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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第8.5章】イグノ君、遺跡調査をする
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8.5−3 悪魔の最大出力

 なんだかなぁ。ハーヴェンの平穏っぷりに、俺は呆れることしかできないが。飽きずに前を進んでいたはずのハーヴェンの背中が、ピタリと止まる。思わせぶりに「シーッ」とか、いかにもなジェスチャーをしてくるのを見るに、何かを見つけたらしい。


「ハーヴェン?」

「不味いな。前方に魔物の群れ……しかも、こりゃかなりの数だ」


 ちょっと背の高い草むらに身を潜め、小声で囁くハーヴェンが示す方を見つめれば。確かに、少し先の草むらで、何かの黒い背が蠢いているのが見える。

 あれは、何の魔物だ? 角を見るに……鹿っぽい?


「草食系の動物か? あまり強そうに見えないけど……」

「……いや、あれはデザートエルクが魔物化したものと見ていいだろう。厄介なのに遭遇したな……」


 意外と物知りなハーヴェンによると。デザートエルクはゴラニア大陸の乾燥地帯に住んでいる、ヘラジカの一種らしい。砂漠気候に適応した種で、原種よりも寒さ・暑さに強い上に、元から気質も極めて荒いんだとか。そんなのが、瘴気の影響で更に巨大化と凶暴化したのが、向こうで列をなしている魔物……になるんだよな、多分。


(いや、待て待て待て! 鹿と見せかけて、恐竜の間違いじゃないのか⁉︎)


 いつの間にか、ズンズンと巨体を揺らして、こちらにやってきたかと思えば、すぐ近くヘラジカの群れが行進していて……よくよく見たら、ムチャクチャデカいぞ、コイツら。……角のせいじゃなくても、10メートルはありそう。


「コレ、どうするんだよ……。殲滅するのか?」

「いや? 殲滅するには、ちょっと厳しい数だ。この状況だと、取りこぼしも許されない」

「えっ、なんで? 逃げられる分には、別に……」


 「問題ない」と言いかけたところで、ハーヴェンが背後を頻りに気にしているのに気付いて、奴の心配事を理解できちゃう俺がいる。……いや、だから。どうして、勝手に付いてきた奴らの事まで心配してんだよ。


「できれば、通り過ぎるのを待ちたいところだが……素通りさせたら、冒険者の皆さんと鉢合わせしそうなんだよなぁ……」


 あぁ、もう! 本当にどこまで平和ボケしてんだよ、お前は。そんなんだから、大天使ちゃんの尻に敷かれっぱなしなんだろうが!


(でも、放っておけって言っても、渋るんだよな……きっと)


 これだから、平和主義の悪魔は困るんだよ。知り合いでも何でもないあいつらが襲われたところで、何も困りもしないはずなのになぁ。それどころか、お宝の取り分が減るとか……もうちょい、普通の思考回路も持ってくれよ。主に俺のために。


「……だったら、さ。足止めしときゃ、いいんじゃないの? 氷漬けにでもしとけば?」

「それもそうか。デザートエルクは寒さにも強かったと思うが……うん、最大出力であれば、イケるかも知れない」


 いや、俺が足止めしろって言ったのは、冒険者側のつもりだったんだけど。……ハーヴェンの思考回路だと、魔物側が足止め対象になるみたいだな……。


(しかし、ハーヴェンの最大出力って、どんなモンなんだ?)


 悪魔の最大出力、かなり興味があるな。それに、最大出力は男のロマンだろ。主に、ロボとか、メカとか、必殺技とか。……いつか俺も「これが! 俺の! 最大出力ッ!」とか、やってみたい。


「という事で……イグノ君、俺から離れないでくれな」

「えっ? 離れないって……くっ付けばいいのか?」


 あっ、この流れはアレだよな? 巨大Gを氷漬けにした時と同じパターンだよな? 今回は向こう側に戻るつもりはないみたいだが、きっとあの魔法をぶっ放すつもりなんだろう。


「……素直にいうことを聞いてくれるのは、嬉しいけど……そこまでピッタリくっつく必要はないぞ?」

「……あっ、そう」


 離れるなって言ったのは、お前だろうが。例のG襲撃を思い出して、勢いで抱きついたら……ハーヴェンのヤツ、妙に塩っぱい顔をしやがったし。

 いや、待てよ! 俺だって、ソーシャルディスタンスは必要だし! 好き好んで、男に抱きついたんじゃないし! かっ、勘違いするなよな!


「で? この位でいいか?」

「うん、そこなら巻き込まなくて済むかな。グレイシャルフィールド、効果が高いのはいいんだが……デフォルトの効果範囲が広過ぎるんだよなぁ。その上で最大出力となると、なかなかコンパクトに展開するのが難しくてさ。特にすぐ近くに照準を合わせる場合、自分はともかく……味方を巻き込んじまう事もあって。この辺の制御もバッチリできればいいんだが……俺もまだまだだな」


 そうなの? お前でも、「まだまだ」判定になるのか? あれだけ派手に氷漬けにできるのに?


(うーん……やっぱ、妙な異世界に転生しちまったなぁ……。この世界、冗談抜きで魔法が難し過ぎるんだよ……)


 どうもこの世界の魔法は発動自体の難易度が高い上に、制御自体もかなり面倒臭い設定になっているっぽい。俺に言わせれば、「そんなもん、味方もまとめてやっちまえよ」でいいと思うんだけど。特殊祓魔師的には、味方を巻き込むのは最悪判定になるみたいで……一気に「危険人物」扱いされて、モテない路線まっしぐららしい。

 で、肝心の魔法だけど……これまた、転生者に優しくない要素てんこ盛りだから、ふざけんなよと言いたくなる。照準合わせを間違えたら変な所で暴発するわ、錬成度を間違えたら意図しない効果がくっつくわで……ちゃんと発動できたとしても、今度は「いかに制御するか」という別の問題が浮上してくるもんだから、冗談抜きで頭が痛い。

 そんで、魔術師としてモテるには、魔法を発動できるのは当たり前として……この制御やら、追加効果やらを思い通りに使いこなす必要があって。……この世界の美少女ちゃん達は実力主義者で、見た目よりも魔法の腕が重視される感じがある。どうやら……今までの俺がモテなかったのは、「いいのは見た目だけ」判定にされてたからっぽい。


(くそぅ……! だったら、その辺もきちんと説明しておけよ!)


 モテるためだったら、魔法の勉強も頑張れたのに。もうちょっと、優しく教えてくれてもいいだろ!


「紺碧の深淵、永劫の苦痛に身を委ねん……氷土の交わりを持って、絶望を知れ! グレイシャルフィールド!」


 そんなこんなで、俺が内心で「ゴラニア世界クソッタレ!」と不満をぶちまけていると。ハーヴェンが何の苦労もなく、例の魔法をしっかりと発動していやがる。そうされて、恐竜もどきヘラジカの動きがピタリと止まったかに見えたが……。


「ブフォォォッ!」

「……! クッソ、取りこぼしちまった!」

「えっ⁉︎」


 魔物の群れ後方から、絶対に怒っているっぽい雄叫びが聞こえてきたかと思えば……すぐさま、凍っている魔物を跳ね飛ばしながらドスンドスンと何かがこちらに迫ってくる。一際妙にデカいのが、こっちに来てるんだが……?


「ハーヴェン、これ……怒ってるよな?」

「お、おぅ……絶対に怒ってるな。うん……」


 ……お前、さ。取りこぼすにしても、選りに選って、何でコレを取りこぼすんだよ。

 目の前で鼻息を荒げるそれを見上げれば……そこには、一際大きな角を振りかざした立派なヘラジカが立っていて。苛立たしげに蹄をズシズシ鳴らしながら、こちらを睨んでいた。

【補足】

・デザートエルク

砂漠の巨兵とも称される、ヘラジカに酷似した陸上生物。主に、ゴラニア大陸西方の砂漠地帯に分布。

オスの成獣は体長5メートル、体重900キログラムにも達し、扇状に広がった角は3メートルにまで及ぶ事も。

原種とされるグランエルクよりも小柄だが、首が長く、鼻先で砂をかき分けて餌を探し出す。

乾燥地帯に適応した食性を獲得しており、砂漠に埋もれた鉱物を主食としている。

原種に劣らず非常に気性が荒く、特に繁殖期に彼らの群れに近づくことは、むざむざ命を捨てに行くようなものである。


・グランエルク

樹海の巨神とも呼ばれる、ヘラジカに酷似した陸上生物。主に、ゴラニア大陸北方の寒冷地帯に分布。

オスの成獣は体長7メートル、体重2トンにも達することがあり、太陽の光を効率的に集めるために発達した漆黒の角は全長で5メートルになる事もあるとされる。

重たい角を支えるため、首はがっしりしており、短い。

頭を地面まで下ろすことが難しく、グランエルクの生息域では特定の高さの植物だけ食べ尽くされてしまう。

そのため、生息域を把握するのは容易であり、気性の荒い彼らの住処へ踏み込むべからずという警告にもなり得る。

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― 新着の感想 ―
ハーヴェン先生、根っからのお人よし!笑 イグノ君、そういえば。モテるためならなんでもできる人でしたね笑
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