12
花芽が打ち出した、腕だったものは、ヤマトの風魔法が吹き飛ばした。
「なんで花芽がいるんだよ! しかも私たちを攻撃したぞこいつ!」
「ここの姫巫女に、人間だって思われてるんじゃないかな。異界の中は、その主の支配下にあるから。なにが起きても、受け入れるしかないよ」
羽を動かして、宙に浮かび上がったヤマトに目を向ける。彼らは、なんの関係もないぼくを助けてくれた。
優しくしてくれた。
マヨイを、探してくれるって言ってくれた彼らに、ぼくはなにができる?
「……花芽も、国賊になってるの?」
門の前で聞いた、歌。それが頭の中に出てきた。
「なんで国賊って分かるんだ? それは、話してない、よな?」
「うん。僕らは、言ってないはずだよ」
目を丸くしてる二人は、ぼくよりもたくさんのことを知ってる。だから、ぼくが見たことを知ったら。ここを出る方法を見つけられるかもしれない。
「門の前で、女の子が歌ってた。すぐに近くにいたから、覚えてる。目が夕日色で、花の飾りを頭に付けてた」
「……はっ? ヒカが?」
「ミツバ!」
叫んだヤマトの視線を追う。花芽の腕が、元に戻ってた。こちらに向けられたそれは、ぐるぐる回ってて。また、飛んでくることが分かった。
「マヒル。その髪飾りって、白か? オオシマザクラか?」
「ちょっと! 僕だけじゃ倒せないよ!」
ぼくの肩を掴んだミツバの後ろで、悲痛な声が響く。でも彼女は、知りたがってる。
あの女の子が、ヒカなのかを。
「白、だったよ」
花の名前を知らなかったぼくは、自分が見た色を、ミツバに教えた。肩を握ってる彼女の力が強くなって、一気に抜けた。
「……ごめん。教えてくれてありがとな」
痛みを我慢してるような、顔で。お礼を言われた。揺れてる瞳が、手が、離れていく。
地面から浮かび上がってたミツバが、ヤマトの横を通り過ぎて。彼女の背中が、どんどん遠くなっていく。
ぼくの中で、忘れていた記憶が、弾けた。
『おばあさま! おばあさまどこー!』
どこかで見たことがある少年が、黒い炎に覆われた森の中にいた。
ボロボロと涙をこぼして、ぎゅっと服を握った彼は、足元にいるぼくを見なかった。
黒い炎に触れてしまった花が、世界から消えていく。ぼくも、王の炎に焼かれて、消えてしまうのだろう。
……ぼくが死ぬのは、どうでもいい。
だけど、この子だけは。
『おばあさま!』
すぐ近くにいた少年が、走り出す。小さな背中が、どんどん遠くなっていくのを、見てることしかできない。
――行っちゃ、駄目。
手を、伸ばしたかったことを思い出す。ここから動きたかったことも。
白っぽい灰色の髪の少年。
ぼくの、大切な――。
「マヒル!!」
耳へと届いたその声で、意識が戻った。いつの間にか隣に来てたもう一人の花芽が、ぼくを見下ろしていた。
肩から腹に、大きな線ができたと思ったら。そこが開いて、花芽の口になった。
『アナタ、ニンゲン?』
なにかを話してるかのように、魔力が空気を震わせてる。
彼らの言葉を、ぼくは知らない。
なにも分からない。
……なのに、なんでだろ。このまま食べられてしまいそうなのに、まったく恐怖を感じない。
『ワカラナイ。クロノニオイガスルケド、ニンゲンナノカナ?』
開きそうになってる花を見つめる。
こてんと首を傾げたそれは、ゆっくりと腕を振り上げた。
「やめろー!!」
風みたいに飛んできたヤマトが、ぼくの頭を抱きしめた。小さな胸にぎゅっと押し付けられて、なにも見えなくなってしまったけど。
――音を、聞いた。
壁を叩くような、大きな音。
としょかんさんが作った魔法道具が、ぼくらを守ってくれたみたいだ。
「そいつらから離れろ!」
ミツバの声と、風を切る音。それから、重いものが転がってる。
ぼくを抱きしめていたヤマトが離れてすぐに、そっちを見ると。木にぶつかったらしい花芽が、動かなくなってた。
「どうする、逃げるか?」
「逃げた先にもいたら、囲まれちゃうよ!」
「じゃあ戦うのか?」
「勝てる?」
「私だけじゃ無理」
今の音を聞いたのか、暗い森の中から花芽の頭が出てきた。ゆっくりと歩き出してるその数は、少ない。
でも、簡単に倒せないことを知ってるから、なんの安心もできなかった。
『キャキャキャキャ!』
……タタリも、来ちゃったみたいだ。




