第6話 痛いの、飛んで行け
その翌日からもアンドリアンとダンケルによって、魔法と剣術の能力を調べられる。
礼二は火魔法、水魔法、風魔法、そして土魔法全部やって見たが、何も変化はなかった。
「レイン様は魔力がおありだが、魔術の才能はないようですね」残念そうに言う。
その後、恵美のほうに振り返り、「どうでしょう。エミリ嬢にも魔術の才能を試してもらっては?」と言って来る。
彼としては礼二が魔法を使えなくても、恵美に魔法の才があれば、魔法の使える勇者を招聘したことになる。
しかし礼二は「娘はまだ4歳になったばかりです。魔法の検査はまだ早いと思います。」と断る。
(どうも、アンドリアンは国王に媚びるのが露骨だ。恵美に魔法の能力でも見つかれば、国王にアピールすることに利用したいように見える。)親として子供を利用することに与しない考えだった。
その一方、剣術の練習は順調に進んだ。
今日のダンケルは覚悟を決めていた。
(昨日は大勢の者が見ている前で、素人に押されている姿を見せてしまった。今日こそは機能のような失態を見せられない)
彼は得意技の“縮地”を出すことにする。縮地とは空間魔法の一つで瞬間的に移動できるもので、ダンケルはこれに己の身体能力と剣術を組み合わせ、相手との距離を一気に詰め、一太刀を与える技だ。
昨日と同じように3m離れて剣を持って立ち会うと、ダンケルが一気に目の前に飛び込んできた。瞬間移動とも思えるような早業で、あっという間に1m近くまで来ており、そこから鋭く剣が突き出されてくる。
胸元に延びて来る剣。礼二はダンケルの動きをやはりスローモーションのように見えた。縮地は確かに通常よりも10倍以上早かった。だが、礼二の眼にはダンケルの姿が急に飛び込んで来るように見えたのだ。
身体の向きを変えギリギリ躱す。
突きが空振るとダンケルはすぐに剣を横に振る。横殴りの剣も勢いは鋭く、礼二のわき腹に食い込むかに見えた。
だが、礼二はこの太刀も、剣先が鎧にかすり傷を付けた程度で避けた。
連続した早業をあっさりと交わされ、ダンケルは退いて反撃に備える。
彼は”縮地“の技を掴んだことで、王宮随一の凄腕と呼ばれるようになっている。
誰も“縮地”を繰り出されると対応できなかったし、まして初見の者に避けられた記憶がない。
ダンケルは(たまたまレイン殿が避けられたのか?)と思い、再度“縮地”を繰り出す。
が、これも空振りに終わったばかりか、今度は礼二からの反撃を受け、慌てて“縮地”を使い下がるしかなかった。
ダンケルの“縮地”は相手に圧倒的な優位に立てる業だが、欠点もある。それは続けて何度も出すと身体に負担を与え、魔力も保てないのだ。つまり“縮地”は早期決着の技で、ここぞという時に出す決め技だった。2度も、礼二に避けられたことで、ダンケルは敗北を覚えた。
(レイン殿には縮地が通用しない)ショックであったが、彼も武人の誇りを持つ男、潔く負けを認める。
「いやあ、レイン殿はお強い。まさか縮地を避けられるとは想像以上です。私も魔力を使いすぎ、レイン殿も息が上がっている様子。少し休憩しましょう」
礼二にとってもこの提案は嬉しい。礼二はダンケルの縮地をかろうじて見ることが出来たが、ギリギリであったのは確かだ。反射的に体を逸らしたが、急激な動きによって筋肉に過大な負担を与えることになった。腰や左の太腿の裏の筋肉が悲鳴を上げる。軽い肉離れが起きてしまい、彼は激痛でその場にへたり込んだ。
「パパ」すぐに恵美が駆け寄って来る。
「痛いの?」心配そうに言う。
「うん」恥も外聞もなく言うと、「治してあげる」恵美はすっかり看護婦気取りで言った。
「痛いの、痛いの、飛んで行け―!」痛い所に手を置いて言う。
子供のような仕草だが、激痛は嘘のように消えていく。
(やはり、恵美の治癒力は凄い。でもこれ、誰かに気付かれないか?)余りの恵美の能力につい周囲を窺う。
そこには縮地を使いすぎて顔を顰めているダンケルと守備兵。魔力感知に優れているアンドリアンと神官たちは剣術の稽古には興味がないのかこちらに注意を向けてなかった。
(よかった、誰も恵美を子供として扱い、気にしてない。この見知らぬ世界で才能をひけらかすのは、どんな影響が出るか分からない。まだこの世界の事を知り、どのような行動をするのがよいか、見極めるべき。何より恵美の能力だ。この能力を他人に知られるとどんな悪影響がでるか分からない)
すっかり軽くなった体。腰を下ろし、そんなことを考えた。




