たどり着いた町
森を超えて山を抜けていく。
すると幾つもの草原や湖があり、パメラは感動して周囲を見渡していた。
いつの間にか隣に座っていた彼女は、やや早めに過ぎ去っていく景色に夢中だ。
「初めてみるものばっかりだよ。とっても楽しい! ねえ、あそこにいるの魔物じゃない?」
「だな。なんかファーガソンの魔物より強そうだな」
ファーガソンの村とサランの中間あたりの地点で、特に魔物が多く確認できた。
ただ、ファーガソンと違うところがあって、サランに近づいても魔物は普通にいる。
大きな蟹の魔物や、翼を生やした犬のような魔物、棍棒を持ったオークといった強そうな連中がうろついている。
思ったよりファーガソン周辺とレベルが違いそうだ。相当気をつけてレベル上げをしないと、あっさり殺されてしまうなんて事態もあり得る。
ちなみにだが、この時していた何気ない話から、俺が外でレベル上げをしていたことがバレた。
とにかく女の子の勘は恐ろしい。
「ずるーい! どうして言わなかったの? あたしもやってみたい!」
予想していたとおりの抗議を受け続けることになったが、俺は適当に誤魔化していた。
気を逸らすように魔物に目をやっていた時、パメラがあっと声を上げた。
「サランって、すっごく大きいね! あそこが正門かな?」
「ああ。イリスに聞いたが、あそこが正門らしい。とりあえずあの近くで降りて、ちょっと散策してみようか」
「やったー! 楽しみ」
ようやく訪れた町は、想像していたよりずっと広大で、その面積をぐるりと石壁で囲っていた。
中世のお洒落タウンという表現がぴったりくるような、レンガ作りの建物ばかり。
俺たち以外にも、飛行魔法を使っている人を二人ほど目にした。身なりからして魔術師のようだった。
ファーガソンとは比較にならないほど、通行人も沢山いた。門の近くに降り立ってみたが、彼らはそこまで俺たちに関心を抱かなかったように見える。
「うわああー! 見てみて、いっぱいお店があるよ。サランって都会だね!」
「ファーガソンとは違うね。ちょっと散策してみるか」
俺もパメラも初めてきた町に興味津々で、ただ歩き回っているだけで多くの発見があった。
石畳でできた道は、綺麗に碁盤の目のように町を区分けしている。
中央には噴水のある公園があり、町役所や図書館、憲兵達の詰め所、本屋にカフェに武器屋に防具屋、道具屋に建築屋に修理屋など、数え上げればキリがないほど店が並んでいた。
裏のほうに行くと、バーが並ぶ繁華街もあるはず。大人になっていれば、夜に酒を飲みに行けたんだけどな、なんて残念な気持ちになっていた。
「ね、ね! あれは何かな?」
「お土産を売っている店だよ。サランはマジック菓子っていう、魔力を癒しつつ楽しめるお菓子が名産品らしい」
「リザンってなんでも知ってるよね。あたし、大人になったらここで暮らそうかなー。あ、ダメじゃん! あたしエルディオンに住むんだった」
「こっちでも劇場はあるぞ」
美術館の近くにやってきたところで、劇場を見つけた俺たちは、ただじっとその建物を見上げるばかりだった。
なんというか、貴族でも住んでそうなほど広く立派な劇場だ。
「わああ! すっごいよね。入ってみたい! ってか劇観たい!」
「昼からはやってないみたいだな」
「ええー」
パメラは心から残念がっていた。まあ大人になれば、観にいく機会はあるはず。だから俺はそこまで執着していなかったが、彼女はその場から離れたくないようだった。
昼間でもいくつか公演はしているようだけど、お金のない二人である。どうしようもなさそう。
「そうだ。俺これから冒険者ギルドに行って、それから経験値稼ぎしてくる。公園の所で待っててくれないか」
「え? ギルド行くの!? あたしも行く!」
「いやいや、危ないって」
「リザンだけでも、危ないよ?」
そんなことはない、と言ってみたがあまり説得力はなく、俺はなんだかんだで押し切られ、結局ギルドに一緒に行くことになった。
サランには冒険者ギルドがあり、この大陸でもそこそこの稼ぎが期待できるらしい。
全てイリスからの知識だったが、これまでの情報に誤りはなかった。俺は自然とAIを信用するようになっていた。
ギルドは繁華街の真ん中に鎮座しており、前世でいうステーキハウスを思わせるような看板が立てかけられている。
二人で恐る恐る中に入ってみると、意外にもギルドの中は広く、ほとんどが酒場だが清潔感があった。
ただ、ギルド内を出入りしている冒険者と呼ばれる連中については別で、男も女も野蛮な雰囲気が滲み出ている。
パメラは急に怖くなったのか、普段より俺にくっついていた。
「お? 随分と可愛い冒険者じゃねえか」
「坊や達、お使いにでも来たの?」
「ミルクはここじゃ売ってねえぞー」
バーカウンターにいる数名の冒険者達が、楽しげにからかってくる。
「こ、こんにちはー」
パメラは俺の服の袖口をぎゅっと掴み、いつもよりおとなしかったが、どうにか挨拶だけは返していた。
俺はといえば、ただ真顔でギルド内の掲示板を眺め、魔物討伐の依頼を確認していた。
今にして考えると、このとき俺だけだったら、冒険者達に突っかかられていたかもしれない。
パメラが荒くれっぽい連中に愛想を振り撒いているので、むしろ絡まれずに済んでいたと思う。知らず知らずのうちに、助けてもらっていたのかも。
掲示板には幾つもの依頼が書かれていた。冒険者の依頼には、大きく分けて二種類がある。
一つは、依頼主に会いに行き、直接頼みを聞いて依頼をこなして報酬を得るやり方。ドブさらいとか、ボディガードとかそういう仕事に多い。
もう一つは、指定された地区に直接向かい、依頼をこなしてギルドに報告するというやり方。
これは魔物の討伐依頼に多い。前者はまず依頼主から認められる必要があるが、後者は大抵の場合、魔物を討伐した証拠を持ってくれば良い。
掲示板を見る限り、AIイリスから前知識として得ていた情報のとおりだった。
「これは……」
「なに? メタルビーストの討伐? あ、すごい! これ銀貨いっぱい貰えちゃうよ。種類と大きさで変わるけど、約五枚から七枚だって!」
俺が目をつけたのは、メタルビーストという魔物の討伐だった。
この魔物はメタル系という種族に属しており、膨大な経験値が得られることで有名だ。
しかも、討伐してメタル素材をギルドに持っていけば、多くの報酬も手に入る。
「俺はこいつの討伐に行くことにする。パメラは待っててくれないか」
「えー、お留守番なの?」
「ああ、外は危ないからね。で、その場所なんだけどー」
パメラは納得しているようだが、残念そうな顔をしていた。ただ、前世でいう小学生の女子を待たせておける安全な場所を確保しなくちゃいけない。
AIイリスに質問しようとしていた時だった。ふと目の前に、二人組の男女が現れた。
「おいおいお兄ちゃん達。もしかしてその歳で、本当に魔物の討伐をするつもりなのかい?」
「危ないから、やめておいたほうが身のためよ。大人よりも怖いんだから」
プレートメイルに身を包んでおり、それなりに戦い慣れしていそうな若い二人だった。どうやら、子供が討伐のために外に行くことを心配したようだ。
「行くのは俺だけです。けっこう魔物を倒してレベルを上げているので、まあ大丈夫かなって。それと逃げ足だけは速いですから」
あえて適当に答える。恐らく二人は引かないだろうし、この後に説教が待っていることだろう。
ここで敢えて逆らわず、俺は納得したふりをしてギルドを去る。そして諦めたふりをして、やっぱり討伐に向かうという流れを考えていた。
でも大人二人は、どうも違う方向に話を持っていく。
「レベルを上げているだって? おいおい、まだ子供だろうに。じゃあお兄さん達と、レベルの比べっこでもしてみようか」
「レベル測定器があるから、測ってみる? 私達は普段、二人から四人くらいで仕事してるの。まだまだ苦労してるけど、けっこう鍛えてるわよ」
要するに、レベル差を見せて現実を知ってもらおうということか。
ファーガソンでは大抵の大人は頭ごなしに怒鳴ってくるけれど、この二人は意外にも柔和な態度である。
それにこの提案は、俺からしても悪いものではなかった。
レベルについては是非確認しておきたい、と考えていたからだ。




