8−42 純粋に構い甲斐があるだけ
(雰囲気からして、この人も強そう……!)
第4試合の招集を受け、ミアレットは闘技場へと歩みを進めるが。既に準備万端とこちらを見つめているアレクトレシアは、いかにも高貴なご様子で、凛とした佇まいを見せている。だが……彼女の手に凶悪なフレイルが握られているのを認め、ミアレットは「ぶつけられたら、痛いどころじゃ済まないかも」と戦う前から戦々恐々である。
「あなたが、ミアレット?」
「はっ、はひ。そうですけど……!」
「先程の戦い、見事だったわ。ウチのガヴェトを降すなんて、やるじゃない」
「へっ? ウチのガヴェト……さん?」
アレクトレシアの意味ありげな発言に、思わず首を傾げてしまうミアレット。対するアレクトレシアは、その様子が面白かったのだろう。「プッ」と吹き出したかと思えば、クスクスと笑い始める。
「フフ……彼は我がロメリア公国でも、優秀な魔法騎士なのよ? それを、あんな風にやり込めるなんて。あなた、なかなかに見どころがあるわ」
「は、はぁ……。それはどうも……」
いかにもな出立ちなもので、またも小馬鹿にされるのかと思いきや。意外にも、アレクトレシアはミアレットに一定の評価を寄せている様子。尚も嬉しそうに、ミアレットを褒めそやすが……。
「……」
「あら、どうしたの? 私が褒めてあげているのだから、もっと嬉しそうな顔をしなさいよ」
「いえ、今の……殆ど、本心じゃないですね?」
「えっ?」
「もしかして、私を利用しようとしてます?」
「なっ、何を根拠にそんな事を……」
心地よい褒め言葉に混ざる、嘘の匂い。ミアレットの予想外な反応と指摘に、アレクトレシアは言葉を詰まらせる。どうやら……ミアレットの指摘は図星だった様子。
(また妙な人が絡んできたわぁ。魔法学園って、普通の人はいないのかな、普通の人は)
自分にどんな利用価値があるのかは、今ひとつ分からないが。理由が分からなくとも、根拠は示すべきだろうと判断し……ミアレットはアレクトレシアにも見えるようにペンダントのトップを持ち上げ、発光している純白を示す。
ミアレットがアレクトレシアを疑った理由は、他でもない。大悪魔様からもらったペンダントが煌々と輝き、「こいつ、悪意持ちだかんな!」と教えてくれたからである。
「このペンダントは相手の悪意を感知できる魔法道具なんです。さっきのガヴェトさんの時は、光らなかったけど……他の人の時はちゃんと光ってて。アレクトレシアさんも、内心では私を馬鹿にしているんでしょう?」
別に構いませんけど……と、ミアレットはやれやれとため息を吐く。今の今まで、平民で通ってきたのだ。貴族の皆様方に馬鹿にされるのは慣れているし、いちいち怒る必要もないと思っている。
だが、ミアレットの好感度を稼がなければならないアレクトレシアとしては、彼女の冷めた反応はあまりによろしくない。そうして焦った勢いで、的外れな追及をし始めた。
「そ、そんな事は、ないわ……。第一、そんな魔法道具、どうやって手に入れたのよ! どうせ偽物なんでしょ⁉︎」
「このペンダントはお守りにって、マモン先生がくれたんです。だから、先生に確認すれば、偽物かどうかは分か……」
「なっ、なんですって⁉︎ マモン先生からの贈り物ですって⁉︎ 私を差し置いて、許せないわ!」
「ひゃっ⁉︎ え、えーと……?」
突如、お怒りになったアレクトレシアに怯えつつ。ミアレットはグルグルと、遠いようで何故か身近な大悪魔様の身辺について思いを巡らせるが。それらしい影があったら、ゴジに暗殺されているだろうなぁと、考えて……きっと恋愛系のお話ではないのだろうと、思い至った。
「あぁ、そういう事です? マモン先生は風属性ですものね。アレクトレシアさんも、個別にコツを教えてもらった感じです?」
同じようにレクチャーをしてもらったのに、ミアレットだけペンダントをもらったもなれば、お怒りになるのは当然かも。そうして、アレクトレシアの悔しさを理解した(?)ついでに、ミアレットは申し訳ない気分になってしまう。
「私も……? まさか、マモン先生に指導をしてもらった事があると……?」
「うーん……あると言えば、あるかもです。最初に巻き込まれた心迷宮攻略、マモン先生と一緒でしたし。その流れで、色々教えてもらって……」
「……な、なんて事……!」
あれ? 何かが違うみたい?
ミアレットは何気なく、事実を述べただけだったが。アレクトレシアの形相が更なる怒り模様に変化して。当初のお上品さをかなぐり捨て、彼女はキーキーと喚き始めた。
「なんて事、なんて事……なんて事なのかしらッ! マモン先生は、こんな芋臭い小娘が好みだって言うの⁉︎」
「は、はい? 好み……? いや、そうじゃなくて。私の場合は、純粋に構い甲斐があるだけかと……。えーと、アレクトレシアさん。一応、言っておきますけど……マモン先生、既婚者ですよ? お嫁さん、しっかりいますよ?」
「知ってるわよ、そんな事! でも、どうせその奥様だって歳を取って、いなくなるんだから! だったら、今のうちに次の候補として……」
どうやら、アレクトレシアの「私を差し置いて」発言は、しっかりと「そちら方面の話」だった模様。しかも、身の程知らずもいいところで……次の「奥様の座」に収まるつもりらしい。
(うわぁ……この人もしっかり、勘違い系の人だった……! どうして、こう……)
魔法学園の女子(天使様含む)は恋愛脳なのだろう。見れば、アレクトレシアは「私はファンナンバー1000以内なのよ……」とか、「お揃いのマグカップだって、持っているんだから……」とか、微妙な実績をブツブツと呟いている。
「アレクトレシアさん? アレクトレシアさーん!」
「はっ! なっ、何よ⁉︎」
「あの……とっても、言いにくいんですけど。マモン先生のお嫁さん、人間じゃありませんよ? 彼女も歳を取りませんから、他の女の人が割り込む隙はないんじゃないかと……」
「そ、そうなの……?」
「はい。100年以上は夫婦やってるって、言ってました」
それでなくとも、ミアレットは知っているのだ。マモンのお嫁さん……リッテルは絶世の美女であると同時に、異常な独占欲でマモンを振り回す事を。きっとお嫁さんの暴走癖をよくよく知っており、後処理が面倒なことも熟知しているのだろう。マモンは彼女と一緒になってからと言うもの、浮気1つしなかった(できなかった?)そうな。
(あぁ、そっかぁ。リッテルさんは先生じゃないもんね……。教員リストにもいないし、みんなが知らないのは当たり前かぁ……)
試合前だと言うのに……ガクリと肩を落とし、アレクトレシアは失意体前屈(いわゆるorzである)のポーズを取っている。これは慰めるべきなのか、放置するべきなのか。ミアレットは戦う前から、妙に塩っぱい気分にさせられていた。




