194. リックの願い(リック視点)
未開の惑星に迷い込んで数ヶ月。最初はどうなることかと思ったけど、意外と何とかなっている。
科学ではなく、魔法の力で発展する文明があるなんて、本当に驚いた。宇宙は広いんだなって、改めて実感する。僕らが知らないだけで、似たような星は他にもあるのかもしれない。
魔法の力は、科学技術では実現できないような現象すら引き起こす。もちろん万能ではなくて、科学技術のほうが優れている点もいくつもあるけどね。でも、この二つを組み合わせれば、今までできなかったことができるようになるはずだ。その可能性を考えるだけで、ワクワクしてくるよね。
最悪な事件に巻き込まれたと落ち込んだこともあった。でも、今ではこの状況を楽しんでいる面もある。だって、こんな体験、故郷にいたら絶対にできなかったから。
そんなことを思えるのも、ロイのおかげだ。
彼は宇宙のことをよく理解していて、姿が違う僕をちゃんと人として扱ってくれる。もし彼と出会えていなかったら、どうなっていたことか。たぶん、現地民と友好的な関係を築くことは難しかったはずだ。それどころか、この星で生き延びられたかも怪しい。
それに、ロイは凄い力の持ち主だ。とんでもないことを身一つでひょいとやって見せる。最初は"魔法って凄いんだなぁ"と思っていたんだけど、どうも違うらしい。ロイの力が飛び抜けているだけだった。だって、周りみんな驚いてるんだもん。
そんな彼と巡り合えたことは、本当に幸運だったと思う。
おかげで、のんびり研究できている。いや、囚われた同胞を救うという使命があるんだから、のんびりとは少し違うかな。ただ、長期的な任務になるのは間違いないから、張り切りすぎてもよくないんだ。つまり、適度な余裕が持てる今の状況は、環境としてはとても良いってこと。
「キュウ!」
作業ホールの入口で声がした。振り返ると、お手伝いをしてくれているアライグマ隊の子が、小さな紙切れを持って駆け寄ってくる。こちらをまっすぐ見上げながら、紙をぐいっと差し出してきた。
ありがたいんだけど、その期待するような目がちょっと困るんだよなぁ。
「ありがとうね」
「キュウ♡」
お礼を言って頭を撫でてあげると、嬉しそうにぴょこっとして、来た道を戻っていった。まぁ、これくらいで済むなら可愛いものだけど。
「あいかわらずモテるわね?」
ルーナがからかうように言ってくる。一緒にいるレグザルはというと、何とも言いづらそうな表情をしていた。邪教徒に操られていたときに言ったことを気にしているのかな。別に気にしていないのに。厳つい見た目と違って、真面目だからなぁ。
「可愛らしいとは思うけどね……」
僕は曖昧に答えた。
アライグマ隊の子たちは、僕らアラグー人によく似た見た目をしている。でも体は二周りくらい小さい。僕からすると小人みたいな感じだ。仲良くするのはいい。けれど……やっぱり、恋人はアラグー人がいいよね。
「それで、その紙切れは?」
「おっと、そうだった」
レグザルに指摘され、慌てて手元の紙に目を向ける。
手紙みたいだけど、この星の文字で書かれているのでまったく読めない。翻訳機は喋り言葉なら翻訳してくれるけど、文字の読み取り能力はないんだよね。ただ、ロイの署名だけは覚えているので、彼らからの手紙であることはわかった。
「ロイからみたい。ちょっと待って」
「――ピ」
そばに控えていた作業支援ロボを呼びかけると、短い電子音と共に近寄ってくる。
「これをアラグー言語に翻訳して照射して」
「ピ」
作業支援ロボが手紙を受け取り、素早く読み取る。次の瞬間、作業机の表面に光の文字が映し出された。これで内容がわかるね。
「ふむふむ……なるほど、鉄道か」
手紙の内容はロイからのお願いだった。どうやら鉄道を作りたいらしい。
まぁ、技術的には難しくない。ロイのおかげでマテリアルデュプリケーターが無制限に使えるし、壊れても勝手に修復される。資材の加工に少し手間がかかるくらいだ。
「本来は控えるべきなんでしょうけどね」
ルーナが控えめに言った。続く言葉を僕が引き継ぐ。
「今は非常時だしね。この程度の干渉なら許容範囲でしょ」
正直に言えば、少し怪しい。同胞を助けることに直接的に関わることではないし、保護を得るための対価としても大きすぎる。知識を授けるくらいならまだしも、僕らが実際に作って提供するのは本来なら行き過ぎだ。
とはいえ、今さらなんだよね。
だって、すでにドローンや戦闘用ロボットを提供しているんだから。そっちと比べると誤差みたいなものだ。
「何かあれば、俺が全ての咎を引き受けるつもりだ。お前たちには累が及ばないようにする」
レグザルが真剣な顔で宣言した。
彼は同胞を呼び込んでしまった負い目があるので、やたらと自罰的なんだよね。原因は邪教徒の洗脳にあるんだから気にしなくていいのに。まぁ、そうは言っても気になるんだろうけど。
そんな彼に食ってかかるのがルーナだ。
「レグザル! それに関してはみんなで責任を負うってことにしたでしょ」
「しかしな」
「しかし、じゃないの! あなたが責任を感じているのはわかってる。それに関しては私も悪かったわ。でも、私たちは仲間でしょ。全部を一人で背負おうとしないで」
「……ルーナ」
ルーナの言うことには、まったく同意見だ。だから、僕もうんうんと頷く。でも、あえて声はかけないよ。二人は自分たちの世界に入っているからね。ここで割り込むとお邪魔虫になるのは僕にもわかる。
うーん。最初は険悪だった二人がこんなことになるとはなぁ。レグザルが真面目でいいやつなのはわかるし、わからなくはないんだけど。なんだかなぁ。
「キュ」
いつの間にかやってきたアライグマ隊の子が、励ますように僕の隣にすっと寄ってきた。
気持ちはありがたいんだけど……でも、知ってるんだよ。キミたちがルーナとレグザルの仲を取り持とうと画策していたことは。いや、それ自体は悪いことじゃないんだけどね。
「キュキュウ!」
「はいはい」
ここぞとばかりにアピールしてくるアライグマ隊の子をいなしながら、僕はぼんやりと思った。
僕もアラグー人の恋人が欲しいなぁ。




