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195. 特区に迫る不穏な影?

 今日は久しぶりにブルスデンのお屋敷に泊まる。本当に久しぶりだったからダバッグさんやキーラさんにそれはそれは丁寧にもてなされてしまった。


 僕が屋敷の主人で二人は使用人。だから、おかしなことではないんだけど、慣れないから少し戸惑っちゃう。正直、柄じゃないんだよね。だから、ある程度支度が整ったところで、二人にも席についてもらった。細々としたことはハウスキーパーのトビネズミ隊がやってくれるから問題なしだ。


 二人は恐縮していたけど、以前からもあったことなので、何度も勧めると観念したように席についてくれた。うんうん。このほうが話しやすいしいいよね。


「では、本当にこちらに戻ってくるので?」

「それはもちろんですよ。こっちが僕の本拠地ですから」

「そうですか、それはよかった。いや、区長に続いてルクスたちもいなくなったもので、何すりゃいいかわからなくて」

「そ、そうなんですよ。簡単なお仕事はトビネズミちゃんがやってしまうし……」

「あ、あはは。そうですよね」


 ダバッグさんとキーラさんが心底困ったって顔で言うので、苦い笑いがこぼれちゃった。でも、そうだよね。住人のいない屋敷で働けと言われてもやりがいはない。サボり癖のある人なら喜ぶんだろうけど、真面目な二人には辛かったみたい。


「でも、いいですか? ロイ区長はラーベルラの領主代行になると聞きましたよ」

「あれ、知ってるですか?」

「はいぃ。あと、貴族になるって」


 うーん。思ったよりも噂が広がってるね。ああ、それで今日はおもてなしがすごかったのかな。


「貴族と言っても名前だけですよ。ラウル様の部下なのは変わらないですし」

「そういうものですかい?」

「たぶん?」

「たぶんって……」

「まぁ、ロイ区長らしいけどなぁ」


 キーラさんとダバッグさんが困ったような顔で笑う。まぁ、でも少なくとも貴族になったからと言って偉ぶったりはしないつもりだよ。だから、基本的には何もかわらないんじゃないかな。


「まぁ、ともかく、これからはラーベルラとの移動がやりやすくなるはずだから問題ないよ」

「また区長が何かやるんですか?」

「またって。いや、まぁそうなんだけど」


 色々大きな変化をもたらした自覚はあるから強く否定はできない。混沌神様の使徒としてはむしろ積極的になすべきことだし。


 幸い、そういったダバッグさんの顔は明るい。キーラさんも笑ってるから、好意的に受け止められているみたいだ。邪神扱いされることもあるけど、ブルスデンではすっかり受け入れられてる。ありがたいことだね。


 まぁ、僕の話はこれくらいでいいや。それよりも、僕がいなかった間の話が聞きたい。


「こっちで何か変わったことがなかった?」

「そうですねぇ。トビネズミのレースがはじまったくらいですよ」

「ははは、あれな! あれは面白い! ますます特区が発展するんじゃないかね?」


 キーラさんがネズミレースの話題を出すと、ダバッグさんが破顔して絶賛する。ここにもネズミレース好きがいるみたいだ。まぁ、まだまだ他に娯楽が少ないものね。


 やっぱり、商会できっちり仕切って公営ギャンブルにすべきかな。こっちである程度コントロールしないと、身を持ち崩す人が出そうだ。


「あと他には……」

「ああ、そうだ! 楽隊がパレードするんですよ」

「楽隊って、グレンの?」

「そうですよ」

「へぇ。それは楽しみだね」


 ブルスデンはそろそろ本格的な冬の時期だ。豪雪地帯ってほどじゃないけど、そこそこ雪が降るんだよね。年によっては雪に閉ざされて大変なことになる。なので、お祭りで太陽の神様にお願いするんだ。雪を吹き飛ばして凍えることがないようにって。


 それが太陽祭。街全体が大騒ぎするんだ。その日はスラムの住人もごちそうにありつけたから、とてもありがたい日だった。


 で、パレードっていうのは、太陽祭のメインの催しだ。有志の団体が通りを練り歩きながら、パフォーマンスするんだよ。特区の楽隊も参加を申請したみたい。


 グレンたちの演奏なら盛り上がること間違いなし。きっと人気も出るはずだ。サーカスの宣伝のとき、彼らにも同行してもらったけど、街の人の反応も悪くなかったしね。よし、そういうことなら、僕も協力しないと。区長代理としてバックアップしなくちゃね!




 というわけで、翌日、僕は早速グレンに会いに行った。彼らがいつも練習している広場にいると、朝早いのにすでに大勢の団員が練習をしている。パレードに出ることが決まって気合いが入っているのかもしれない。


「あ、グレン」

「区長じゃねえか。久しぶりだな」


 グレンを見つけて声をかけると、普段通りにニヤッと笑って返してきた。気合いは入っていても変な緊張はしていないみたい。


「いろいろあったからね。それよりも聞いたよ。パレードに出るんだって」

「ははは、まぁな」


 パレードについて話を振ると、グレンは少し照れた顔をした。しっかりしてるけど、こういうところは年相応だ。って、年下の僕が言うことじゃないけどね。


「何か困っていることはない? 区長代理として、あと商会長として協力するよ!」

「おう、ありがとう。でも、もうカールさんにはいろいろ協力してもらってるぜ」

「ああ、うん」


 そうだよね。カールさんならその辺りはしっかりやってくれそう。これは僕の出番はないかな?


「困り事と言うわけじゃないけど、そういえば気になることはあるな」


 と思ったら、グレンの顔が少し曇った。あまり良いことではなさそうだ。


「何かな?」

「逃げ出したギャングの奴らがいただろう? あいつらがこの街を探ってるんじゃないかって噂だ。最近、ちょこちょこ姿を見るらしい」


 促すと、忌々しそうにグレンは答えた。それはたしかに、面白い話ではないね。今さら戻ってきたところで、少数では何かできるとは思えないけど……対策くらいは考えたほうがいいかもね。

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