8.5−9 身も心もモンスター
本格的に「クリーチャー!」な装いを新たにした、キリアさん。見れば見るほど、彼女の姿は悍ましく……下半身の異常に多い足の動きに、俺は本格的にクラクラしている。……これ、集合体恐怖症の人だったら、間違いなく発狂していると思うな。
「ハーヴェン、キリアさんは……モンスターだったのか⁉︎」
「……モンスター、か。それはある意味で正しいな。媚薬や香水とも違う、毒の刺激臭を纏っていた時点で、人間じゃないだろうとは思っていたが。……こんな所でデザイナーズに遭遇するなんて、想定外だ」
「えっ? デザイナーズ……?」
えーと、それってマンションか何かか? お高級住宅的な?
(いや、違うか。この状況でオサレ住宅とか、億ションとか……景気の良い話をするワケないよな)
早速、「キシャァァァ!」と絶叫を上げながら突進してくるキリアさんの強襲を難なく躱し。攻撃の合間にハーヴェンが教えてくれる所によると、キリアさん(だったもの)はデザイナーズエレメントと呼ばれる、「作られた精霊」だと思われるとのこと。あっ、デザイナーズって、そういう事? だとすると……?
「……霊樹戦役前にも、人体実験をやらかしていた宗教団体があったりして、それらしき存在も確認されていたんだが……ここまでしっかりと、魔物化している例は極めて珍しい。しかも……こいつは悪い意味で、完成度も高い」
あぁぁ……やっぱり、そっち。そっちかぁ……。要するに、キリアさんは元人間だったかも知れないって事だよな?
キリアさんが望んでこうなったのか、望まずにそうされたのかは分からないけど。少なくとも、ハーヴェンに媚び媚びだった様子を見るに、キリアさんは人間を誑かすのを楽しんでいた感じもあるし……何となく、魔物になったことは後悔していなさそうに思える。
だけど、今のキリアさんは理性も知性もなさそうな、ただの凶暴なモンスターになっていて。……ベロンベロンと伸びた舌から涎をダラダラと垂らして、上半身おっ広げなのに色気もへったくれもなくて。何より、クリーチャー的なブサイク加減がとにかくヤバい。……もしかしたら、人間の姿に戻るのも自由自在なのかも知れないけど。身も心もモンスターだなんて、俺は絶対に嫌だな。
(キリアさんは何かを望んで、モンスターになったんだろうか?)
強くなりたい? 偉くなりたい? うん、自分より弱い相手に威張り散らすのは気持ちいいよな。俺もその位は理解してあげられちゃうけど。でも、モンスターになってまでやる事じゃないと思うんだよな。
いや、確かに? 俺だって、モンスターとまでは言わずとも……悪魔になりたいと思いかけた瞬間はあったよ? でも、悪魔も簡単になれるものでもないみたいだし、いくら市民権を得ていると言っても……どうも、この世界の悪魔は天使ちゃん達の下僕ポジになりがちっぽい。しかも、ハーヴェンみたいな上級悪魔になるには、何気にハードルも高いみたいで。……俺は今の人生を捨ててまで、強くなりたいとも、偉くなりたいとも思わない。
「イグノ君! そっち行ったぞ!」
「えっ……うぉっ⁉︎」
なーんて、俺がキリアさんの身の上を憐んでいると。……人の気も知らないで、キリアさんが俺に突進をかましてくるじゃないか。クッソ……! 折角、人が心配してやってるのに……! フン! 所詮、身も心も捨てたモンスター風情よ。俺の崇高なおセンチメントは理解できないみたいだな!
「あぁぁぁ! 俺のロムルスが……! ロムルスが……!」
なんか、黄色っぽい粘液でヌチャッとしてる……!
咄嗟に手に持っていたロムルスでなんとか、彼女の噛みつき攻撃を防ぐけど。噛みついたついでに、ベロンベロンと舌を巻き付けられたら、気色悪いのを通り越して、沸々と怒りが込み上げてきた。何を、勝手に俺のロムルスにベロチューしてくれてるんだ、このビッチモンスターが……!
「こうなったら……! 紅蓮の炎を留め放たん、魔弾を解き放てッ! ファイアボール……喰らえッ! 怒涛の超連弾ッ!」
「ギギギッ⁉︎」
これぞ! 俺の! 最大出力ッ! フハハハハ! 焼き尽くせ! 燃え尽きろ〜!
至近距離で、ありったけのファイアボールをぶっ放してみれば。いくら男好きなベロチューモンスターも、丸焼きにされるのはご勘弁と、ヒラリとロムルスから離れていく。だけど、流石に10発全部を避け切れる程、素早くもなかったようで。2〜3発はしっかりと奴に着弾した模様。
「おぉ、イグノ君、やるな!」
「おぅよ! 伊達にファイアボールは極めてないぜ!」
「うんうん、ますます頼もしいな〜。あっ、因みに。……この様子だと、キリアさんは植物系のデザイナーズだと思うし、炎属性は弱点のはず。この調子で、ジャンジャンヤキを入れてやってくれ〜」
よっしゃ。だったら、張り切ってヤキ入れたるぜ! 俺のロムルスを穢した責任、バッチリ取らせちゃる!
「邪魔、しないで……! 私は、今度こそ、幸せになるんだから……!」
「あれっ? この姿でも喋れたんだ?」
本性を曝け出した後は、奇声を上げるだけだと思っていたが……モンスター度マックスなキリアさんから、可愛いか細い声が聞こえてくるじゃないの。うーん、声だけは本当に可愛いんだよなぁ。美少女アニメの声優かよってくらい、キュン度高めな萌え声なんだよなぁ……。ビジュアルとボイスが合ってないから、違和感しかない……。
(それにしても……今度こそ幸せになるって、どういう意味だ?)
もしかして、人間だった時は不幸だったって事?
「私は、今度こそ、幸せになるの! 惨めに捨てられる方じゃなくて、選ぶ側になったんだから! だから……」
「だから……?」
「私だけのイケメン王国を作るの! この美貌と! 魅了の能力で! だから、坊やはいらないの! イケメン以外は全員、マンドラゴラになっておしまい!」
「はぁッ⁉︎ それ、どういう意味だよ⁉︎」
ちょっと待て! それってつまり、俺はイケメン枠から外れたって事か⁉︎ まさかの肥料枠⁉︎
(ゆ、許せん……! 俺程の美少年を、イケメン枠から外すなんて……!)
そうともなれば! ヤキを入れるついでに、その美的センスを徹底的に焼き直してくれる! 覚悟しろ、このブサイクビッチモンスターが!
【登場人物紹介】
・キリア(地属性)
ヴァラハ公国公認の聖女……の皮を被った、デザイナーズエレメント。年齢不詳。
クグツマンドラゴラの胚を埋め込まれたことにより発生したデザイナーズエレメントであり、媚薬を使わずとも、自前のフェロモン(神経毒)で人間の男を骨抜きにすることができる。
そうして、気に入った相手は「コレクション」と称して拉致監禁する一方で、好みから外れた相手はクグツマンドラゴラの宿主にすることで媚薬を作り出し、「ご主人様」に献上していた。
【補足】
・デザイナーズエレメント
人工的に作られた精霊、あるいはそれに準ずる魔物のこと。
魔物や精霊の肉体の一部を移植し、強制的に馴染ませることで生み出される、後発的な魔法生命体の総称。
魔力適性を持たない人間でも魔法能力を獲得できる数少ない手法の1つではあるが、魔物としての習性も色濃く受け継ぐことになるため、人としての生活様式を維持することはまずできない。
元はリンドヘイム聖教が「霊樹復活」に必要な「精霊の生贄」を量産するために研究していたのが発端とされており、同教団が解体されたと同時に研究も立ち消えたはずであったが……秘密裏に研究を引き継いでいた者がいたらしく、霊樹戦役後からは「極めて完成度の高いデザイナーズエレメント」の報告例が相次いでいる。




