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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第8章】魔法武闘会、ついに開催です
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8−63 霊樹の制約

「新入りが来たって、聞いていたが……」


 ここは、真っ黒なグラディウスの箱庭。瘴気に慣れる訓練の合間に、セドリックはグリフィシーと噂話に花を咲かせている。

 あのバルドルを出し抜いて、グラディウスに迎えられた新入りがいるらしい。しかして、実態はそんなに華々しいものではなく……「療養中のグリフィシー」の弁によると、「命令通りの仕事しかできない、気の利かない奴」が、新入りに対する神様の評価との事だった。


「冗談抜きで、ケーリュケイオンしか持ち帰って来なかったのだそうですよ? 他の何を捨て置いてもいいと言われていた……なーんて、言い訳しているみたいですけど。神様お気に入りのバルドルを見捨ててきたのは、不味かったですねぇ」


 腕が一本しかないなりに、セドリックから器用にカップを受け取っては、嬉しそうに茶を啜るグリフィシー。

 今のグリフィシーは両足と左腕をヴァルムートに捥がれ、再生中の状態。辛うじて胴体と頭、そして右腕は残されたものの……いくら機神族の派生種と言えど、この不自由は堪えるらしい。妙な腐れ縁でセドリックが様子を見てやっているが、破損箇所が多かった事もあり、彼の完全修復は随分と先になりそうだ。


「私もこのザマですのでね。あまり、大きな事を言えた立場ではありませんが。ま……プリカントの所に送られた時点で、彼女の先行きは明るくないでしょうねぇ」

「プリカント? えぇと……」

「私達と同格……あぁ、いや。正確には、リキュラ様と同格の眷属ですね。あのキュラータを見出し、引き込んできた女狐ですよ」


 女狐と言うからには、プリカントは女性なのだろうか? それに、グリフィシーをして「あのキュラータ」と言わしめる程に、彼女が引き込んできた眷属は相当の傑物だった様子。


(引き込まれたって事は、僕と同じ……いや、違うか。グリフィシー達は眷属として作り替えられたのだったな……)


 セドリックにはまだ知らされていない事であるが。

 グリフィシー達のような「深淵」の名を与えられている眷属達は、必要な技術(を保持する記憶)に紐づく魂をグラディウスの神が拾い上げ、相応しい容れ物……つまりは、機神族ベースの体を与えられて作られた存在だ。実を言えば、セドリックのように肉体も精神も自前のままでグラディウスに迎え入れられる方が珍しい。

 尚、アップルフォニー達はそんな「深淵の眷属達」の配下にするべく、出来損ないのリンゴに「適当な魂」を封入して作り出されるため、役割や能力が大幅に異なる。作られた目的や経緯が違う時点で、深淵の眷属と摘果の従僕とでは扱いにも雲泥の差があるのだ。


「僕はキュラータとやらに会った事がないのだが……そんなに凄い奴だったのか?」

「それなりに。リキュラ様には及ばないものの、眷属一の防御力を持つとかで……全く、私の矢を悉く弾いてからに。憎らしい事、この上ありません」


 グリフィシーはほんのり憎々しげに鼻を鳴らす。それでも、キュラータが優秀な眷属であった事は認めてもいるようで……憎らしいと罵った同じ口で、「今頃、どうしているんでしょうねぇ」と呟き、懐かしげに遠い目をしているではないか。


「……なんだかんだで、仲が良かったんじゃないか」

「どうでしょうね。ですけど、アレがいなくなってから、ご主人様のご機嫌が麗しくないのです。代役の新入りを見つけたとの事でしたが……研究所送りになっている時点で、神様のお眼鏡に叶う逸材ではなかったのでしょう」

「そう言えば、プリカント? の所に送られたら、先行きは明るくないって事だったけど……何かされるのか?」


 キュラータがいないせいで、神様のご機嫌が悪い。その妙に好意的な口ぶりからしても、やはりグリフィシーにとって、キュラータは憎からず思っている相手ではあるらしい。だが、一方で……プリカントに対しては警戒をしてもいる様子。郷愁の表情をすぐさま険しく切り替えると、ほんのりと新入りの心配をし始めた。


「プリカントは主に、精神支配の研究を任されている眷属でしてね。自らの毒で生成した麻薬を使って、様々な実験をしているのですよ」

「実験? だとすると、その新入りは実験台にされてしまうのか?」

「おそらくは。それでなくとも、プリカントは霊樹戦役直後の実験で、それなりの成果を挙げています。……相当数の人間を、天使達に気づかれずに支配下に置く事ができたそうで。次は人間ではなく精霊や悪魔等、高次魔法生命体の洗脳を目標にしているみたいですよ」


 そして、どうも新入りとやらは悪魔らしい。これ程までに実験台としてピッタリな相手はいないと、グラディウスの神も、プリカント自身も判断したそうで。……彼女は神様の不興を買った失態もあり、眷属として迎え入れられるどころか、早々に実験台としての末路を迎える羽目になったのだとか。


「……洗脳されたら、どうなるんだ?」

「さぁて、ね。正直な所、私にも分かりません。ですが、人間界での実験結果を見る限り……グラディウスの養分を作り出すための原料にされるのが、関の山でしょうか」

「グラディウスの養分?」

「えぇ。……グラディウスは悪意を糧に生長する霊樹なのです。ですけれど、世界が平和になってしまったせいか、高純度の悪意が集まらなくなっているみたいでしてね。早急に補給ベースを確立しなければ、グラディウスは立ち枯れてしまう。そんなことになったらば……私も、セドリック様も。グラディウスの精霊として、生きていけなくなりますよ?」


 霊樹の死は、精霊の死。かつてのローレライに見られるように、機神族のベースを色濃く残す彼らにとって、グラディウスの喪失は生命の危機に直結する。


「ですので、ある意味でキュラータの選択は正しかったのかも知れませんね。天使の札を手に入れれば、霊樹の制約からは逃れる事ができる。本当に……何もかもを先に越されているようで、悔しい限りです」

「……」


 そこまで呟き、やれやれと首を振るグリフィシー。彼も一応はグラディウスの神様に忠誠心はあると見せかけて……そこはかとなく、自由を渇望してもいる様子。天使の札を手に入れ、人間界に踏み出したキュラータが羨ましいらしい。


(霊樹の制約……か。確かに、それは限りない不自由でもあるだろう。だけど、僕は……)


 自由を失っても、永遠の命を手に入れたかった。人間という制約から逃れて、最高の魔術師を目指す礎がほしかった。例え、誰かに「馬鹿な事をしたものだ」と呆れられようとも。セドリックはもうもう後戻りができない事も理解しているし、惨めったらしく後悔してやるつもりもない。

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