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200. 新たな結びつき(第三者視点)

「何をやってやがるんだ、馬鹿どもが! 馬車もまともに襲えねぇのか!」


 スキンヘッドの男の怒声が、薄暗い部屋に響く。男の名はキルケン。かつてブルスデンのスラムに巣食っていたギャングの一党のボスであった。今は、他のギャングの残党も吸収して、一大勢力を築くならず者たちの長となっている。


 あの日のことをキルケンは一日たりとも忘れたことはない。突如踏み込んだ衛兵どもにスラムを追われたのは、屈辱の極みであった。


 しかも、事件の発端となった子どもが、いまや旧スラムの区長代理に収まっているという。完全に逆恨みだが、キルケンはその子ども――ロイを激しく憎むのはある意味自然の流れだった。


 だが、同時に好都合だとも思っている。うまく復讐を果たせば、以前よりも発展した根城が手に入るのだ。しかも、かつてよりも安定した立場で。


 以前は乱立するギャングの頭の一人でしかなかった。しかし、ブルスデンの根城奪還を名目に組織をまとめた今、トップはキルケンただ一人。あとからくちばしを突っ込んでくる者がいても、キルケンの功績は揺るがない。ブルスデン一帯に影響を及ぼす大ギャングの頭の座が手の届くところにあるのだ。


 さあ、準備は整ったと、旧スラム奪還に向けて動きはじめたが、これがなかなかうまくいかない。


 所詮子どもの統治だ。つけ入る隙はあるはずだと手下を派遣してみたが、何のせいかもなく叩き出される始末。住人の結束は固く、賄賂も脅しも通用しない。おまけに、逃げ帰った手下はネズミが怖いとかわけのわからないことを言って、腑抜けてしまう。


 これはまずいと考えて、キルケンは作戦を切り替えた。街を出入りする商人を狙おうとしたのだ。ちょうど、領主代理の肝いりで、新しい馬車の運行がはじまったと聞いた。メンツを潰すためにも、そいつを襲ってやろうと手下を送ったのが、帰ってこない。監視につけていた部下によれば、返り討ちにあって捕まってしまったらしい。


「そうは言っても、あれは無理ですぜ、キルケンさん」


 その監視役であった男がとりなすように言った。男はブルスデンの頃からの部下で、キルケンがもっとも信頼している者の一人だ。その男が言うならと、キルケンは怒りをどうにか抑えて、続けろと視線で促した。


「馬車とか言ってますが、ありゃまったくの別物ですぜ。まず、馬がひいてません」

「はぁ? それでどうやって走るんだよ」

「さぁ。ですが、区長代理といえば付与術師って噂ですぜ」

「ああ、そうだったな! ちくしょう!」


 旧スラムで襲撃を受けたときの衛兵たちの力は異常だった。それが、区長代理の付与の力だったとはあとで噂に聞いた話だ。その噂が事実だったとしたら、馬車にも特別な力を付与した可能性は否定できない。


 ただ、だからと言って手を退くわけにはいかない。復讐心もあれば、欲もある。しかし、それ以上にギャングとしてのメンツが重要だ。ここで退くようでは、不甲斐なしとトップの座から引きずり降ろされてしまうことだろう。そんなことを許容できるわけがない。


「そんだけ凄ぇ馬車なら、うちが手に入れたいところだなぁ」

「一応、客として潜り込めないか探らせてみました」


 ほうとキルケンは感心する。指示する前から動く優秀さが、キルケンが男を優遇する理由である。しかし、男の表情は芳しくはなかった。それが残念ではあったが。


「厳しいか」

「へい。まだ、乗員数が限られるってんで、予約制のようで。ロルレビラ商会が受付の審査をしてますが、縁のある商会や、自分の傘下の人員を優先しているようです」


 ロルレビラ商会が予約を管理しているとなれば、ギャングの手下が接触したところで予約はとれない。あそこは区長代理の息がかかっている。それに、旧スラム出身者が多く在籍しているから、正体がバレるのもまずい。正規の方法で馬車に乗り込むのはむずかしいと言わざるをえない。


「だったら、どっかの商人を脅すか。適当に人質をとって、手下を商会員として送り込めばいけるんじゃねぇか?」

「ですかね。ロルレビラ商会に近い商人だと露見の恐れがありやすが……まぁひとまずやってみます」


 なんとか道筋がついたと、キルケンが満足げな笑みを浮かべたときだった。キルケンと部下しかいない部屋にパチパチと手を叩く音が消えてきたのだ。


「ははは。なかなか優秀じゃないですか。これは思わぬ収穫だ」

「誰だ!」


 キルケンが暗がりに向かって誰何する。すると、影から滲むように男が現れた。まだ少年と言っていくらいの男は、キルケンに凄まれてもにまにまと気味の悪い笑みを崩さない。


「まぁ、そう警戒しないでください。私は、とある尊き方に仕える身ですから名乗ることはできませんが、あなたたちの味方ですよ」

「味方だとぉ?」

「はい。敵の敵は……という奴ですね」


 その言葉を信じたわけではない。しかし、興味を持ったのは事実だ。キルケンは武器を手にした部下を制して、突然の訪問者の意図を探る。


「それは、敵ってのはあのガキのことか?」

「そういうことです。私どもも、アレには思うところがありまして。ですが、立場上表立って動くことはできないのです」


 なるほどとキルケンは思った。スラム出身のガキが特区の区長代理として大きな顔をしている。それが我慢できない者も少なくはないだろう。どこぞの貴族の使いかとキルケンはあたりをつけた。


「それで味方ってのは?」

「武器の提供などはどうでしょうか? たとえば、一見武器に見えない武器などもご用意できますよ」

「……面白いじゃねぇか」


 いったいどこから聞いていたのかと不快になるが、その申し出は悪くない。キルケンは謎の訪問者と手を結ぶことを決めたのだった。

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