第15話 乗馬訓練
草原での魔物討伐はその後も続ける。ただ、魔狼以上に強敵に会わず、ゴブリンばかりだった。オークなどの大型の魔獣の出現を期待したが、その気配はなかった。
「草原ではこれ以上の魔物は見込めませんね。かといって、森に入るのはまだ早いでしょう。それに国王陛下にも森には入らないと約束をしていましたので、森に入れないのです。ここでは、これ以上レイン殿の経験にならないでしょう。予定より早くなりますが、王都に戻りましょう」
「分かりました」礼二にとっても異存はなかった。草原で沢山の魔物と戦い、いろいろな経験したことで、自らの実力不足も分かった。この草原で戦い続けるよりも、王都に戻り実力をつけるほうが確かだった。
そう考えたのは砦の兵士が死亡する事件があったからでもある。
魔物が激増するのを防ぐため、兵士たちは砦の外に出て魔物を狩ることもしていた。その中、魔狼の群れに囲まれ、一人の兵士が命を落としてしまった。
礼二は血まみれで運び込まれてきた兵士を見て、考え込んだ。
「俺は、この世界を甘く見ていた。運動神経が他の人よりも優れていると過信して、魔物なんて問題ないと思い込んでいたようだ。魔物の動きが良く見えても、それだけでこの世界を生き抜けると思うのは甘い。狼に囲まれた時。運よく狼のボスを倒せたから良かったが、もし、しくじったら俺も恵美も無事では済まなかった。このことはきちんと考えないといけない」
「ここの世界は甘くないし、いつか元の世界に戻れると思うのも幻想にすぎない。この世界で生き抜き、恵美を育て上げないといけない」
礼二は砦の経験でこの世界で生き抜いていくしかないと考えるようになっていた。ただ、砦の実情を知って、そんな中途半端な気持ちではこの世界では生きていけないように思うようになった。「この世界で生きていくため、この世界の常識や風習なども身に着けないといけない。」それには一からダンケルにこの世界のことを学ぼうとした。
王都に戻り、まず、最初に始めたことは乗馬の訓練だった。
「これから魔物を狩りに行くにしても、馬に乗らなければ遠くには行けないから教えて欲しい」車も電車もないこの世界で移動するには馬が絶対必要だった。
「ええ、いいですよ。みっちりと鍛えてあげます」ダンケルはにやりと笑う。
そして馬に乗り出して分かったのだが、乗馬は決して楽なものではなかった。
馬に乗り、歩くことから始めるが、馬の背に揺られ、体勢を合わせるのが意外と難しい。自分の身体と馬の歩調を合わせるのが大変なのだ。始めの頃、どうして合わせるのかコツが全くつかめない。始めの頃は身体を安定させようと、足腰に力を入れ馬具を強く挟むようにして馬に乗った。だがそれだと、体全体が固くなり一層、馬の上で揺られてしまう。余計な力ばかり入っていた。
初日の一通りの訓練の後、ダンケルが「どうだった?」と笑う。
「思ったより、難しいな」本音だ。
馬の歩調に合わせて、姿勢を保つだけだが、慣れないためか身体に力を入れ過ぎて、腰からら上がカチカチになってしまう。
その後、筋肉痛が思ったより酷かった。
「うー、きつい。」ベッドでうつ伏せになって思わず口から洩れる。
(早く馬に慣れようとしてがんばりすぎたか)反省が頭に浮かぶ。
「パパ。大丈夫?」恵美のサポートはいつもと変わらない。
優しく撫ぜられるだけで痛みが消えていく。
「ありうがとう。おかげで痛みがとれたよ」
「本当?」恵美は自分の力で、礼二の痛みを取り除けたことが嬉しい。思わずにっこりする。
そしてその笑顔を見るだけで、礼二の身体は軽くなるのだった。




