第8話 ゴブリン狩り
村は人口200,小麦と果樹を作り、王都に収めて生業としている。広々とした小麦畑に果樹の木が点在している。ありふれた村だった。ここに数日前からゴブリンが出没し始め、村人は、夜は全く出歩きせず、昼でも子供を屋外に出さないなど極度の警戒を敷いていた。
「よく、おいで頂きました。」村長はくたびれ果てた様子で一行を迎えてくれた。ここ数日のゴブリン騒ぎで夜警にも駆り出され、碌に眠れてないのは確かだった。
「昼間と夜間ではどっちが多く出る」
「それは勿論、夜です。昼間は農作業で男たちも多くは出ており、ゴブリンはめったに出ませんが、夜は大胆になって、畑を荒らしたり、時には民家に押し入って悪さをします。今の所、住民への被害は出てませんが、いずれは出るかと案じています」村長の言葉は深刻な村の状況を現している。
「それでは、夜までゴブリンの出没を待たないといけないな。悪いが、どこかで夜まで待たせてくれ。」
「むさくるしい家ですが、私どもの家でお休みください」
「勇者様が来られるなんて光栄です」村長は涙を流すのではと思うほど感激している。
村長の家は、村では比較的大きいが、裕福でないのは一目で分かった。目ぼしい家具はほとんどなく、板を敷いた床に、椅子が並べられている部屋だ。
「食糧は持参している。食事はこっちでするから、余計な気を回さなくていいぞ」ダンケルは村長に言う。
それでも、村長は精一杯おもてなしをしようと、お茶などだしてくれた。
そんな大人たちのなかで、恵美は手持無沙汰。6歳ぐらいの男の子と目が合う。
ただ、男の子は恥ずかしいのかさっと母親の後ろに隠れてしまう。恵美はそれが残念そうだった。
「遊びたいのか?」礼二が声を掛ける。
「ううん」首を振る。子供の心は揺れ動く。無理には勧めないことにした。
こう言うのは娘の気持ちが一番だと考えていた。
休んでいると日が暮れ、辺りが暗くなる。
礼二は外に立ち、深く息を吸うと、田舎特有の匂いがする。
「視覚と聴覚は格段に鋭くなっている。嗅覚はどうか」鼻の感覚を鋭くする。そこには馴染みの匂いだけだった。
「ゴブリンの匂いがどんなか、知らないが今の匂いと違う物が混じるはずだ」
まだ自分の嗅覚には自信を持っていない。現場、現状を経験しないでは魔物退治など出来ないと考えていた。
外に出て4時間近く経つと、辺りはすっかり真っ暗だ。恵美は家の中で休ませている。
「パパと一緒にいる」と恵美はぐずったが、ここは妥協しない。
「もういつもだと、眠る時間だ。休んでいなさい」
納得しない様子だったが、恵美はしぶしぶ受け入れ、中に入った。
(やはり、連れて来たのは間違っていたか)恵美をこの世界でどのように育てればよいか、悩みは尽きなかった。
そんな思いをして更に2時間近く経った。相変わらず変化はない。
村はすっかり寝静まり、全ての家々は明かりを落としている。起きているのはダンケルと同行してきた兵士だけ。辛抱強くゴブリンの出没を待った。
更に2時間ほど経った時、今までと違う匂いを感じられた。
耳を澄ますと、かすかだが、「#&*$」獣の叫ぶような声も聞こえた。
「来たようですね」ダンケルに告げる。
ダンケルにはゴブリンの気配を感じられないが、素直に礼二の言葉を信じる。
「一人は家に入りエミリ嬢に守れ。残りは俺と一緒にレイン殿と同行する」短く部下に命じた。
礼二は匂いのする方向にそっと歩く。その後ろをダンケルたちも続いた。
「ゴブリン退治はレイン殿に任せます。万一の時は我々も助勢をしますので安心してください」ダンケルは礼二の腕を信頼していた。兵士が3人がかりでも勝てない礼二が、ゴブリンごときで負けるなど考えられない。ただ、礼二が魔物を見たこともないと言っているので、安全のため付いてきただけだ。
そうやって、村の外れまで来ると、闇の中で異様に光る獣の眼を見つける。
「一つ、二つ、・・・」全部で6対の光る眼がある。
(どうするか?)逡巡する。正直、魔物と戦うのは恐かった。
前世では猫や犬のペット以外に触ったこともなく、野獣を倒すなんて考えたこともない。闇夜でゴブリンと戦うことが怖いのは当然だった。
礼二が立ち止まっていると、ようやくゴブリンもこっちに気付いたようだ。
バラバラと駆け寄り礼二を囲んだ。少し離れたダンケルたちには関心がない様子。
囲まれて初めて、礼二も覚悟を決め、剣に力を込めた。
目の前の1匹が飛び出してくる。だが、これはフェイントで、背後にいた奴が突っ込んでくる。
これを礼二は分かっていた。さっと振り向き刀を横に払う。確かな手ごたえとともにゴブリンの頭がグシャリと割れる。そのまま左右払う。腕にはバットにボールが当たったほどの衝撃があった。
そしてすぐさま振り向くと、3匹がぎょっとして固まっている。仲間たちが簡単に倒され、どうしてよいのか戸惑っているのだ。
この機会を礼二が逃すはずもない。すっと近寄り剣を振るった。
「やった」ほっとした。剣を振るったのは5秒もかかってない。ただ、精神的に疲れた。
「凄いですね。暗くて戦いをよく見えなかったですが、見事です」
松明をかざしながらダンケルが感心するように言った。




