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193. 誤解を解くために

 商会での打ち合わせを終えたあとは、行政府に顔を出すことにした。不在期間が長期化したから仕事が積み上がってそうだよね。ちょっとだけ気が重い。


 と思ったのだけど――


「急ぎのものは特にございません。僭越ながら、私のほうで処理させていただきました」


 なんと、僕が不在のときの仕事は行政長官のゴードンさんが片付けてくれていたみたい。代わりに報告書の束をもらったけど、それすら別紙に要点がまとめてある。とても丁寧な仕事だ。


 さすがはゴードンさん! 優秀なのは知っていたけど、想像以上に仕事ができる人だった。


 でも、うーん。僕は本当に区長でなく、トールさんの代理だ。それをさらにゴードンさんが代行した。そういうのって大丈夫なのかな?


 その疑問を素直にぶつけると、ゴードンさんは苦笑しながら答えてくれた。


「非常時を除いて区長もしくは代理者の承認が必要な事案は多いですよ。ですが、この特区は例外でして」


 今だから言いますが、と前置きしてゴードンさんは事情を説明してくれた。色々事情があって僕が区長代理に収まったこの特区だけど、子供がトップになるってことで運営が滞ることが懸念されていたんだって。だから例外的に、行政長官のゴードンさんにも区長と同じ権限が与えられていたみたい。


 なんだそうだったのか。でも、それなら別に僕、いらなくないかな? ゴードンさんのほうがうまく仕事をこなしてくれる気がするよ。


「とはいえ、ロイ区長は見事に職責を果たされていましたので、今回の長期遠征以外ではその権限を使用することはございませんでしたよ。もし、権限を分散させたくないとお考えでしたら、御領主様に返上いたしますが」

「え、いえいえ。そのままでお願いします」

「そうですか。では、そのように」


 にっこり笑うゴードンさん。他意はないんだろうけど、ひょっとして仕事を押し付けようと考えたのがバレたのかと思ったよ。


 まぁ、あくまで冗談で、そんなつもりはないんだけどね。ただ仕事をこなすだけならゴードンさんのほうが優秀なのは間違いないけど、僕には僕の武器がある。


 トールさんも言っていたけど、この世界には娯楽が少ない。だから、この特区を世界的な娯楽地区へと発展させたいんだ。それに前世の知識が役に立つ。これは僕にしかできないことだ。そうすることで特区はますます豊かになるし、混沌神様も喜んでくれるんじゃないかな。


「それはそうと、ロイ区長はラーベルラの領主代理も兼任されると聞きましたが」

「そうなんですよねぇ」


 ちょっと億劫そうに答えると、ゴードンさんが真面目な顔で頷いた。


「でしたら、あちらにも数名向かわせましょう。ラーベルラにはラーベルラの行政官がいるでしょうが、こちらとの橋渡し役がいたほうが連携がスムーズになりますから」


 思わぬ提案に少し驚く。そんなことしていいの?


「ゴードンさんたちはブルスデンの行政官じゃないんですか?」

「正確ではございませんね。私たちはカールスト家に使える役人で、割り当てられている業務はロイ区長……いえ、ロイ様の補佐。行政官としての勤務はその一環です」


 ほへぇ。そうだったのか。そういうことなら、ラーベルラに出向してもおかしくはないね。知っている人のほうが意思疎通はしやすいから、正直ありがたい。


「ところで、ロイ様の本拠地はラーベルラにするのですか?」

「いえ、そんなつもりはないですけど。どうしてですか?」

「行政範囲がラーベルラのほうが広いですからね。あと、今回はご家族も連れていませんし、住民たちも区長が移るのではないかと噂していましたよ」


 ええ、そんなことに!?

 

 ラーベルラの領主代理をすることになったけど、僕はあくまでブルスデンの区長代理なんだ。ここは僕の故郷みたいなものだし離れるつもりはないよ。


 うーん。妙な噂を払拭するためにも、基本的にはブルスデンに軸足を置かなくちゃ駄目だなぁ。ラーベルラに用事あるときも日帰りで気軽に行き来できるくらいにしなきゃ。高速移動路が整備されればある程度は問題なくなるけど、頻繁に移動するならもっと移動効率を上げたいよね。


「そうだ。この際、鉄道でも作っちゃおうか」

「……鉄道?」


 ゴードンさんが微かに眉を上げた。聞き慣れない言葉に戸惑っているみたい。鉄道の意味をざっくり説明すると、ゴードンさんは更に困惑した。


「鉄の道を走る、馬車ですか。ロイ様の開発した馬車でラーベルラとブルスデン間は劇的な速さで移動できるようになったと聞いていますが、それすら上回ると?」

「そうなると思います。出来れば、お昼休憩くらいの時間で移動できるのが理想ですね」

「はぁ」


 おやぁ。ゴードンさんの反応が鈍いね。移動時間の短縮は喜ばしいことだと思うけど。


「反対ですか?」

「いえ、まさか。ただ、なんと言えばいいのか……俄には信じられないのです」


 ブルスデンとラーベルラ。2都市間が日帰りで往復できるだけでも大革命だったらしいんだけど、それを更に短縮しようとするので驚いていたみたい。


 ちなみに“驚いた”はゴードンさんの自己申告だ。だけど、僕は知ってるよ。あの目はよくルクスが僕を見るときの目だ。つまり、呆れてる! そんなおかしなことを言ったつもりはないんだけどなぁ。


 ただ、ゴードンさんが戸惑っていたのは短い間だけ。今度は一転して楽しそうに笑い出した。


「ふふふ、いや、さすがはロイ様ですね! 楽しくなってまいりました! これだから、あなたの部下はやめられない!」


 あれ、もしかして、僕の存在そのものが娯楽みたいになってる? まぁ、喜んでもらえてるならそれでいい、のかな?


---

ラウル様の家名について補足

ちょっと混在してわけがわからなくなっていますが、カールストが家名で、ラーゼンが爵位名です。ひょっとしたら、これまで間違っているところがあるかもしれません。間違っていたら、申し訳ないです!

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