第18話 魔狼再び
翌日から魔物退治に草原に向かう。ゼマールの他近衛兵2名、それにルカが付き添ってくれた。
出現した魔物はゴブリンがほとんどで、礼二は順調に退治していく。
ゴブリンだけでは少し物足りないと思っていた時、魔狼が草原に潜んでいるのを見つける。
「狼が4匹、隠れている!」
「狼にしては少なすぎる。まだどこかに潜んでいるかもしれませんね」ゼマールは目を凝らしても狼を見つけられていない。だが礼二の言葉を疑いはしなかった。「剣を抜け、盾を構えろ!」部下に命令する。
「私が目の前の奴らを倒す。後ろで警護していてください」そう言って飛び出す。
魔狼によって兵士が殺された事件もあって、少数でも見逃すことは出来ない。殲滅するつもりだった。
灌木や高い草に潜んでいた魔狼にとって、見つからない過信なのか目の前に飛び込んできた礼二に対応が遅れた。
突進してくる礼二を躱そうと、1匹が身をひねる。これを礼二は見切って、剣を逃げ込む方向に伸ばす。
「きゃーん」鳴き声と共に狼が崩れる。
残りは用心深く、さっと距離をとって低く身構えている。
その時だった。
「パパ。大変!」恵美の声が頭に響く。恵美の肉声ではなく、テレパシーによるものだ。そんなことは初めてのこと。はっとして恵美の方を見ると、恵美を守る護衛部隊が狼の群れに取り囲まれている。
恵美に危険が迫っている。
振り返ると1頭の狼が、鎧の兵の頭上を高く跳び抜けるのを見た。
盾で守っているが、どこかで守備が破られたら、一気にやられる。
「しまった!」別の狼たちが、恵美たちを狙っていた。おそらく奴らは、前回礼二にボスを倒されたのを覚えており、礼二が離れたすきを突いたのだろう。魔物とは思えぬずる賢さだった。
「やられた」魔物に翻弄され、礼二は頭に血が上ってしまう。目の前にいた狼に剣を切りつけ、すぐに反転して恵美の方に駆け出した。
そこからは、ほぼ反射的な行動だ。どのように動いたか、ほとんど記憶がない。
ありったけの力で駆け寄り、剣を振り回し、狼を叩き殺していた。
人間の筋肉は上限以上の力を使うと破断する。だから限度がかかり、限度以上の力が出ないようになっている。この限度を外してしまうのが“火事場の馬鹿力”。
筋肉の上限を超えた力で、走り、剣を振り回した。
礼二自身もどれほど剣を振り回していてかも覚えがない。
気付けば「ぅをーん」どこからかボス狼の声が聞こえ、群れは一斉に去って行った。
たった数分間の出来事だった。狼の群れに囲まれ、兵士たちは必死に盾と剣を構え、魔物と対峙していた。その時、礼二が現れ、見る間に魔狼を打ち倒して行く。猛者ばかりの兵でも、礼二がどう動き、剣をどうのように振るったのか目でも追えない早業だった。
獣の叫び、刃の切断音が途絶え、静かになると、護衛兵の周りには頭や胴体が破壊された6匹の狼が散乱していた。頭はほぼ潰れ、胴体は切断されていた。血だまりが広がり、魔獣の破片が散らばっていた。
「ふうー、間に合ったか」少し離れて礼二は地面に腰を下ろし、息を荒くしていた。筋肉の限度を外してしまい、全身に激痛が走り、もう立つこともできない。
「パパ!」恵美は近くの惨状にも目もくれず走り寄って来る。
小さな手が疲れている筋肉に触れてくる。すると、すっと疲れが消える。
安堵感で全身の力が抜けていた。




