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「振り切ったか?」

「うん、姿が見えないから大丈夫だと思うよ」

「…………こ、怖かった」

 何度も木にぶつかりかけたのを思い出して、震える。マヨイも似たような感じで走るけど、さっきのあれは、慣れていても駄目な気がした。

 ……マヨイに、会いたい。

 地面に座り込んで、立てなくなってしまったぼくの背中を、ヤマトが撫でてくれた。

「ごめんね、すぐに助けてあげれなくて」

「ほんと、ごめんな。お詫びに私たちも、お兄ちゃんを探してあげるよ。お前のお兄ちゃん、なんて名前?」

「……マヨイ」

「マヨイか。ん? マヨイ? もしかして千年図書館の?」

 ぼくから名前を聞いたミツバが、首を傾げる。図書館は知ってるけど、千年ってなに? としょかんさんの年齢?

「これは、分かってないね」

「異形の主は分かる?」

「うん。お兄ちゃんの知り合い」

「そっか。なら、噂のマヨイだな。異形の主に、弟子ができたのは聞いてたからね。こんなところで弟に会えるとは光栄だ! でも、弟がいるって言ってたか?」

「保護したのは一人って聞いてるよ。でも、違う世界からって異形さんが言ってたから。もしかしたら、この世界の彼、なのかもね」

「なるほど。なんでお前は、弟になってんの?」

「……マヨイが、そう言ったから?」

「悔しくねぇの?」

「ミツバ。そういうのは聞いちゃ駄目だよ」

「別にいいじゃん! ほら、あれだよあれ! 一緒に行動するんだから、お互いのこと知りたいじゃん!」

 キラキラと、ミツバの目が輝いてる。好奇心が強い子、なのかもしれない。

「……ぼくは、過去の記憶がなくて。四日前にマヨイに会ったから、あんまり話せることがないんだ。……ごめんなさい」

 せっかく、興味を持ってもらえたのに。ミツバが知りたがってることを、答えられないかもしれない。

 そのことが申し訳なくて、謝ったぼくに。彼女は、笑うのを止めた。

「記憶がないの? もしかして、未来に来た代償?」

「代償?」

「ちょっと、ミツバ」

 ヤマトが止めるように、彼女を呼ぶ。でもミツバはそれを無視して、話を続けた。

「私たちの知り合いにヒカって子がいるんだけど。そいつ、人間の体を乗っ取っちゃったんだ」

「ミツバ!!」

「大声出すなよ! タタリが寄ってくるだろうが!」

 真顔で大声を出したミツバの代わりに、ぼくが周りを見た。

 敵はまだ、いない。

「で、そのヒカは、その人間の弟に会いに行ったんだ。自分の代わりに、守ってほしいって、その人間に頼まれたらしいんだけど。そいつの弟は、そいつが出稼ぎに行った翌日に病死してたんだって。魔物にやられて、死にかけていた人間の願いを叶えようとしたのに、なんにもできなかったヒカは。人間の体に乗り移った代償を受けた」

「……それは、どんな?」

「分かんねぇ」

「えっ?」

「ヒカのやつ、なんも言わずに消えちまったんだ」

 ぐっと顔をしかめるのを見て、ぼくは、彼女が心配してることに気付いた。

 あと、怒ってることも。

「ミツバ。いくら異形さんの知り合い……いや、弟子なのかな? この子にそこまで言うのはよくないんじゃ」

「うるさいな。言われたくなかったんなら、私の口を塞げばよかっただろ」

「えっ、女の子にそんなことできるわけないだろ!」

「あ? 私をそこらの女と一緒にすんな! めっちゃ強い女なんだよ、私は!」

 顔が真っ赤になったヤマトと、ミツバの横にある木々の間。それなりに離れてるそこから、見覚えのあるものが顔を出した。

「あっ」

「「んっ? って、花芽!?」」

 呼ばれたのが嬉しいのか、肩を震わせた花芽の腕が。鋭い槍みたいに彼らの前へと打ち出された。


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