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196. あっという間に

 ギャングのことは少し気になるけど、できることは警備を強化するくらいだ。その辺りはビネが張り切って対応してくれるから、僕がやることはないかな。


 グレンや楽隊を激励したあとは、リッドさんやエレナさんに挨拶して回る。本当は従魔ギルドにも顔を出したかったけど、肝心のロボ君たちを連れていないから今回は後回しだ。早めに、正式な獣魔登録をすべきだと思うけど、いろいろ仕事を頼んでるから、なかなかタイミングが難しいね。でも王領の街道整備が始まる前にはやっとかないと。


 そういえばロボ君はそろそろ帰ってくるころかな。ブルスデンとラーベルラを鉄道で結ぶ計画。その準備をしておいてもらうために、昨日のうちにラーベルラに派遣しておいたんだけど。


「おい見たか?」

「ああ、見た見た。凄いスピードだったな」

「あれ、また特区の区長の施策らしいぞ」

「だろうなぁ」


 おっと。商人っぽい人たちの噂が聞こえてきた。特区の区長って僕のことだよね。正式には区長代理なんだけど、細かいことは気にしない人が多い。僕もわざわざ知らない人に訂正しようとは思わないしね。


 意外と特区以外でも僕の存在が噂になっているみたい。そのわりに、街を歩いても注目が集まることはほとんどないけどね。やっぱり、僕みたいな子供が区長代理とは思わないのかな。


 それよりも、さっきの話だ。“あのスピード”と言っていたね。


「もしかして、ロボ君が戻ってきたのかな?」

「チュチュウ!」


 肩に乗るビネに聞いてみたら「そうだろう」って。ちょうど門近くを歩いているところだったので、仕事の首尾を聞くためにそちらに向かうことにした。


「あれ? 凄い人だかりだね」

「チュウ」


 門に近づくと、人でごった返していた。何だか最近、そういう場面に出くわすことが多いなぁ。


 ……なんて、他人事のように考えてみたけど、実はちゃんとわかってる。こういうとき、大抵、僕が原因だってこと。


 でも、今回は心当たり、ないよね。馬車モードロボ君は、すでに何往復もしてるから、物珍しさはあってもここまで注目されることはないと思うんだけど。


「チュウ」

「そうだね。とにかく行ってみよう」


 人混みをかき分けて進んでいると、僕に気づいた衛兵さんが大声を上げる。


「おお、ロイ区長! 良いところに! みな、道を開けろ! ロイ区長がおいでだぞ!」


 わ、わぁ。歩きやすくなったのはありがたいけど、とても注目を集めてるよ! いまさらどうにもできないから、進むしかないんだけどね!


 ちょっと俯きながら門まで進むと、そこで別の衛兵さんが「このまま外に」と言うので従う。門の外にも大勢の人がいたけど、それで騒ぎの原因がわかった。だって、門の外に大勢のゴーレム――従魔登録前のロボットたちがいたんだもの。


「あ、ロイだ!」

「ロイ〜」

「あ、ライナ、レイネ。それにルクスも」

「すまん、ロイ。ここまで大事になるとは思ってなくて……」


 ロボに目を奪われて気づけなかったけど、ルクスたちも一緒にいたみたい。ライナとレイネはいつも通りの笑顔だけど、ルクスは申し訳なさそうにしている。


 どうやら、大勢のゴーレムが現れたことで混乱が生じたみたいだ。


「やっぱり正式な従魔じゃないから怖がられてるのかな?」

「いや、怖がっているなら近づいてこないだろう」


 僕の推測にルクスが突っ込む。それはそうか。


「ははは。ロイ区長はブルスデンの名物区長ですからな。次に何が飛び出すのか、みんな興味津々なのですよ!」


 と、教えてくれたのは門前で待機していた衛兵の隊長さん。


 って、やっぱり僕自身が娯楽の一部になっているの!? いやまぁ、嫌われてるわけじゃないならいいんだけどね。


「まぁ、怖がられてるんじゃないなら良かったよ。でも、このままにしておけないよね」


 明らかに通行の邪魔になってる。衛兵隊長さんも苦笑いだ。


「そうだなぁ……っでも、騒ぎはコイツらだけが原因じゃないんだけど」

「どういうこと?」

「まぁ、すぐわかるよ」


 ルクスはちょっと遠い目をしている。一方で、ライナとレイネは何故かワクワク顔だ。


「みんな、中に戻って〜」

「入って、入って!」


 二人がロボたちに指示を送る。後方に下がったロボは、見慣れない乗り物に乗り込んでいるようだ。一体、二体にとどまらず、続けてどんどん入っていく。


「え? あれって……」

「“亜空間収納”が付与された車室だ。以前、ロイが試験的に作った小屋があるだろ。それを転用したみたいだ」


 なるほどね。前に作った便利ハウスの原型を車両として改造したんだ。これができるってことは、リーヤムさんへの報酬として考えてるサーカス馬車も実現できそうだね!


 たくさんいたロボが車室に収納されたので、ようやく視界がすっきりした。すると、ニコニコ笑顔のライナとレイネがとことこやってきて僕の手を引く。


「ロイ、こっちこっち」

「見て見て」

「え? 何?」


 二人が僕を引っ張っていったのは車室の裏側。そちらには街道がまっすぐ伸びている。けれど、それだけじゃなかった。見慣れない鉄のレールまで真っすぐ伸びている。


「これって鉄道……もうできたの!?」

「「できた!」」


 僕の驚く顔がおかしいのか、双子がケラケラ笑う。いや、でも驚くって。だって、昨日の今日だよ。レールを敷くだけじゃないんだ。そのレールを準備する必要がある。いくらデュプリケーターがあっても、1日で鉄道ができるとは思わないって。


 あ、街のみんなが驚いていたのはこれか。ロボだけじゃなくて、いきなりできた鉄の道に興味を持ったのか。


「でも、どうやってこんなに早く?」

「ああ、うん。実は中でリックがレールを作ってる」


 ルクスが種明かしをしてくれる。なんと、工事と並行して、デュプリケーターでレールを作りながらここまできたみたい。


 と、そのリックが車室から転がるようにして下りてきた。何故か、とても顔色が悪い。


『うぐ……もう限界……』

「ど、どうしたの、リック!」

『ロイ……“亜空間収納”馬車はやめておいたほうがいいよ。すっごい……揺れる』


 力尽きたようにガクッと倒れるリック。その精根尽き果てた姿に、僕はサーカス馬車計画の頓挫を悟るのだった。

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