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――朝の、光だ。
眠気が溶けるように消えて、天幕の隙間から見えるそれを追いかけ、外に出た。
木々の葉から見える空は、まだ少しだけ、暗く感じる。
でも、光が気持ちよかった。
「おはようございます」
「……?」
足元から聞こえてきたその声は、マヨイじゃなかった。だから、下を見た。土から出てる白い根っこが、ゆらゆら揺れてる。
「おはよう? 君も、光を浴びてるの?」
マヨイも驚きそうな根っこだけど、彼の姿はどこにもない。ぼくよりも早起きだったらしい彼は、どこに行ったんだろ。
「あなたのお兄さんは、水をくみに行きましたよ」
「……そっか。そういえば、マヨイがお兄ちゃんだったね」
いろいろあって、忘れてた。
自分の胸に、手を当てる。息を吐きながら、目を閉じてみた。あの時の感情は、深いところに沈んでるみたい。
「彼が兄なのは、いやだ?」
「んん。どっちでもいい、って感じかも。ぼくは、筋肉とかないから……。弟の方が楽かも」
「か弱そうな子が、実は兄だった、というのはよくあるお話だよ。でも、そうですね。年齢、人生経験。そういうのを考えたら、君が弟だ」
話をしてくれる、根っこの前に座る。魔力が動いてるのを感じるから、たぶんこれは、魔法。力を貸してるのは、木の精霊かな……? なんとなく、花っぽい感じもするけど、どうなんだろ。
「ふふ。そういえば、言ってないですね。初めまして、マヒルくん。ワタクシは図書館の主をしているものです」
「……としょかん」
「マヒルさんたちは、異形の主と呼びますね。どちらで呼ぶかは、マヒルくんに任せます」
ぼくが決めていいらしい。なら、こっちかな。
「としょかんさん」
「……ふふっ」
一緒に光合成してる根っこが、笑う。上手に先を丸めて、背中部分を震わせている彼のことを、じっと眺めた。
なんとなく、見ていたいと思った。
――それでは、また。
ぼくにそう言った、としょかんさんが帰っていく。話し相手がいなくなってしまったぼくは、さっきよりも明るくなった空を見上げた。
でもそれは、長く続かない。
マヨイの足音が聞こえてきたからだ。
まだ、遠いけど。確かにあれは、マヨイだ。木の桶を二つ握って、歩いて来てる彼の表情が驚いてる気がする。
「もう起きたのか。まだ寝ててよかったのに」
「マヨイ、お兄ちゃん。おはよう」
「……!?」
あっ、さっきよりも目が丸くなった。そんなに驚くこと、なのかな。見てて楽しいけど、同じ言葉がほしい。
「お兄ちゃんは、言ってくれないの?」
「……えっ、ああ、悪い。おはよう。……マヒル」
優しい声と目で、そう言ってくれた彼に、頷く。ぼくにくれたこの名前が、誰かのものだったとしても、今の自分には関係ないから。素直に喜ぶことにした。
「マヒル。この辺は俺の知り合いが守ってるから、魔物が寄ってくることはあんまりない。だけどな、お前を襲ったやつがいるかもだから、次は一人で動くなよ」
「ん。分かった」
朝ごはんを作り出したマヨイの近くに座って、ぼんやりと時間を潰す。包丁でなにかを切ってるマヨイの横顔を見つめたり、空を眺めたりしてたぼくを、マヨイが褒めてくれた。
「食べ終わったら天幕を片付けて、図書館に向かう。さっき話した、俺の知り合いが管理してるところだ。ここからだと、二日くらいになる」
……としょかん。頭の中に、あの根っこが浮かび上がる。木の根っことかがたくさんある場所、なのかな?
薄く切ったパンと一緒に、山菜をかじる。
口の中に広がる匂いがふきのとうに似ていて、誰かのことを、思い出す。
その人も、穏やかな雰囲気だった気がする。
「苦すぎるか?」
「……大丈夫。なんか、おばあさま、の……?」
自分の口から出た言葉を理解しきれなくて、会話が止まってしまう。困ってしまったぼくを見たマヨイが、スープを指差した。
「今日のそれも、自信作だ。冷める前に飲んでくれ」
透明感がある茶色っぽい水に、小さなお肉が沈んでるそれを、口にする。
そこまで見てから視線を外したマヨイは、なにも言わない。
聞かれなかったことに、安心してしまった。
「天幕の、柱って。魔法?」
「ああ。土の精霊にお願いして、作ってもらったものだ。だから布を外して、元に戻してから、ちゃんと感謝するぞ」
「……土の精霊に?」
「ああ。ここで寝かせてもらったからな」
そういうもの、なんだな。




