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その歌のことを、すぐに思い出せなかった。恩寵のおかげで疲労を感じない自分と違って、弟のマヒルは体力を消耗する。
だから、森人の少女が歌っていても。マヒルしか見ていなかった。
歌の危険性に気付いたのは、最後の部分を聞いたから。
止めるにはあまりにも遅すぎて。
……なによりも大切な弟を、奪われてしまった。
「死ぬ覚悟があるから、それを歌ったのか?」
弟がどこに行ってしまったのかを知っていたマヨイは、なぜかここに残った少女を睨み付けた。
漆黒色の髪に、白い花飾りを付けた少女は。マヨイの手が剣を握っても、笑みを崩さなかった。
「ふふ、あはは。飛花落葉のように、どちらも終わりへと向かいましょう?」
楽しそうに笑う。儚げなその声で。生前の姫巫女も、こんな姿だったのだろうかと思える美しさだったが……。
今のマヨイには、そのほとんどが見えていなかった。
ぐつぐつと湧き上がってくる、怒り。それを抑え込む冷静さが、たった一つのことをはっきりとさせていた。
――あれを殺さないと、弟が死ぬ。
姫巫女のたたり歌。
まだ、マーリア村が存在していた時に生まれ落ちたその呪いは。歌ったものを殺すか、タタリを殺すかのどちらかをしなければ、解くことができない。
修行を重ねた、最上の精霊師であっても。歌の効果を消すことができなかった。
タタリビトは、人間が生み出した最大の罪である。
(……父さん。どうか、マヒルを守ってくれ)
人の気配が消えた、街の前。誰もいない門のところで、マヨイは息を吐いた。
敵はまだ、動かない。
その手にはなにもない。
だが、油断は駄目だ。魔法だけじゃないかもしれないのだから。
父親の形見を強く握り、前へと踏み出した。攻撃は、ない。魔力が動いてる気配もない。腕すら動かなさい少女の首を、切り落とそうとしたマヨイの視界に、白いものが映った。
それは、桜に似た形の、短刀だった。
「っ!」
マヨイの方へと飛んできた刃を、剣で弾く。
「落ちてしまうの? 儚いわね」
なにが、儚いだ。いつからそこにあったんだ。魔法で作ったものじゃないのか? と思ったが、少女の周りに次々と現れるのを見て、思考するのを止めた。
魔力は、感じていてる。
けれどまったく、動いてない。
その理由がなんなのか、気にならないわけじゃないが。マヨイは、動くことを選んだ。
異界の中にいるマヒルが、まだ生きてると信じて。




