199. 人身事故!?
鉄道の運営が早くもはじまった。
あ、もちろん、“亜空間収納”バージョンではないよ。あれはリックが身を以て快適性の検証をしてくれたので貨物車として運用することになった。
人を乗せるのはまた別バージョン。ちょっと長めの車体に2人座り用のシートを10列並べたものを客車として用意したよ。
一気に話が進んだのは、鉄道の整備や運転がすべてロボ君たちでやれることが大きかったみたい。それでも運行スケジュールや料金の告知、注意事項の周知徹底とやることはたくさんあるはずだけど、そこはカールさんがはりきった。特区の住人を動員してやりきったみたい。そのおかげか、まだ運行開始から十日と経ってないのに乗客数が100%を超えたって報告を受けてる。
100%超えってどういうことなの。椅子に座れていないって意味ならいいけど、鉄道馬車の上に乗って、とかじゃないよね。その辺りは危ないからやらないようにと言っているから大丈夫だとは思うけど。
現状車両は一両編成だから、増やす余地はまだまだある。報告を受けてすぐに車両を増やした。リックにお願いしてデュプリケーターでポンだから労力はほとんどないけどね。
鉄道開通で、ブルスデン・ラーベルラ間では人の流れが活発になっている。これまで、街道を移動するのは行商か冒険者くらいだったのに、鉄道のおかげで一般市民でも気軽に移動できるようになったのが大きいみたい。なにせ日帰りできるからね。
ブルスデンでは、このタイミングで正式にネズミレースの開催がはじまった。プレ開始の時点で評判になっていたからか、ラーベルラからのお客さんは、このネズミレースを目当てにする人が多いみたい。特に熱狂的なのはおじさんだけど、小さな子も多い。トビネズミの活躍にきゃあきゃあ言って喜んでいるみたい。
ラーベルラで人気なのは混沌神様の神殿だ。おもに、特区の住人が足を運んでいるみたいだけど、少しずつ特区以外にも口コミが広がってそうな雰囲気だ。扱いは神殿じゃなくて、テーマパークっぽいけど……まぁ、ネズミの神父さんて聞くと、ちょっと見たくなるよね。
鉄道によって、一般市民にも観光という文化がおこりはじめている。これは娯楽地区を目指す特区においてはプラス材料だ。
でも、いいことばかりではないんだよね。大きな変化はトラブルももたらす。というわけで、僕はその対応で大わらわだった。
今日も何か問題があったのか、鉄道対応に当たっていたロボ君が報告にやってきた。
「ピピ――ピ!」
青い腕章をしたロボ君が折り目正しくお辞儀をする。青い腕章は鉄道事業に関わっている証。あとはロルレビラ商会所属の従魔であることも示している。
「お疲れ様。また、何かトラブル?」「ピ……」
僕が尋ねると、ロボ君がもうしわけなさそうに目を伏せた。その仕草はなんだかとても人間っぽい。特に教えこんだわけじゃないけど、いつの間にかこうなってたんだよね。
あと、不思議なことに、彼らの言っていることがわかるようになってきたんだよね。従魔というのは建前で、あくまで彼らはロボット。人格なんてないから、電子音に意思は宿ってないはずなのになぁ。まぁ、便利だから気にしないことにしてるよ。
「初めての試みなんだから、トラブルが起こるのは仕方がないよ。それで何が起きたの?」
「ピピ」
「え、人身事故!?」
流石にそれは問題だ。
「被害者の人はどうしてる?」
「ピピ」
「えぇ!?」
大した怪我がなかったので拘束したうえで警備に引き渡したって……いったい何を言ってるの!
「チュチュウ!」
そのとき、執務室に青い色マフラーのトビネズミが入ってきた。警備隊所属の子だ。このタイミングってことは、ロボ君が引き渡したっていう被害者のことかな。
「チュ?」
「チュチュウ!」
ビネが報告を受けているそれを、僕も横で聞く。それによれば、拘束したのは十人ほど。全員が元ギャングで、解放しろと騒いでいるらしい。
「元ギャング? どういうことなの?」
「ピピ!」
「え、馬車が襲われたの!?」
「ピ!」
どうやら、元ギャングは鉄道馬車を取り囲んで襲おうとしていたらしい。でも、囲もうとしても高速で移動する馬車を囲めるわけがない。実際、近づいてきた謎の集団を置き去りにしたことがあるとロボ君が言っている。それで、万策尽きた元ギャングたちはなんと鉄道の前に立ち塞がって、停めようとしたみたい。
「それはなんというか……よくそんなことしよう思ったよね」
怖いもの知らずにもほどがある。時速100km以上出てるから、轢かれた普通に死んじゃうよ。いや、冒険者とかなら生き残るのかな?
「ピピ!」
中の乗員にも配慮する必要があるので、ロボ君は減速して対処したそうだ。けれど、元ギャングに配慮は必要ない。完全に停車することはなく、そのままなぎ倒したそうだ。そのうえで、走行を妨げた者たちをそのままにしてはいけないと拘束した上で貨物車に放り込んだんだって。
結果、到着時間が遅れてしまったようで――
「もしかして、謝ってたのって、このこと?」
「ピ」
ロボ君が謝っていたのは人身事故じゃなくて、到着時間の遅れでした。まぁ、元ギャングのほうは自業自得だし、僕も轢いたこと自体は問題ないと思う。
「でも、これは放置できない事案だね……」
今回は馬鹿正直に進路妨害をしかけてきたからよかったけど、これが乗客を装って中の人たちを人質にとっていたらと思うと冷や汗が流れる。
元ギャングか。大したことはできないはずと思っていたけど、そうも言っていられないかもしれないなぁ。




