8.5−6 探索だョ! 全員集合
チュンチュン……あぁ、妙にしっくりくる小鳥の声がする……。そうか、もう朝か……。
どうやら、あの後……俺はいつの間にか、眠っていたらしい。腹一杯になっていたせいもあるだろうけど、何より、疲れていたんだろうな。それはそれはもう、グッスリとよく眠れちまったようで。どうやって潜り込んだのかは知らないが……体はきちんと寝袋に収まっていて、フカフカな寝心地で心も体もしっかりとリフレッシュできたっぽい。
(うーん、最高の目覚めだな……って、あっ! あの後、ハーヴェンはどうなったんだろう⁇)
爽やかな森に似つかわしい、小鳥のBGMを合図に優雅に目覚める……なんて、悠長な事を考えている場合じゃなくてな。冒険者に「お裾分け」に行ったハーヴェンのその後を、俺は知らないまま眠りこけたっぽい。そうして、慌てて起き上がってみれば。……朝から呑気に鍋をかき混ぜているハーヴェンの姿が目に入る。
「おっ、おはよう、イグノ君。よく眠れたか?」
「あ、あぁ……おかげさまで、バッチリ眠れたけど。えーと、ハーヴェン」
「うん? どうした?」
「あの後……大丈夫だったのか?」
俺の言う「あの後」がすぐに分からなかったようだが……しばらくして、「あぁ!」と声を上げたのを見るに、思い出したようで。ハーヴェンがクイッと首を傾げながら、周辺を示す。百聞は一見に如かずとでも、言いたいんだろうが。ハーヴェンのほんのり無愛想な仕草に、俺は嫌な予感を隠せない。
「……」
仕方なしに、釣られるようにして、俺も辺りを見渡せば。やっぱりと言うか、何と言うか。……冒険者共がスヤスヤと気持ちよさそうに、寝袋姿で転がっていて。「探索だョ! 全員集合」な光景に、ちょっと頭が痛い。
なるほど。お人好しなハーヴェンが手土産をぶら下げて行ったら、こうなるのか……。
「……ハーヴェン。こいつらも一緒に連れて行くつもりなのか?」
「うん、まぁ……成り行きで、そうなったな。……アハハ」
……アハハじゃないんだよ。アハハ、じゃ。成り行きでも、普通はそうはならないんだよ。
「いや……食糧を途中で落としちまったとかで、食うに困っていたみたいでさ。ゲッコウダケを食おうとしていたから、慌てて止めたんだよ。でも、食中毒で倒れられても困るし、かと言って、野垂れ死にさせるのも……なぁ。だから、ご一緒にいかがと誘ってみたんだ」
あっ。そのキノコなら昨日、記録してたな。夜になると光って綺麗だけど、食えば一発アウトだって聞いた気が……って、そうじゃなくて、だな! お前はどうして、そこまで面倒見までいいんだよ! そんなもん、野垂れ死にさせとけよ! こいつらがどうなろうと、お前は1ミリも困らないだろうが⁉︎
(ヤバい……本格的に、目眩がしてきた……)
折角、清々しい朝を迎えられたと思ってたのに。知らない間にむさ苦しい男所帯が出来上がっていた事に、俺はクラクラしている。それでも……俺の心配(お宝が横取りされちゃうかも!)なんて、屁とも思っていないのだろう。かき混ぜていた鍋から、ホカホカといい匂いのするスープをよそいつつ、大きめのパンと一緒に渡してくるハーヴェン。……もう、いいや。俺が心配したところで、こいつの平和ボケは治らないんだろうし。……俺は俺で、お宝ゲットを目指そ。
「うう……何とも、いい香りですぅ……!」
「おっ、お目覚めかな。えぇと、キリアさんだったっけ?」
「あっ、ハーヴェン様ぁ! おはようございますぅ!」
って、おぉい! ちょっと待て! 今……女の子の声がしたか? 女の子の声がしたよな⁉︎
スープどころじゃないと、慌てて声がする方を見れば。バチッと目が合った瞬間、視界がクラリと輝く。
まぁ、なんと言う事でしょう⁉︎ むさ苦しいばかりだと思っていた集団の中に、ニョキっと寝袋姿の女の子が生えているじゃないの! キリアさん? キリアさんって言うんだな、チミは!
(ふぉぉぉ! 寝袋姿も可愛い君は、まさにゲッコウダケ……いや、君だけさ! 俺の視界に映っていいのは、キリアダケ!)
寝袋から顔だけ見えている状態なもんだから、ちょっと間抜けな格好だが……いや、いい! むしろ、それが実にいい! お顔は間違いなく可愛さ満点だし、ニョキニョキ具合もナイスベリグーなのよ!
「……イグノ君。スープは冷めないうちに召し上がれ」
「えっ? お、おぅ……」
あれ? ハーヴェン……なんだか、ちょっと不機嫌そう? 俺がキリアさんに注目するのが面白くないと言いたげに、早く食えと急かしてくる。……普段だったら、こんな風に強要したりしないのに。まさか、嫉妬……
(なワケ、ないか。ハーヴェンは大天使ちゃんにゾッコンみたいだし……)
そうそう。ハーヴェンは既婚者で妻子持ち。しかも、夫婦仲は(一方的なバランスだが)良好っぽくて。……今更、こいつが他の女の子にちょっかい出すとは思えない。
(うーん……ハーヴェンはちょっと不機嫌な感じだったが、スープは至って普通……最高に美味い!)
起き抜けの腹に優しく馴染む、具沢山の野菜スープはたった1杯で心も腹も満たしてくれる。しかも、一緒に渡されたパンもまた、絶品で。バターが馴染んだ生地はモチモチで、弾力のある歯応えで噛めば噛む程、じんわりと旨味が広がっていく。
(あれ? なんだか、キリアさんのキラキラ感が減った……?)
彼女しか目に入らないと言わんばかりに、キラキラと輝いて見えたのに。乱雑に寝袋を脱ぎ捨てて、無遠慮にハーヴェンにスープをねだる彼女に、今度はちょっとガッカリしている自分がいる。うーん……運命の予感とかって、ビビッと来ちゃった気がしたけど。改めて、マジマジと見れば……そんな大層な感じじゃなさそうだし。さっきのトキメキは一体、何だったんだろう?
【補足】
・ゲッコウダケ
月の光で生長するとされる、毒キノコ。
日没後に仄青く発光し、幻想的な姿を見せる。
白く繊細なカサを持つ小型のキノコであり、儚げで弱々しい印象を受けるが、本体だけではなく胞子にも猛毒を蓄えており、特に胞子が放出されることの多い雨の次の日は、ただ近づくだけでも非常に危険。
万が一口に含んでしまった場合の致死率も100%に近く、激しい嘔吐・下痢を伴う腹痛を引き起こし、消化器系臓器の細胞を壊死させる。
鑑賞用に無毒化した品種もあるが、本来の発光機能は劣化している上に、食用にも適さない。




