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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第9章】砂漠と鋼鉄の記憶
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9−2 魔法武闘会の裏側で

 あのスットコドッコイのチキンさんが。

 エックス君への不満を垂れ流すのも、そこそこに。マモンは差し出された暗黒霊樹のお土産をマジマジと見つめているが……しばらくして、とある疑問に至ったらしい。靴を指差しながら、アケーディアに質問を投げる。


「ところで、兄貴」

「何でしょうか?」

「この種……魔法学園内でくっついたものか? それとも……」

「外部……強いて言えば、ファラード家で仕込まれていた可能性が高いですかね」

「そうか。……それはそれで、大問題だな」


 えぇ、そうでしょうね。その通り。マモンの指摘にアケーディアは渋々と頷く。

 モリリンの生家・ファラード家は爵位こそあれど、貧乏貴族である。魔法学園本校へ登学したモリリンは家族の期待を一心に集めてもいたが……金銭的な援助は当然の如く、ゼロ。むしろ、実家からは金の無心すらあったようで、身を繕う余裕もなかった。そんな彼女の靴は年季が入っており、かなり長い間、新調できなかったと見ていい。……魔法学園本校に登学する前から、種が仕込まれていたと考える方が自然だ。


「うーん……ファラードにもちっと目を光らせておいた方が良さそうか?」

「でしょうね。彼らが積極的にグラディウスと関わろうとしていたのかは、現段階では不明ですが……例のオートマタの証言からしても、契約関係はあったようですし、何より、モリリン自身もグラディウスの魔法武器を嬉々として振るっていましたから。……完全にクロですよ、クロ。実に嘆かわしい」

「いや、完全にクロって……。そりゃ、グラディウスとつるんでたのは、マズいんだろうけど。多分、利用されていただけじゃないかな、これ。全く……兄貴はすーぐそうやって、気に入らない相手を悪者扱いするんだから……」


 アケーディアの独断専行っぷりも健在なのだと、安心半分・呆れ半分。マモンは彼が憂鬱を程よく受け流している事はいい傾向だと思いながらも、気に入らない相手に対して徹底的に冷酷なのはどうにかならないか……と常々思っていたりする。


(兄貴の選り好みで振り回されたんじゃ、生徒のみんなも不憫だよなー……)


 しかして、内心でため息を吐いたところで、アケーディアの唯我独尊っぷりも変わらない。マモンは仕方なしに、モリリンの心迷宮攻略報告書(極秘)に目を通すが……「例のオートマタ」とモリリンの処遇について思うところがあるらしい。アケーディアの膨れっ面も何のそのと、魔術師帳を示しながら、尚も心配そうな声を上げる。


「ファラードもそうだけど、モリリンさんも放っておいて、大丈夫か? オートマタ込みで退学になったって、話だけど……」


 魔法武闘会の裏側で。モリリンが持ち込んだ魔法武器によって悪魔1名が拐かされ、モリリン自身は魔力適性を失う羽目になった。ロッタに関してはラディエルの契約が切れていない事もあり、「如何様にもできる」と一旦は様子を見る事にしたようだが。……モリリンの方はステラの存在もあって、成り行き任せでのほほんと様子を見るだけでは、あまりに危うい。


「あぁ、そちらはご心配なく。ファラードとは抜かりなく、契約を済ませましたから。しっかりと監視も付けていますよ」

「契約……? ちょっと待て。兄貴、まさか……」

「……言っておきますが、僕がファラードと結んだのは技術提携に伴う契約です。魂を掠め取ろうなんて思ってもいませんし、実験台の確保も目論んでいません。……その疑いは甚だ、心外ですね」


 悪魔の契約と言われれば。お願いを叶える代わりに、魂を寄越せ……なんてお伽噺を想像するのが、常であろう。それでなくとも、アケーディアは霊樹戦役直前までそれなりに「悪さ」をしてきており……人間やら天使やらの魂を弄び、実験台にしてきた過去がある。しかも、マッドサイエンティスト気質も未だ旺盛ともなれば。……マモンがそちらの向きで疑ってしまうのも、無理ならざる事であった。


「そ、そうか……うん、疑って悪かったよ。で? 監視には誰を派遣したんだ?」


 ご機嫌を損ねてしまった事を詫びつつも、マモンが当然の質問を投げれば。ややムスッとした表情を崩さないにしても、アケーディアも素直に答える。


「ベルゼブブに行ってもらう事にしました」

「へっ? ベルゼブブ……? う、嘘だろ? 選りに選って、あいつを……か?」


 しかし、彼の口から飛び出したのがあまりに意外な大物だったため……マモンは「厄介な事になってんなー」と眉間に皺を寄せざるを得ない。

 確かに、ベルゼブブは大悪魔階級という事もあり、面倒見はいい方である。しかも、魔法道具や機神族に関する知識や技術も豊富ともなれば、オートマタを主軸とした技術提携の担当者としての面目も保てる。だが、いくらなんでも……魔界屈指の変わり者を派遣することはないだろうに。それに……。


「……ベルゼブブの方も大丈夫なのか? 例の件があってから……しばらくは魔法学園から離れるなんて、言ってた気がするけど」

「そうですね。彼もどうやら、リハビリがてら引き受けてくれたみたいですよ。ま……本音は退屈だったから、でしょうけれども。ルシファーの札持ちですし、技能も申し分ありませんし。モリリンとステラに関しては、彼に一任する事にしました」


 リハビリ……か。アケーディアの言わんとしていることを反芻し、彼がそこまで言うのであれば心配する必要もないかと、マモンは少し無理をして割り切る。本当は諸々が心配で仕方ないのだが。常々、苦労性であることも自覚して……「お気の召すままに」と肩を竦めて見せる。


「あぁ、そうそう。話は変わりますが、マモン。ハーヴェンの報告書にも、目は通しましたか」

「……うん、ガッツリ通した。こっちも面倒な事になってるけど……あいつはあいつで、大丈夫なのか?」

「多分、大丈夫だと思いますよ。彼のお人好し加減は、もはや病的なレベルですけれども。イグノとも上手くやっているようですし、問題児がいる方が仕事が捗るのかも知れませんねぇ」

「……それは絶対にないと思うぞ。純粋に、あいつのスペックが高いだけだろーよ」


 普通は足を引っ張られるだけで、終わりそうなものだけど。あいにくと、ハーヴェンは何かと要領がいい上に、足を引っ張られても、強引に引っ張り返してカバーするだけの実力もあったりする。そのせいで、面倒事に巻き込まれ過ぎている気がするが……何よりも、あの大天使様の旦那様である。面倒事に事欠かないのは当たり前だろうなと、マモンは苦労人仲間のハーヴェンに同情を禁じ得ない。


「ハーヴェンには、ヴァンダート地方の調査を継続してもらう事にしました。どうやら、建国ブームの裏で何かと良くない動きがあるようです。それでなくとも、あの地方には浄化遺跡以外にも、歴史の秘密が砂漠に眠っていますから。……主に君がやらかしてくれたおかげでね」

「それについては、若気の至りって事で勘弁してくれよ。当時の俺はケツも青い、未熟モンでさ。天使相手にちっと、本気を出しちまっただけだ」

「ちょっと本気を出して、あの結果ですか? 大陸の3分の1を吹き飛ばしておいて、何を言っているんだか……」


 若気の至りでいちいち国を吹き飛ばされたらば、世界はとっくに滅亡しているに違いない。しかし……ヴァンダート滅亡の実情が「若気の至り」ではないと知っている手前、アケーディアは薄々と気づいてもいるのだ。マモンの謙遜は、実情を隠す下手な嘘なのだと。だからこそ、余計なことは口にせず。アケーディアは内心で「この嘘つきめ」と、弟を憎からず思うに留めていた。

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