8.5−2 血筋にまつわるエトセトラ
「とにかく、皆さんは情報公開まで待っていてください。調査が終われば、浄化遺跡のランク付けもそんなに時間はかからないと思うし。という事で……イグノ君、行くぞ」
「お、おぅ!」
って、ハーヴェン……さっきの自己紹介で、本当に思い留まるとでも思っているのか? 絶対に大人しく待ってないと思うぞ。
「……ハーヴェン、アイツら言うこと聞くかな?」
「いや? 素直に言うことを聞くタマだったら、公表前の浄化遺跡に群がらないだろ」
「えっ⁉︎ それじゃぁ、何であの程度で引き下がったんだよ!」
草をかき分けつつ、道なき道を進むハーヴェンだけど。どうやら、あの程度で冒険者共が引き下がるとは思っていないらしい。困ったようにため息を吐きつつ、ヴァンダートの状況について説明してくれる。
「今のヴァンダート地方は空前の建国ブームでな。元々、瘴気に覆われていたエリアが多かったせいか、浄化遺跡の発見と同時に人が住める土地も増えているもんだから。最近は名乗ったもん勝ちもいいところで、新興国家が乱立してて……領土争いも激化しているんだ」
そうして、それぞれが「ヴァンダートの王家はウチだ!」って名乗りを上げているのはいいんだけど。……証拠もないもんだから、箔も格好も付かない上に、互いに協力して復興を目指そうって動きもないらしい。
「だったら、王様を指定すればいいんじゃないの? 天使ちゃん達だったら、ゴリ押しできそうだけど」
「確かに、きちんとした統治者がいれば、色々と丸く収まるのかもな。だけど……ここにもちょっと、複雑な事情があってさ。実を言えば、ヴァンダートの正当な血筋は旧・カンバラに流れちまっててな。たった1人のお姫様を除いて、ヴァンダート王族は貴族もまとめてマモンに滅ぼされているもんだから……今のローヴェルズ王族以外の血統は絶えているんだ」
ハーヴェンの解説によれば。そのお姫様が旧・カンバラ(今のローヴェルズ)に亡命したもんだから、ヴァンダートには正統後継者は残っておらず、ディアメロ達(俺のマブダチ)がヴァンダート王朝の血筋も引いているんだとか。
しかし……マモンって、あのマモンだよな? あいつ、国を滅ぼすレベルの大物だったの……?
「……マモンって、そんなに強いの? あの見た目で?」
「アハハ、そうだよなぁ。マモンも見た目だけは、本当に若いからな。でも……あれで3000年くらい、魔界の頂点に君臨している悪魔でな。その気になれば、国どころか、世界を滅ぼす事もできちまうだろう」
「マジで……?」
……俺、実はかなりの大物と知り合いっぽい?
(いや! それよりも、だな! なんとなくだけど、あいつには結構な失礼をかましてた気がする……!)
殺されなかったのは、ラッキーだった……? いずれにしても、次からは大人しくしておこう。俺、まだ死にたくないし。
「えーと……マモンが国を滅ぼしたってのは、とりあえず置いといて。だったらさ。その辺も含めて、ちゃんと情報を公開すればいいんじゃないの?」
「もちろん、血筋にまつわるエトセトラは公開しているぞ? だけど、ついこの間までローヴェルズ王族は魔力適性のない“愚王の末裔”だなんて軽視されていたから。そっちにインパクトが食われちまってて、ローヴェルズは傍系の血筋に違いない……がヴァンダート民の見解らしい」
なるほどなぁ。確かに、これはちょっと複雑な事情かも知れない……。
(そう言や、ディアメロも「魔力を封印されている」なんて言ってたな……)
ディアメロが魔力を持てないのは、ローヴェルズの大臣が悪かっただけみたいだけど。現地人にしたら、そんな事は関係なくて。他の国に正当な後継者がいるだなんて、認められないんだろう。
それでなくても、ヴァンダート地方は砂漠に埋もれていると見せかけて、相当に資源が豊富な土地柄なんだそう。浄化遺跡の発見数も去る事ながら、元から地下資源やら、魔法鉱石やらがたんまり埋まってて……一旗揚げるにしても、色々と美味しい場所なもんで。「我こそは!」な自称王族は冒険者達を使って「王家ゆかりのお宝」をゲットし、悲願の箔付けを目論んでいるらしい。
「それじゃぁ、さっきの奴らは……」
「多分、近くの公国から差し向けられたんだろうな。Sランクとやらも、そちらのご当主様が勝手に認定しているだけだな」
「あっ、そうなんだ?」
「うん。依頼斡旋所では、人に対するランクは設けていない。彼らのランクは、少なくともオフィシャルの基準じゃないな」
なーんだ。Sランクパーティなんて言うから、「ラノベ的展開、キタコレ!」って、こっそりワクワクしてたのに。ヴァンダートは王様も自称なら、冒険者ランクも自称なんだな。……色々とガッカリな奴らだよ、ホントに。
「まぁ、そんな事情なもんだから……あいつらも雇用主のオーダーに応えようと必死だし、Sランクとやらの威信もあるんだろう。いくら俺が危ないって言っても、簡単に引き下がらないはずさ」
なーんて、ハーヴェンは言うけれど。……俺は純粋に、お宝目的なだけじゃないかと思うんだよな。いずれにしても、俺を差し置いてお宝を狙うなんて、許せん。
「で……イグノ君。案の定、あいつら、入ってきているみたいだ」
「えっ? どうして分かる……って、そうだった。ハーヴェン、耳もいいんだったな」
今のハーヴェンは「人間に化けているだけ」。そんでもって、本当の姿は狼っぽいベースに角と翼が生えていて……耳と鼻は特に高性能らしい。しかも、1度嗅いだ事のある相手の匂いは忘れないそうで。ターゲットの追跡もお手の物と、なかなかに探索向きな能力を持ってやがる。
「追い返すのか?」
「いや? この様子だと……俺達の後をついてきているだけみたいだし、鼻が届く範囲でチョロチョロしている分には問題ないかな」
「放っておくのかよ?」
「うん、別に構わないさ。俺達の目的は調査であって、お宝じゃない。それに……この距離だったら、魔物に襲われても助けに入る事もできるだろう」
……いつも思うんだけど。ハーヴェン、冗談抜きでお人好し過ぎないか? 奴らの面倒まで、しっかり見る気でいるし……。それに俺の目的は調査じゃなくて、お宝の方なんだよ。お前がそんな調子だったら、おこぼれも期待できないじゃないか。
(ま、まぁ? 今回は俺好みのお宝はなさそうだし……仕方ない、譲ってやるか)
鉱石はともかくとして、植物は冗談抜きでいらん。育てるのも大変そうだし、俺は細かい作業は苦手だし。こういうのは、好きな奴にやらせておくに限る。




