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天幕を支えていた土の柱が、地面の中に沈んでいく。マヨイが手を合わせたのを見て、ぼくも感謝を捧げた。
移動するのための準備が終わって、としょかんさんの本体? がいる場所に向かった数時間後。とある問題が、ぼくを襲う。
「大丈夫か?」
「…………足が、痛い」
マヨイと違って、ぼくの足は長く歩けなかったみたいだ。血が出てるんじゃないかって思うほどに、靴の中がぬるぬるしてる。これは、言わない方がいいかも。
「ほら、俺に乗れ」
こちらに背を向けた状態で、地面に膝をついてくれたマヨイに乗っかる。本当は、すごくいやなんだけど……。歩けないのに我儘を言うのは、駄目な気がした。
「……マヒル。俺になにか、隠してないか?」
ぼくを背負った状態で歩いてたマヨイが、なにかを言ってる。眠たくて、ぼんやりしてたぼくが目を開けると。無表情のマヨイが、視界に飛び込んできた。
思わず、ビクッと跳ねる。
背中から落ちそうになったぼくを、きれいに抱え直したマヨイが、呟く。
「……寝てたのか」
彼の表情は、まだ冷たい。なにかに怒ってることが分かっても、寝落ちしかけてたぼくの記憶に、怒らせるようなことが残ってなくて。どうすればいいんだろ……と、マヨイの羽織りを掴む。
「マヒル。俺になにか、言ってないことはあるか?」
言ってないこと、なんだろ……。
「……あっ」
「やっぱりあったか」
「靴の中がぬるぬるだった」
重いため息が、マヨイの方から聞こえる。「しっかり掴まってろよ」と言われて、彼の前に出した腕に力を入れる。マヨイの首に頭をくっ付けていると、ぼくの足から靴が取れた。
「これは、相当痛いだろ」
歩けなくなった時は、痛かった。でも、今は平気。そんなことよりも、眠たい。靴下を捲っていく彼の指を感じながら、心地よい眠気にうずくまっていたぼくの耳に、息を呑む音が届いた。
「……お兄ちゃん?」
なにかを取り出してるらしいマヨイの手が、ぼくの足になにかを巻いた。感触からして、紙だと思う。村にいた精霊師も、呪符を作ってた……はず。
両足に紙を巻かれたぼくの足に、靴が戻る。
荷物を持った腕に、抱え直されたぼくは、いきなり走り出されたことに驚いた。
「うわっ!」
眠気が飛ぶ。ぱっちり開いた目には、すごい速さで通り過ぎる景色が映って。マヨイの白っぽい短髪が揺れてる。
「口は閉じてろ。魔物の気配がするから、急いでここを抜ける」
魔物……。ぼくを、襲ってたかもしれないやつ。人を、土の中に埋めるのなら。気付かれないように黙って通り過ぎた方がいい。声を出さないように口を閉じて、この時間が少しでも早く終わってくれることを願った。
昼ごはんを軽く食べたあと、またマヨイに背負われた。明るかった空が夕焼け色に染まって、森の空気が一気に変わった瞬間。景色が動かなくなった。
「よし。ここからなら大丈夫だ」
背中から下ろされて、自分の足で立つ。
ずっと走ってたマヨイのたっつけ袴が、土だらけになってた。
「足、痛くない?」
「俺は慣れてるからな。十年も旅をしてるやつと、してないやつじゃ、違いは大きいぞ」
頭を撫でられる。羽織の下にある薄茶色の半着が、汗で濡れているのが見えた。
「じろじろ見るのは失礼になるぞ」
「……ごめん。ぼくを背負ってくれて、ありがとう」
頑張って走ってくれたマヨイに、感謝を伝えると。嬉しそうに目を細めて、笑ってくれた。
「図書館まであと少しだ。行こう」
差し出されたマヨイの手をしっかりと握って、花の香りがする道を進む。伸びる木の影が、地面に埋まってる石の道にかかって。とても不思議な空間を作り上げていた。
コツ、コツ。足音が変わる。
木に絡まってる蔓の輪っかに、白色の光が灯り始めた。
……そういえば、としょかんってなんなんだろ。
ぼくたちを包み込むように、柔らかい魔力が地面から浮き上がってきた。足を止めそうになるぼくに、マヨイが「大丈夫だ」と手を引っ張る。
また、勘違いしてるみたいだ。
『――待っている』
ここに来るのは、初めてなはず。なのにとても、懐かしい。
『まだ、会う時ではない』
自分の魔力に近いものを感じながら、どこかで聞こえる自然の音を聞く。マヨイと一緒に足を止めたぼくらの前で、大きな建物のドアが開いた。
「ようこそ、ワタクシの図書館へ。まさか、一日で来られるとは。客室の準備はできてますので、マヨイさんは体を休めてください。マヒルさんは、ワタクシとお話をしましょうね」
にこりと、フードから見えてる口が笑う。紫色の長衣を纏うこの人が、としょかんさん、なのだろうか?
白い勾玉を首から下げてる青年と、なぜか目があった気がした。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。毎週土曜日に、まとめて投稿できるよう頑張っていきます。




