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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第9章】砂漠と鋼鉄の記憶
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9−1 暗黒霊樹と言えど、一応はご神木

「ほーん……俺がいない間に、随分と面白い事をやってたじゃねーの。こういうイベントにこそ、呼んで欲しかったなぁ」


 ここは魔法学園本校・副学園長室。調査依頼があると、呼び出されて……久しぶりに本拠地でもある学び舎の地を踏んだマモンは、アケーディアと世間話に興じていた。そんな彼から「魔法武闘会」のあらましと結果を聞かされて、ブーブーと口元を窄めつつ。常々、マモンは不貞腐れても、後腐れない性格である。拗ねた口調とは裏腹に、爛々と瞳を輝かせている。


「それにしても、ミアちゃんがあのフォゼ君に勝つとはなぁ。こいつぁ、たまげたな」


 魔術師帳にも魔法武闘会のトピックスが掲載されており、何かと目敏いマモンのこと。派遣先でも注目株の奮闘をアーカイブ動画である程度、眺めていたが。やはり、その場に居合わせずとも「教え子達」の躍進はイチ教師としても嬉しいらしい。


「でしょう? 僕もこの結果は想定外でしたよ。ま、この想定外は好ましいものですので、文句はありませんがね。貴重なデータの収集もできましたし、下らない発端はともあれ……非常に満足です」


 兄の平常運転な発言に、マモンは苦笑いをしてしまうけれど。あれ程までに想定外を嫌う彼が「好ましい」と言っている時点で、アケーディアのご機嫌は悪くないのだろうと踏むと、「余興」はここまでと「本題」について切り出す。


「で? 今度は何を調査してくればいいんだ?」

「……実は魔法武闘会の裏側で、非常に厄介な事案が発生してましてね。グラディウス側の勢力が、この本校に入り込んでいる可能性が浮上しているのです」

「それ、何の冗談だ? 選りに選って、ここでか? 分校じゃなくて?」

「非常に残念な事に、冗談でも嘘でもありませんよ。紛れもなく、この本校で……です」


 アケーディアのため息混じりの申告に、マモンの眉間にギュッと皺が寄る。

 ここ、オフィーリア魔法学園本校は霊樹・オフィーリアの清らかな魔力に満たされた聖域・竜界の一角に存在している。そんな聖域に、あろうことか対極にあるはずの暗黒霊樹の尖兵が入り込んでいるなんて。……マモンにしてみれば、タチの悪い冗談にしか思えない。


「……兄貴の言う事だ。何か、ハッキリとした根拠があるんだろ? ……何があった?」


 だが、一方で……アケーディアが悪い冗談を言うタイプではないことも、マモンは熟知している。そうして、マモンが「そのココロは?」と尋ねれば。これまた深々とため息を吐きながら、アケーディアはテーブルにハンカチを広げると……その上に、リフトがザックリと抉られた靴を揃えた。


「えぇと? これ、誰の靴だ? サイズからしても、女物に見えるが……」

「モリリン・ファラードという女生徒の靴です。この靴のリフト部分に、こんな物が仕込まれていましてね」


 続け様にハンカチの上に転がされたのは……所々に赤い結晶を纏った、小さな小さな黒い何かの種。何やら芽吹いてもいるらしく、弱々しくも、確実に外へ飛び出そうとしている赤い双葉がしっかりと見える。


「この雰囲気は、まさか……例のリンゴの種か?」

「……おそらくは。憎たらしい事に、これはこの聖域の魔力で芽吹いたようでしてね。例の枝と同じく、瘴気を吐き出しながら、生長しようとしています」


 アケーディアは更に嘆息しながらも……今度は種の隣に、「グラディウスの枝」を取り出して見せる。アケーディアは1本の枝さえも、危険物質と判断していたのだろう。丁重に封印を施した箱にしまい込んでおり、その状態で固有空間で管理していたようだが。にも関わらず、枝の方もしぶとく生き延びているようで……封印されても尚、新芽を伸ばし、蕾まで付けているではないか。


「……グラディウスってのは、本当にがめつい霊樹みたいだな? まさか、固有空間の魔力で生長するなんてなぁ」

「全くです。固有空間は現実世界と隔絶された小さな異空間でしかありませんし、本来であればそこに放り込まれた物質は不朽・不変を保証されると認識されていました。ですが……この枝はその完璧な保管性能を支えている魔力を糧に、実を付けようとしているのです。……これ程までに馬鹿げていて、悍ましい事はありません」


 いかにも厭わしげに鼻を鳴らすアケーディア。どうやら、この事象は彼にとって最も好ましくない類の「想定外」らしい。折角、程よく保たれていたご機嫌を急降下させると、さも疲れたと眉間を揉んでいる。


「……君にはこの種と枝について、詳細確認をお願いしたいのです。これらを預けますので、グラディウスの生長メカニズムを解析し、深魔発生との因果関係について調べてください。魔法植物に明るい君でしたら、多少危ない植物でも、難なく扱えると思いますし」

「いや、それとこれとは、話が違う気がするが……」

「もちろん、手に余るようでしたら、カリホちゃんで伐採しても構いません。安全第一でお願いします」

「そんな気軽に、霊樹を扱うなよ……。暗黒霊樹と言えど、一応はご神木だろうに……」


 弟のボヤキはご尤も。魔法植物に明るいからと言って、危険植物を育てて良い事にはならない。

 だが、マモンは自宅に「毒草花畑」を拵える程には、危機管理には長けている。それに、最悪の場合であっても「カリホちゃん」で暗黒霊樹を伐採もできるのだし……封印してもしぶとく生長している以上、マモンに預けておくのが無難だろうと、アケーディアは算段していた。


「まぁ、いいか。俺も霊樹栽培には興味があるし。しかし……兄貴にしては、随分とフラットな依頼だな? 俺はてっきり、グラディウスを潰してこいって、言われるのかと思ってたよ」

「いくら君でもそれが無理な事くらい、分かっていますよ。叶うのなら、それでもいいのですが……だって、例の解析も思わしくないのでしょ?」

「まぁ、そうだな。……未だに、奴らの本拠地は掴めてない。エックス君の作り込みも甘かったんだろうが……アイツ、せーっかく向こう側に潜入したのに、ポータルの基準点を打ち忘れてきやがった」


 ナルシェラを助けてきたまでは良かったが、どうもエックス君は作成者に負けず劣らず、戦闘狂であったらしい。邪魔者(セドリックの事である)を蹴散らすのに夢中で、仕込んでいたポインテッドポータルを使い忘れてきたようで。マモンがデータ解析をした際にも「ピチペロ〜★」と悪びれることもなく、あざとく首を傾げるばかりだった。

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