8−43 青春ですわ、修羅場ですわね……!
「あのぉ、アレクトレシアさん……? 大丈夫……じゃ、なさそうだわぁ……」
意図せず、失意のどん底に叩き落としてしまったらしい「対戦相手」は絶望のポーズを取ったまま。今度はブツブツと失意の独り言をエンドレスに呟いている。一方、ミアレットはと言えば。地面に手を突いたアレクトレシアを前に、「リアルでこのポーズする人、初めて見たわー」と少々呆れ気味である。
(あっ、そうだ。こういう時は、審判さんに進行をお願い……できないわ、これ。うん、ダメそう)
状況を打開しようにも、頼みの綱は一眼見ただけでプツンと切れるのだから……ますます切ない。
サッサと試合を進めるなり、アレクトレシアに戦意の確認をするなりしてほしいのだが。審判役の天使様は嬉しそうに「青春ですわ、修羅場ですわね……!」と溢しながら、怪しげにクネクネしており、まともな進行をお願いできそうになかった。ミアレットとしては、初顔の天使様ではあるが。名も知らぬ天使様であっても、彼女達の大まかなディテールは把握できてしまうのが、殊更切ない。
そもそも、これは青春でも何でもない。青春の風すら吹いていないし、何なら、修羅場にもなり損ねている。
「えーと、どうします? 対戦、するんですよね?」
それでも対戦を始めないことには、何も進まない。そうして、ミアレットが声を掛ければ……別の希望を見出したのか、ガバと起き上がり、アレクトレシアが闘志を再燃し始める。
「も、もちろんよ……! こうなったら、あなたに勝って、そのペンダントをいただくわ……! せめて、マモン先生を身近に感じ……」
「あっ、それも無理ですよ」
「な、何でよ!」
「だって、このペンダント……しっかり、利用者限定構築されてますもん。最初から私専用で作ってくれたみたいですし……」
だから、アレクトレシアさんが持っていても意味ないです……とミアレットが言おうとしたところで、またも地に伏すアレクトレシア。しかして、しばらくしてからヨロヨロと立ち上がったのを見るに、やる気を根こそぎ捨ててしまった訳でもなさそうである。
「い、いいわ……。とにかく、今日からあなたは私のライバルであり、戦友として認めてあげるわ……かかって来なさい」
「……ライバルはともかく、戦友って。ま、まぁ、友達になるのは構いませんけど……」
ペンダントも光っていないし、今の発言に裏はなさそうか。しかし、戦友とはこれ如何に。初めて出会った相手(しかも、友人かどうかも怪しい)に使う言葉ではない気がすると、ミアレットはアレクトレシアのズレ加減に、またも呆れていた。
(それはそうと……これはこのまま戦意喪失してくれてた方が、よかったかもぉ……。やっぱり、対戦の流れにはなるんだわぁ……)
「かかって来なさい」の発言からしても、アレクトレシアは実力に自信があるのだろうし、実際にミアレットも「間違いなく、強い人だわー」と認識している次第である。彼女の方が上級生でもあるのだし、胸を借りる相手としても申し分ない。
「ふふ……でしたら、試合を開始しましょうね。お怪我はバッチリ回復しますから、2人ともしっかりはっちゃけて下さいね」
しかも、試合開始の合図は妙に抜けているのだから、やる気を滾らせるアレクトレシアとは対照的にミアレットは脱力してしまう。まぁ……責任は取ってくれるつもりらしいので、ミアレットは天使様のはっちゃけ具合はスルーすることに決め込むと、魔法武器2種を選択して構えた。
「ではでは、両者、準備はいいかしら……始めッ!」
天使様の合図と同時に、互いに呪文を唱え始めるミアレットとアレクトレシア。そうして、先に魔法を発動したのはミアレットであったが……。
「天翔ける風を集め、汝の衣とせん! 疾走せよ! エアロブースター!」
お決まりの補助魔法をウィンドブルームに展開し、ホッと一安心のミアレット。しかしながら、ミアレットはこの時点ですっかり忘れていたのだ。……相手も同じ風属性であることを。
「沈黙を守れ、静寂を望め! 声を奪い、舌を摘み、虚無を育まん……サイレントカノン!」
「ウゲッ⁉︎」
「ふふ……どう? これで、あなたの方が魔法を使えなくなったわね? 小賢しいウィンドチェインも、発動しなければ怖くないわ」
まさか、自分もガヴェトと同じ状況に置かれるなんて、思いもしなかった。ミアレットは「あちゃ〜」とおでこに手を充てながら、絶望に嘆く。その様子に、アレクトレシアは彼女を恐るるに足らぬと早々に判断し、勝利を確信するが……ミアレットの嘆きは、アレクトレシアの予想とはちょっぴり異なる理由だった。
「降参するなら、今のうちよ? 何せ、私はウォーメイジですもの。魔法だけじゃなくて、武器も得意なのよ!」
「そうなんですね。だとしたら……そっかぁ。アレクトレシアさん、私と似たタイプだったんですね……」
「何ですって?」
「えーと……実は、私もちょっと武器寄りのクラスと言いますか……。魔法型よりも物理型っぽいんです……」
「……はっ?」
肩を落としながらも、コズミックワンドをしっかり握りしめ。ミアレットは尚も、ウダウダと不満を垂らしているが。アレクトレシアにしてみれば、いかにも魔法使いっぽい杖には攻撃性があるとは思えない。それに今の今まで、ミアレットはあの武器を試合で使っていなかったではないか。
(その事からしても、魔法攻撃力アップのために持っていたと思っていたのだけど……まさか、違うと言うの⁉︎)
そう、違うのである。ミアレットがコズミックワンドを使い惜しみしていたのは、物理攻撃ができないからではない。むしろ……逆も逆。物理攻撃ができ過ぎてしまうため、凶暴なクラスへと押し上げてくれちゃいそうだったからである。
「こうなったら仕方ないなぁ、もう……。武器でガンガン行くの、やりたくなかったのに……。でも、魔法が使えないとなったら、やるしかないかぁ」
アレクトレシアの焦りにも気づけぬまま、ミアレットは渋々とコズミックワンドを振るうと見せかけて……。
「と、いう事で……行っきます! 必殺! スターダスト・エターナルビームッ!」
ウィンドブルームの上で何の冗談かと言いたくなるような、「キラキラ★ポーズ」をキメたミアレット。持ち主が心の中で滂沱の涙を流しているなんてお構いなしに、凶悪なステッキは今日もノリノリで強烈なビームを放つ。
「ちょ、ちょっと……何よ、それッ⁉︎」
一方のアレクトレシアは、上空から一方的に放たれる光線から逃げるのに精一杯。フレイルで振り払おうにも、太っとい光の束は鉄球でどうこうできる類の攻撃ではなかった。
「アハハ……! アレクトレシアさん、次、行きますよ〜」
「はぁっ⁉︎ 次⁉︎ 次もあるの⁉︎」
しかも、ミアレットは別方向に振り切れてしまったため、もうもう手加減をするつもりもなく。どうせ既に「ルーンウォーリア」等という凶悪路線不可避なクラスになってしまっているのだ。これ以上の恐怖もないだろうと、破れかぶれの状態である。そうして……乾いた笑い混じりで、更なる「素敵なポーズ」をビシッとキメた。
「そーれ! 殲滅ッ★ バーニング・ストリィィィムッ!」
「ギャァッ⁉︎」
さりげなくホーミング攻撃の「バーニングストリーム(仮称)」は優秀なオートエイム性能もあって、ミアレットは苦労知らず。放つだけで相手を的確に追い詰めるのだから、ますますチート(ズル)染みていると……ミアレットは「自分、格好悪い」と思ってしまうのだった。




