第5話 礼二の感想
ダンケルが息を整えている間、礼二は何事もないかのように立っている。
それだけでも異常な光景だった。
ダンケルはこの国でも指折りの剣術家。レインは見るからにど素人の域をでない。
それなのに、結果はダンケルが青息吐息の状態なのだ。
居並ぶ魔導士、近衛兵も「どうなっているの?」と思っている様子だ。
一方の礼二はきょとんとしている。
中高時代、彼は典型的な帰宅部。運動なんて疲れることなくてやりたくない主義だった。だから剣を持たされ、立会いになってもどう剣を振ってよいかも分からない。ただ、ダンケルが剣を振るって来たので、それに合わせ、払うようにしただけだ。それなのに相手は剣を落としてしまった。
(あれ、簡単に剣を合わせただけなのに)そう思った。
その後も、ダンケルが猛然と剣を振って来たが、動きが良く見える。剣を上から、横から振って来るのか、あるいは急に突いてくるのも、ゆっくりとした動作で見える。
だから、至極普通に剣を振るうだけで、ダンケルの剣先を払えたのだ。
(剣術なんてこんなものか?なんか簡単じゃねぇ!)と思ってしまう。
相手のダンケルが一休みをしている間、礼二も自分の身体を確認する。
剣が当たってないので、何処にもかすり傷ひとつない。ただ、腕に少し疲れを覚える。
「パパ!」恵美が駆け寄って来る。
「どこか痛くない?」と可愛いことを聞いてくる。やはり父親と剣士が凄い速さで剣を振るっている姿は心配だったようだ。
「大丈夫だよ。」
「そう?でも恵美が優しくしてあげるね」
そう言って、腕を撫ぜてくれる。すると、さっきまで重かった腕が急に軽くなった。
(あれ、恵美が擦ってくれただけで、腕が軽くなった。もしかすると、恵美には治癒能力があるのではないか?俺に魔法の能力がない代わり、恵美には魔法が出来るかもしれない)ひそかに思った。
周囲を見まわしたが、誰も不思議がる様子は見えない。
その後、2回ほどダンケルと手合わせして一日目を無事に終えた。
昨日と同じ部屋で休み、今日一日の事を考える。
「ふー、何とか一日が終わったか。まあ、ともかく王宮を追い出されずに、済んだのは良かった。今日の魔法は残念の結果だったが、まさか剣術で評価をあげるとはな」独り言が出る。何も知らない世界で、恵美と一緒に放り出されたらどうしようもなかった。今日もここで休めるのは一番の良かったかもしれない。
ずぶの素人が王宮で随一の使い手ダンケルと対等以上に戦えたのは嬉しいことだった。その理由は明らかだ。礼二は相手の動きをしっかりと確認できたからだ。
ダンケルの動きがスローモーションビデオのようにゆっくり見えた。ダンケルの動きが遅いのではない、礼二の視覚能力が高いのは確かだった。
(俺の視覚神経がこの世界では速くなったと言うことなのか?確かに前の世界にいた時よりも遠くのものがはっきり見える。俺は近視気味だったから違いがよく分かる。おそらくだがスローモーションのように見えたのも目の能力が高くなったからとしか思えない。
だとしたら、聴覚も鋭くなっているのではないか。国王と司祭のひそひそ話もはっきりと聞こえた。他の五感もいずれ確認しといたほうがいいな。
それに握力もダンケルより強かったようだ。始めの手合わせでダンケルが剣を落としたのは俺の方が握力は強かったからだろう。他の力も俺の方が強いのか、いずれ確かめよう。)




