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「おや。ずいぶんと早起きですね」

 図書館の窓から、としょかんさんが顔を出した。フードを深く被ってる彼は、口しか見えない。だから、いつも通りの笑みだなって思う。

「……寝れないなら、素振りでも見るかって」

「マヨイさんに誘われたんですね」

「見るだけでも勉強になるって、ほんと?」

「ええ、本当ですよ。なにも知らないよりは、生き残れる可能性が高まります」

 マヨイはまだ、彼が来たことに気付いてない。とても古い木の枝を組み込まれた剣を、振るってる。

「ワタクシは、魔法を使います。彼みたいには動けないので」

「ぼくも、無理かも」

 マヨイみたいに筋肉があれば、できるかもだけど……。この体は、素早く動くのも苦手だと思う。

 …………。

 朝の風を感じながら、視線を戻す。こちらのことをまったく気にしてないマヨイは、白の王と戦うことを選んだ。

 だから、彼と一緒に行くぼくも、なにかをしなければいけない。

「魔法なら、ぼくも使える?」

「……そうですね。最初は、見てるだけにしなさい。戦闘に慣れてないマヒルさんがあれこれ動いても、マヨイさんが困るだけ。なんの役にも立てないのだから、余計なことはせず、考えなさい。どうすれば、敵に勝てるのかを。マヨイさんの強さを信じて、考えることを続ければ。いつかきっと、彼の隣で戦っていると思いますよ」

「お兄ちゃんを、信じる」

「マヨイさんは絶対に負けないって」

「……ん、分かった」

 今はまだ、そうした方がいいのだろうと、戦うことを諦める。でも、なにもしないわけじゃない。ここに来る前に見せてくれた、としょかんさんの根っこの魔法。あれを、自力で使えるようにする。

 見たものを、細かく考えれば、ぼくにもできるはずだ。

「マヒルさん」

「なに?」

「はい、どうぞ」

 窓から出された手が、掴んでいるもの。それを、じっと見つめる。

「……板?」

「ワタクシが作った、特別な魔法道具です。これはもうあなたのものなので、触れるだけでいいですよ」

 ガラスみたいに透き通った、薄いそれに触れる。内側に込められていた魔力が動き出して、紫色に輝く様子を見ていたら。浮かび上がった板が、ぼくの手のひらの中に入ってしまった。

「擬似的な恩寵、と考えてください。あなたの中に溶け込んだそれは、あらゆる害を弾く盾となってくれます」

 消えてしまった薄いそれは、目にはもう、映らない。

 とてもきれいだったのにと残念に思うけど、確かにここにあることを感じられる。

「どうか無事に、戻ってきてくださいね」

 窓から出されていたとしょかんさんの手が、部屋の中に戻る。そろそろ、行ってしまうのだろうか。

「異形の主。今の光はなんだ?」

「依頼されていた道具を、マヒルにあげたんです。効果は、この子から聞いてください。それと、いつ出られますか?」

 こちらに来たマヨイが、ぼくを見る。ずっと剣を振ってたからか、マヨイの顔に、汗が浮かんでた。

「……俺は、すぐに出れるが。この場合は止めた方がいいのか?」

「おや。マヒルさんのことは、ちゃんと考えられるのですか。ですが、もう少し早くに気付いてほしかったですねぇ。何時からやってたのです?」

「……四時、くらいか?」

「ふむ。ちなみに今は、七時過ぎです。三時間も休めてない状態で、旅ができるほど。ここの山は優しいですか?」

 としょかんさんと話し始めたマヨイの表情が、なんだか気まずそうになってきた。

「ふぁ……」

 眠くないのに、大きな欠伸が出てきた。次はもう出発かなと視線を戻すと。マヨイが、悪かったって謝ってきた。

 なんでだろ?


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