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 カコメ カコメ


 クルリト 囲マレタ 姫巫女

 笑ウハ 国賊


 赤ニ染マル オ月様 夜明ケハ来ヌゾ


 ニクシ ウラメシ 呪イマショウ




 ……ぼくとマヨイの前に立った女の子が、歌ったそれは。とても悲しげな音色だった。

 大きな壁に囲まれた街の、門の前。

 ぼくらはそこで、中に入るための列に並んでいた。

 でも今は、誰もいない。

 空が暗くなって、隣にいたマヨイも消えてしまった。


『キャキャキャキャ!』


 どこからか聞こえる笑い声のような音と、生ぬるい風が、気を抜くことを許さない。

 マヨイに守ってもらってばかりで、戦うことをしなかったから。

 ぼくは、身の守り方を知らない。


『アハ』  『アハハハハ!』

  『イタ……イノ』

 『アタマ』 『ワタシノ……アタ』

『ソーシテ、ヒメミコト』

   『ヨバレタ』

 『ソノ』

     『ヒトハ』

『ニドト、タミヲユルシマセンデシタ』


 赤い月明かりに照らされ、木々を背にしてニタリと笑うそれは、口だけが白い影だった。

 花芽、じゃない。もっと別のなにか。

 村の大人たちが言ってた気がする。

 誰かを、呪っちゃ駄目って。

 黒い影が振り上げた、鋭い刃を見上げる。逃げなきゃって思うのに、体が動かない。

「……マヨイ」

 ああ、そうだ。マヨイに言ってたんだ。

 タタリビトは、人間が生み出した最大の罪である、と。

 刃が落ちてくる。ぼくの顔を切るために。あれを受けたら、きっと助からない。呪われた月の赤が目に焼き付いた時だった。


「離れろこの野郎!」


 ――赤、だった。でもあの月とは違う色だった。

 赤い衣服を纏った、お日様みたいな少女が。ぼくの前にいたタタリビトを蹴り飛ばした。

「まったく。誰だよ、姫巫女のたたり歌を歌ったのは! おかげで二百九十九人が異界入りしちまったじゃないか!」

「ミツバ、違うよ。姫巫女を殺したのは二百七十九人だ。だからこの異界に閉じ込められたのも」

「ああ、もうっ! ヤマト! 細かいことはどうでもいいんだよ! 問題は、どうやって人間たちを助けるかだ!」

「……そうだね。君、大丈夫?」

 いつの間にか近くにいた子供を見下ろす。蝶の羽が生えてる彼と、ミツバチっぽい彼女は、森人なのかな?

「うん。助けてくれて、ありがとう」

「礼はいいよ。それよりお前、一人?」

「今は、一人。お兄ちゃんは、消えちゃった」

「ふーん。どう思う、ヤマト」

「どうって。彼のお兄さんもここにいるってことでしょ。それより、あれが戻ってくる前に逃げるよ。君、名前は?」

「マヒル」

「ん。僕はヤマト。あっちはミツバ。一緒に逃げるよ!」

 彼らの手が、ぼくの胴体に回された。足が地面から離れると同時に、浮いた体が勢いよく前へと進み始めた。

「速度合わせろ馬鹿!」

「合わせてるよ! ミツバ、ちゃんと前を見て!」

 ぶつかりそうになった木が、ものすごい速さで横に逃げた。驚きすぎると、ぼくの声は出なくなるみたい。


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