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ぼくがマヒルになってから、四日目になる直前の夜。としょかんさんが、ぼくの部屋にやって来た。
「こんばんわ。調子はどうですか?」
「大丈夫だよ」
泣きすぎて腫れてしまった目は、ずいぶん前から元に戻ってる。
客室に置かれている椅子に、としょかんが座る。
昨日みたいに、お話をするのだろうか?
「足は、どうですか?」
「痛みはないよ。でも、マヨイの顔が、よくなかった」
見なくていいと、言われて。見てほしくないのだろうと思ったから、視界に入れなかったぼくの足は。湯船から上がってすぐに、白い呪符を巻かれた。
だから、足首から下がどうなってるのかを、ぼくは知らない。
「……。マヨイさんは、立派な精霊師です。精霊の力を埋め込んだ剣を、振るうだけの未熟者ではありません。精霊に感謝を捧げ、その恩寵を得る人は、この千年でかなり減ってしまいました」
「千年……」
「ああ、そう言えば教えてませんでしたね。ワタクシ、森人っていうやつなのですよ」
森人は分かります? と聞かれたから、頷いた。
「絵本にあったよ。植物とか昆虫の魔物で、ものすごく精霊に近い」
「ええ、そうです。正解です。ワタクシたちは人を襲わない生き物なので、魔物ではなく、森人と言われているのです」
笑みを浮かべたまま、両手を合わせる彼は、どこからどう見ても人間だ。
けど、その魔力の在り方は……自然のものに近い。
雰囲気が、花とか木、なんだよね。
目に映るのは、勾玉を身に付けた長身の青年なのに。
「あなたは明日、それも朝早くにここを出るしょう。ほんの少しだけでしたが、どうでしたか? ワタクシの図書館は」
「すごかった」
見たことがないものばかりで、読んでも読んでも、次があるってのが楽しくて。ここまで集めるの、大変だっただろうなって思った。
「としょかんさん。としょかんさんの本当の名前って、なに?」
「名前は、ありません。ですが、花であれば教えられますよ。ボクは――」
ゆっくりと紡がれたその音を、記憶する。ああ、だから紫なのかって納得して。自分だけの、秘密にした。
「マヨイさんには内緒ですよ」
「うん。それは、ぼくが言っていいことじゃない」
自分の中から出てきたこれが、なんなのか。ぼくはまだ、言葉にできないそうにない。けど、魂みたいなものが。そうしないと駄目って言ってる。
としょかんさんが、そっとテーブルに置かれた本を撫でる。
ベットに座ったままのぼくは、月明かりに照らされてるその光景を眺めた。
「長くしゃべってしまいましたね。ワタクシはこれで失礼します。ちゃんと、寝るんですよ」
そう言われてから、どれくらい経っただろうか? としょかんが閉じたドアに、視線を向ける。
なんだが、余計に眠気がなくなってしまった。
……本、読もうかな。
ぼくでも分かる絵本じゃなくて、マヨイたちが読んでた難しそうなものを。
ベッドから起き上がって、どうするかを悩む。
まだ暗い部屋に差し込む月光は、記憶よりも弱くなってる気がする。
「……明日になったら、今日みたいに読むのは難しい」
いつ戻れるかも分からないのだから、いいんじゃない? って。そう思ってしまったぼくは、夜の図書館を歩くため、部屋を出た。
「……マヒル?」
そして、剣を持ったマヨイに見つかった。




