第10話 旅の途中で
礼二父娘は馬車に乗り、レンドン砦に向かっている。砦は王都の北、馬で5日の距離にある。約100キロはあった。
砦の北部には広大なサマレンダル山地広がり、森林に覆われ、砦近くまで伸びている。
理由は不明だが、山地には魔力が多く溜まりやすく、そのため、魔物が多数発生し跋扈する地でもある。
昔、砦周辺にも人が多く集まり、集落を作っていたが、近年、砦周辺までその魔物が押し寄せて、家屋のほとんどは廃棄されていた。
「ねえ、パパ。あそこ見て」恵美が車窓から見える景色に、興味津々で指差す。そこにはヤギがのんびりと草を食んでいる。町はずれとはいえ、日本の都会に育った、恵美にとり異世界の田舎は何もかも珍しい。動物なんて犬や猫しか見たこともなく、ヤギなんて絵本でしか知らない。
「ヤギさんが草を食べている。ねえ、紙は食べないの?」
(それって、童謡の話じゃないか)そう突っ込みそうになるが、子供の夢を壊したくなくて口に出さない。(不思議な子だ。)大人のような訳知りの面を見せたかと思えば、今のように無邪気に振舞う。
砦に行く途中には町や村もあり、宿などを借りて屋根の下で眠れた。だが、砦近くになると集落は減り、夜は野営することになった。
「以前はこの近くに村があったのですが、今は誰もいなくなってます。」ダンケルが気まずそうに言う。経験のためとはいえ、転生してきた勇者をこんな廃墟のような場所に案内してきたのを心苦しく思っている。
しかし恵美はキャンプも初めて、焚火を囲んでの食事に目を輝かせている。
「パパ、お外で食べるなんて面白い。」無邪気にはしゃいだ。
彼女にとって、夜空の下、星を見ながらの食事などメルヘンそのものだ。
(興奮していて、眠れるのかな)と心配するが、寝袋に入ると意外に早く眠ってくれた。
長く馬車に揺られて、疲れていたのだと思う。
「レイン殿親子は仲がよろしいんですね。うちなんか、家に帰っても娘とゆっくりと話すどころか、近寄ってもくれません。」ダンケルが羨むように言う。
「ダンケルさんは仕事一途で、家に帰っても頭から仕事が抜けないのではありませんか。もしかして、家でも剣を握って素振りをしているんじゃありませんか?」
「いや、そんなことまでは・・・」と言いながら否定はできない様子。思い当たることがあるのだろう。
「魔物だ!」夜中、寝ずの番をしていた兵士が礼二たちを叩き起こす。魔物が忍び寄ったら、知らせる仕掛けが鳴っていた。
すぐに恵美や馬たちを庇うようにしてダンケルたちが剣を持って立ちあがる。
それを確認して礼二が一人、魔物を待ち受けた。
「今度の目的はレイン殿にもっと多くの魔物を戦って貰い、経験を積んでいただくことです。」あらかじめ話し合っていたことだ。礼二は前に出るのは当然だ。
ただ、現れた魔物はゴブリンだけだった。
礼二は夜眼が効く。ゴブリンより良く見える。藪のどこに潜み、大木の後ろに隠れた奴まで丸見えだ。手には棍棒か石、どれも怖がる武器は持ってない。礼二は飛び出した。
そして20秒後、足元にはゴブリンが8匹倒れていた。




