第17話 2回目の砦生活
ひと月、剣術や乗馬の訓練をした後、礼二親子は再び砦に赴くことになった。
今回、ダンケルは同行しない。替わりにベテラン騎士のゼマールが付き添ってくれる。ベテランらしい落ち着いた騎士で、礼二にも敬意を払い同行することを誇りに払ってくれた。勿論、恵美にも優しく接してくれ、道中では何の問題もなかった。
今度の道中は全て、馬の背中だった。先頭にゼマールが務め、真ん中に礼二親子が並べて乗る。
「パパもお馬さんと話が出来るようになったね」礼二の乗馬ぶりを見て恵美が軽口を言う。全く乗馬に関してはもう、恵美が先生並みの腕前だ。
「あはは、何時までも馬とにらめっこしてられないからな」礼二も苦笑で返す。
前世では馬と対話しながら乗るなんて考えたこともなかった。乗馬なんて、車のハンドルとアクセル、ブレーキを扱えばどのようにもできると思っていた。
所がいざ馬に乗って見て分かったのだが、馬はやはり生き物だった。その日の馬の気分で、人間を背中に乗せたくないことなどいくらでもある。
娘の言う通り、馬の気持ちを考えながら、乗る、乗らないでは大違いなのだ。
今になってようやく、今日は馬の気分が良い、悪いを肌で感じられるようになった。そうなると自然に馬に乗っても、力む所が無くなり、筋肉痛に苦しむことも無くなった。
「いやあ、エミリ嬢は乗馬の天才ですな。その年で、馬を乗りこなすなんて考えられない。いずれはこの国一番の騎士になってもおかしくありません」ゼマールもしきりに感心する。
そんな礼二親子の騎乗ぶりのせいか、道中は数匹のゴブリンと遭遇した程度で、無事に砦に着いた。
砦の兵士たちも前回同様、暖かく親子を受け入れてくれる。
「また来ていただいて、有難うございます。レイン殿が魔物を減らして貰えれば、我々の負担も減ります」隊長デオゴーンは嬉しそうに迎える。
「ええ、魔物狩りの経験をするには砦に来るのが一番ですから。また、ご厄介になります」と前世のサラリーマン仕込みの挨拶で応じる。
「前回使われた部屋をそのままにしてありますから、ご自由にお使いください」
この砦の対応も嬉しい。王宮では侍従の者達が世話をしてくれて、何一つ不自由はしなかった。しかし、いつも誰かに見られているようで、息が抜けなかった。だらしない姿勢や恰好を他人から見られることに抵抗があった。従者の一人など、時にはトイレの中まで着いて来ようとした。慌てて「一緒に来なくていい。尻の後始末ぐらいできる」と言って、固く拒否したことさえあったくらいだ。
この砦では、なんでも従者がしてくれる王宮とは違って、自分のことは自分でやらなければならない。でも、それだからプライバシーが守られる。
恵美もそれが気に入っていた。
「私、もうお姉さんだもの、一人でやれる」その声には自立するという決意がある。
この世界に来て、恵美は精神的に大きく成長したように感じられた。




