8−61 特殊祓魔師になるのは必須事項じゃない
「フォゼの降参を認めます。勝者……ミアレット!」
勝てた……勝ててしまった。フォゼの「降参」を受け、審判のお姉様が高らかにミアレットの勝利を宣言すれば。勝利の実感が込み上げてくる……はずもなし。実力で言えば、間違いなく自分は敗者であったと自覚しているからこそ、ミアレットは自分の勝利に実感を持てないでいる。
「ピヒっ! ピヒチュチュ!」
「うん……エックス君、ありがとう。私だけだったら、絶対に勝てない相手だったわぁ……」
「キュワ!」
多少の魔法を使いこなしたと言えど、時間稼ぎの囮役を勝って出てくれたエックス君なしに、この勝利はなかったろう。そうして、素直にエックス君に感謝を述べれば。自分が立役者であると、ちゃっかり理解しているようで……ミアレットの肩で「ドヤっ」と胸を張るのだから、エックス君もエックス君で、なかなかにいい性格をしている。
「えーと……フォゼさん。あのぅ……」
「……魔法道具を使いこなすのも、実力の内だ。確かに、ちょっと納得できないが……ここでズルいなんて喚く程、俺も子供じゃないさ」
回復魔法を施され、冷静に考える余裕だけは取り戻したらしい。鼻先で「ハッ」と小さく息を吐きながら、フォゼは落としたままの肩を小刻みに揺らしている。
「ったく、本当に……とんだ番狂わせだぜ。魔法道具を囮に使うだけじゃなくて、転移魔法まで使ってくるなんてな。なるほど。……切り札は最初からひけらかすものじゃないんだな」
「さっきの段取りに、そこまで深い意図はありませんよ? 転移魔法を習得したのは、別の目標のためですし……」
「目標? もしかして……お前にも、やり遂げたい事があるのか?」
あぁ、酷い目に遭った……と肩をグルグルと回しながら、目を丸くするフォゼ。しかし、驚きの顔から一変。今度は嬉しそうにニカッと笑いながら、とんでもない事を言い出した。
「だったら、話は早いな。……お前、俺と組め」
「へっ? 組むって……何を?」
「そんなの決まってるだろ? 課外学習のチームだよ」
「はい?」
決まっているも何も、ミアレットは入りたてホヤホヤの新入生である。それとなく、そんな授業があることも聞き及んでいるが……まだまだ課外学習がカリキュラムに追加されるお年頃ではないのだ。
「えーと……課外学習には、私はまだ参加できない気がしますけど?」
「いや、そんな事はねぇだろ。この魔法学園がゴリゴリの実力主義なのは、お前も知ってるだろ? 実力さえありゃ、飛び級も飛び込み参加も認められているぞ」
「そ、そうなんです……?」
それこそ、初耳である。実力主義はともかくとして、飛び級制度があるなんて、説明さえ受けた事もなかったが……。
(あー……でも、あり得るかもしれない? アケーディア先生が超実力主義者だもん……)
……あり得る。大いにあり得る。
あの副学園長先生は実力者を認め、素直に褒める度量はある代わりに、無能な相手はとことん蔑む傾向がある。その上で、「努力なき者に、学ぶ資格なし」と普段から口すっぱく言っているのを見るに、かなりの部分で潔癖らしい。そもそも、今回の魔法武闘会開催の発端が「玉の輿を狙うような、怠慢生徒を駆逐するため」だったことからしても、彼の真面目具合は筋金入りだ。
(それに、魔法学園って学年はあってないようなものなのよね……。特殊祓魔師になれる最低年齢とかも決まっていないみたいだし)
オフィーリア魔法学園・本校では明確な学年制度はない。何となーく、在籍年数で上級生・下級生の区分はあるようだが……授業も生徒側で選択して参加できるので、下級生と上級生が同じ教室で学ぶのも日常的な光景だし、明確な年功序列はなきに等しい。最初の授業こそ指定されているものの、初等カリキュラムさえ受けてしまえば、あとは自由。その後のカリキュラム自体も「どの授業をどれだけ受講したか」よりも「どの魔法をどれだけ修練したか」にフォーカスされており、参加すべき授業は指定されていない。
「すみません、お断りしたいです……」
「はっ? 何でだよ!」
「えーと、私は別に特殊祓魔師を目指しているワケじゃなくて。……純粋に転移魔法を極めたいんです」
「……転移魔法を極める? でも、だったら……」
「うん、言いたいことは分かりますよ? 転移魔法は全部、上級魔法ですものね。本来であれば、特殊祓魔師にならないと、上級魔法の指南書は見られないですし。でも、指南書がなくたって魔法の勉強はできますよ? だから、特殊祓魔師になるのは必須事項じゃないんですよね」
確かに、指南書があれば魔法の習得は効率的に進むだろう。だけれども、指南書がないと魔法を覚えられないなんて縛りもなく……的確な指導を得られれば、やってやれない事もないのだ。現に、マモンが寄越したお節介寄りな情報のおかげで、ミアレットはエアロトランスポートの習得に成功している。
「それに、私にはいつも組んでいるパートナーがいるんです。特殊祓魔師になるにしても、その子と一緒じゃないと意味がないと言うか……」
「……」
その上で、ミアレットがつれない事を言い出せば。パートナーのキーワードに思うところがあるのか、フォゼは表情を険しくして、黙りこくる。しかし、あまり間が持たなかったのだろう。……しばらくして、深いため息と一緒に「切ない事情」をこぼし始めた。
「そうか。そりゃ、そうだよな。本校にいる時点で、相方がいるのは当たり前か」
「まぁ、登学試験は片方だけ合格……なんて事もあるみたいなので、一概には言えませんけど。少なくとも、私はペアで合格したクチですよ。あっ、もしかして……」
「……そのもしかして、だよ。俺は単独合格のクチでな。こっちに来てからも、いい相方に巡り会えた試しがねぇ」
「そうだったんですね……」
これは……悪い事を言ってしまったかも知れない。試合中の勝ち気な表情から打って変わって、明らかな「ショボーン顔」のフォゼを前に……ミアレットはどうしたもんかなと、何故か自分の事のように悩み始めていた。




