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「大丈夫か? 眠たくなったら言えよ。俺が背負ってやるからな」

「ありがとう。まだ大丈夫だよ」

 なんでこんなにも、マヨイに心配されるんだろ。そう思いながら、どこまでも続きそうな森の道を歩いていく。

 図書館を出る時、「本当に大丈夫か? もう少し休んでもいいんだぞ?」とマヨイが言ってきたけど。寝なくても大丈夫そうだったから、予定通り早く出た。

 ……もしかして、それが原因か?

 としょかんさんが笑ってた時のことを思い出していると、隣を歩いてたマヨイの雰囲気が変わった。

 ぼくに背を向けて、周りを警戒している彼の邪魔をしないように黙っていると。

 張り詰めた空気が、震えた。

「伏せてろ!」

 声を聞いて、すぐにしゃがむ。鞘から剣を抜いたマヨイが、走り出す。魔物の姿を見つけられなかったぼくは、手で口をふさいで、マヨイの動きに集中した。

 ……あれは、人間?

「チッ。こんなところにまで花芽が来てるのか!」

 ふと見えたマヨイの顔が、怖かった。カガってのは、よくないんだな。

 マヨイに斬られて、地面に転がったそれは、首から上が大きな花のつぼみになっていた。

 胴体は、人間。

 腕と足は、植物のつるを絡み合わせたもののように見える。


『ミ ツ ケ タ』


 カガの魔力が、空気を打つように震えてる。ただそれだけなのに、ぞわっとした感覚が、走り抜けた。

 ……さ、むい?

 立ち上がって自分の腕を手で擦る。でもまったく、体の震えが止まらない。なにかに見られてる気がして、マヨイを呼ぼうとしたけど、彼はまだもう一体と戦ってる。

 カガ。花の芽。

 つぼみまで成長できるのなら。たぶん最後は、咲く。

 花になったら、どうなる?

「……は、離れよう」

 目の前にいるこの人が生き返ることを想像して、数歩下がった。嫌になるほどの寒さに耐えつつ、マヨイを見ていると。

 彼の剣が、もう一体の花芽を仕留めた。

「マヒル、大丈夫か?」

 すぐに駆け寄ってくれたマヨイに、寒いって言ったら。服の上から、腕を確認された。

「足は? なにかが動いてたりするか?」

「……んん。そういうのは、ないよ」

「マヒル」

「本当、だから。嘘じゃない」

 心配されてることに気付いて、言葉を重ねる。マヨイの手をぎゅっと握って、ぼくを見下ろしてる彼と視線を合わせた。

 マヨイは、ゆっくりと息を吐いてから、どうする? って聞いてきた。

「このまま、前に進むか。それとも戻るか。マヒルは、どっちがいい?」

 そんなの、進むに決まってる。


 花芽がうろついてる森を走り抜けるのは危険。そう言ってたマヨイに背負われたぼくは、全力疾走してる彼にしがみついた状態で、後ろを見た。

 ……なんか、走ってる数が増えてる気がする。

「後ろを見るな! しっかり掴まれ!」

 荷物が邪魔になってきたのか、首から下げてた袋を投げ捨てようとしたマヨイの横から、花芽が飛びかかってきた。

「クソがっ!」

 剣を抜けなかったマヨイは、持ってた荷物を花芽の顔にぶつけた。投げた石みたいに、花芽ごと遠くに飛んでいったのを見て、お兄ちゃんはすごいと思うことにした。

「マヒル、大丈夫だからな? お兄ちゃんを信じろ!!」

「うん!」

 自分のせいで、戦えないとは思ってない。だって今のあいつら、三十人くらいいる。この数を相手にするのは、さすがのマヨイも無理だ。

 ……どうしよう。

 たぶん、今なんだろうけど。魔法の使い方が分からない。

「お兄ちゃん」

「っ、大丈夫だ! この先にある崖であいつらを引き離す!」

「……うん」

 ぼくが聞きたかったのは、としょかんさんが作った魔法道具の頑丈さ、なんだけど……。崖から崖に飛ぶなら、大丈夫なのかな?

 絵本の王子様も、大きなイノシシに追われて、ジャンプしてた。

 ぼくたちを追って来てる花芽の足に、目を向ける。マヨイみたいに動かされてるそれは、なぜそうなってるのかな……。足だから、動く。人間と動物は、そういうものだから、なんとも思わない。

 けど、植物は違う。

 彼らは地面の上を歩けない。

 としょかんさんが、最初に見せてくれた魔法。あれも精霊の力を借りてる。

 精霊は、あらゆるものに宿っているから。彼らの力は、世界を動かすことができる。

 ……世界は、この場所。動かすのは。


 ――落ちるぞ!


「えっ?」

 マヨイの叫び声で現実に戻ったぼくは、崖から飛び降りたことに驚いた。

「うわっ」

 足場を失って、下へと落ちるぼくたちを追うように、花芽たちも飛び出す。でも彼らは、マヨイみたいに止まらず、崖下に叩き付けられて、動かなくなった。

「魔力を固めて作ったものの上に立ってるから、俺らは大丈夫だ」

「……魔力。障壁?」

「守る時はそう言うな。村の大人たちがよく使ってた」

 歩き出したマヨイの足元を見る。固められた魔力が、階段みたいに下へと続いていた。

「マヒル、そっちじゃなくてあれを見ろ。あの街が、イーナコウだ」

 顔を上げる。森の中に、大きな円があるのが見えた。

「本当なら崖を避けて、大回りするんだが。ここからなら、昼にはつくと思うぞ」

 ぼくたちが近付いても、花芽たちは起き上がらなかった。もう大丈夫なのだと、その時になってやっと安心することができた。


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