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 花芽が打ち出した、腕だったものは、ヤマトの風魔法が吹き飛ばした。

「なんで花芽がいるんだよ! しかも私たちを攻撃したぞこいつ!」

「ここの姫巫女に、人間だって思われてるんじゃないかな。異界の中は、その主の支配下にあるから。なにが起きても、受け入れるしかないよ」

 羽を動かして、宙に浮かび上がったヤマトに目を向ける。彼らは、なんの関係もないぼくを助けてくれた。

 優しくしてくれた。

 マヨイを、探してくれるって言ってくれた彼らに、ぼくはなにができる?

「……花芽も、国賊になってるの?」

 門の前で聞いた、歌。それが頭の中に出てきた。

「なんで国賊って分かるんだ? それは、話してない、よな?」

「うん。僕らは、言ってないはずだよ」

 目を丸くしてる二人は、ぼくよりもたくさんのことを知ってる。だから、ぼくが見たことを知ったら。ここを出る方法を見つけられるかもしれない。

「門の前で、女の子が歌ってた。すぐに近くにいたから、覚えてる。目が夕日色で、花の飾りを頭に付けてた」

「……はっ? ヒカが?」

「ミツバ!」

 叫んだヤマトの視線を追う。花芽の腕が、元に戻ってた。こちらに向けられたそれは、ぐるぐる回ってて。また、飛んでくることが分かった。

「マヒル。その髪飾りって、白か? オオシマザクラか?」

「ちょっと! 僕だけじゃ倒せないよ!」

 ぼくの肩を掴んだミツバの後ろで、悲痛な声が響く。でも彼女は、知りたがってる。

 あの女の子が、ヒカなのかを。

「白、だったよ」

 花の名前を知らなかったぼくは、自分が見た色を、ミツバに教えた。肩を握ってる彼女の力が強くなって、一気に抜けた。

「……ごめん。教えてくれてありがとな」

 痛みを我慢してるような、顔で。お礼を言われた。揺れてる瞳が、手が、離れていく。

 地面から浮かび上がってたミツバが、ヤマトの横を通り過ぎて。彼女の背中が、どんどん遠くなっていく。

 ぼくの中で、忘れていた記憶が、弾けた。


『おばあさま! おばあさまどこー!』

 どこかで見たことがある少年が、黒い炎に覆われた森の中にいた。

 ボロボロと涙をこぼして、ぎゅっと服を握った彼は、足元にいるぼくを見なかった。

 黒い炎に触れてしまった花が、世界から消えていく。ぼくも、王の炎に焼かれて、消えてしまうのだろう。

 ……ぼくが死ぬのは、どうでもいい。

 だけど、この子だけは。

『おばあさま!』

 すぐ近くにいた少年が、走り出す。小さな背中が、どんどん遠くなっていくのを、見てることしかできない。

 ――行っちゃ、駄目。

 手を、伸ばしたかったことを思い出す。ここから動きたかったことも。

 白っぽい灰色の髪の少年。

 ぼくの、大切な――。


「マヒル!!」

 耳へと届いたその声で、意識が戻った。いつの間にか隣に来てたもう一人の花芽が、ぼくを見下ろしていた。

 肩から腹に、大きな線ができたと思ったら。そこが開いて、花芽の口になった。

『アナタ、ニンゲン?』

 なにかを話してるかのように、魔力が空気を震わせてる。

 彼らの言葉を、ぼくは知らない。

 なにも分からない。

 ……なのに、なんでだろ。このまま食べられてしまいそうなのに、まったく恐怖を感じない。

『ワカラナイ。クロノニオイガスルケド、ニンゲンナノカナ?』

 開きそうになってる花を見つめる。

 こてんと首を傾げたそれは、ゆっくりと腕を振り上げた。

「やめろー!!」

 風みたいに飛んできたヤマトが、ぼくの頭を抱きしめた。小さな胸にぎゅっと押し付けられて、なにも見えなくなってしまったけど。

 ――音を、聞いた。

 壁を叩くような、大きな音。

 としょかんさんが作った魔法道具が、ぼくらを守ってくれたみたいだ。

「そいつらから離れろ!」

 ミツバの声と、風を切る音。それから、重いものが転がってる。

 ぼくを抱きしめていたヤマトが離れてすぐに、そっちを見ると。木にぶつかったらしい花芽が、動かなくなってた。

「どうする、逃げるか?」

「逃げた先にもいたら、囲まれちゃうよ!」

「じゃあ戦うのか?」

「勝てる?」

「私だけじゃ無理」

 今の音を聞いたのか、暗い森の中から花芽の頭が出てきた。ゆっくりと歩き出してるその数は、少ない。

 でも、簡単に倒せないことを知ってるから、なんの安心もできなかった。

『キャキャキャキャ!』

 ……タタリも、来ちゃったみたいだ。


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