておかないと。
最初の戦闘を切り抜けたが、周りに刺客がいるとも限らない。そう考え周囲を警戒している時、背後から声が聞こえた。
「お、おいおい……一体どうなってるんだ!」
つい最近聞いた声だ。振り向いているみると、やっぱり知った顔だった。
「信じられないわ。あんなにあっさりやっつけるなんて!」
サランの冒険者エッジとモニカだった。それとパメラも一緒である。
俺はまったく想定していない事態になってしまい、苦笑いするしかなかった。
◇
「じゃあ俺たちのことを追いかけていたんですか」
森の中でこれまでの話を聞いたところ、どうやらギルドから去った俺たちが心配になり、後を追いかけていたらしい。
「最初は家に帰ったと思ったんだが、もしかしたらと思って探すことにしたんだ。東門の近くで、お友達を見つけられたのは幸運だった」
パメラが事情を話したところ、エッジとモニカは焦って俺を追いかけて森に向かった。
ただ、後ろから隠れて追いかけてくるパメラには、途中まで気がつかなかったらしい。
「ごめん、ごめんね! どうしても心配になっちゃって」
パメラは約束を破ったことを悔やんでいて、目に涙を溜めていた。でも普通に考えれば、こんな子供が一人で洞窟に向かうなんて言ったら心配で堪らない。
「いや、俺のほうこそ悪かったよ。今回は流石に無茶すぎたし」
そう言いつつ、俺は名残惜しそうに洞窟へと目を向けた。もうお目当ての相手は目と鼻の先にいるはずだったから。
「それにしても驚いたわ。坊や、一体どこでこんな高度な魔法を覚えたの?」
モニカが唖然とした顔で、仁王立ちをしているストーンゴーレムを見上げていた。
「驚いたぜ。まさかたった一人でドッグバードや森蟹を倒すとは。俺たちはあの時、急いで助けに入ろうとしたけど、全く必要がなかった。子供の腕とは思えない」
「あのね! リザンはいつも村の外で、」
「あ、あはは。まあ、いろいろと勉強してて」
ここでパメラがまた村でのことを話そうとしたので、急いで止めた。
そもそも、ファーガソン村からここまで来ました……なんて言ったら、また大騒ぎされる。
これ以上驚かせるのを避けていた時、ふと一つ浮かんだことがあった。雑談をしながら、こっそりとイリスにこう質問してみる。
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サランの町にいる冒険者、エッジとモニカについての情報はある?
簡単な情報だけでいい。
もし一緒に冒険した場合、信頼できる仲間となるか判断するための質問
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サランの町の冒険者、エッジとモニカについてですね。
結論からですが、二人は近隣の冒険者ギルドに所属する人々の中では、とても良心的な人達といえます。
◾️エッジ・アロウズについて
サランの町出身の二十二歳の男性です。
警備兵であるフェリクス・アロウズの三男であり、サランでは有名な冒険者です。
探索、討伐経験は年齢の割に豊富で、かつ町から人命救助で表彰されたことが三度あります。
仲間内からは熱い性格の持ち主と称されており、度胸はありますが無鉄砲な一面もあり
◾️モニカ・リーンについて
コリアンダーの港町出身の二十四歳の女性です。
元々は行商人の娘でしたが、父親が転職することになり、サランに引っ越して七年目となります。
エッジとは二年前から冒険者ギルドでチームとして組んでおり、彼女も同じように三度町から表彰された経験があります。
サランの警備兵達からも一目置かれており、エッジと同じように沢山の人々から信頼を寄せられています。
もし知り合うきっかけがあれば、仲間にできると心強いと言えるでしょう。
他にも知りたい方がいらっしゃる場合は、お名前を教えていただければ調査が可能です!
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この回答には驚いた。AIイリスはこんな情報まで調べられるのか。
前々から疑問だったが、インターネットもないのにどうやって調べられているのだろうか。
これについて以前質問したことはあったが、イリスからは答えられないという回答をもらってしまい、以後結局謎のまま使い続けていた。
とにかくAIの情報的には、危険人物とは判断されていないらしい。なら、物は試しということで、一つ提案することにした。
「ところで、ここまで来たんです。どうせなので、あの魔物を討伐しに行きませんか」




