8−41 興国の起爆剤
残る参加者は16名。ここまでくると全員が「優勝圏内」に入ってくるだろうが、もちろんの事、勝ち残っているのはハイレベルの猛者達。「最優秀令嬢を決める(=王妃を決める)」なんて触れ込みだったはずの魔法武闘会は、発案者のモリリンを始め、彼女の取り巻き達が悉く敗退したためか……いつの間にやら、真っ向勝負の場へと変貌を遂げていた。
(あぁぁぁ……優勝が遠い気がするわぁ。ここまで残っている人って、要するにガチで強い人って事じゃない。半分が男子だし、完璧に玉の輿狙いの人達じゃなさそう……)
間違いなく、お遊び半分じゃないだろうな。下手に勝ち残ってしまったミアレットは、「どうしてこうなった」といつも通りに頭を抱えてしまうが。それでも、キュラータとの約束も思い出し、いけないいけないと首を振る。
(気持ち、切り替えて行かないと。えぇと、次の対戦相手はアレクトレシアさんって言うのね。……女の子だったら、ガンガン殴ってくる事はないかしら? でも、あれ? 確か、この人は……)
対戦表をマジマジと見つめながら、ミアレットは次の相手が同性である事に安心感を覚え……られるはずもなく。すぐさま、次の対戦相手がモリリンを撃破した女子生徒である事にも気づく。
(エレメントは同じ風属性だけど、あの戦いっぷりだと、武器でガンガン殴ってきそぉ……)
鉄球が付いた、あからさまに戦闘モードバリバリな武器。アレクトレシアの武器はいわゆる「フレイル」というものであるが。見た目は華奢な女子生徒が持つには、あまりにミスマッチである。
だが、彼女は凶悪なフレイルを難なく振り回すだけではなく、補助魔法を駆使しながら華麗に勝利を収めている。彼女のスマートで容赦のない攻撃からしても、武器での殴り合いは避けたいところだが……。
(補助魔法もしっかり使ってたんだよなぁ……。魔法もバリバリ使えそう……)
先程のガヴェトも相当の難敵であったが、次の対戦相手もかなりの強敵。お姫様みたいな華やかな雰囲気からは想像できない武器を手に、ミアレットを存分に苦しめてきそうな気がする。
(とにかく、できる限りの事をやるしかないわ。ダンディのご褒美ゲットするんだから!)
***
「ガヴェトが負けるなんて、珍しいわね。あぁ、いえ……わざと負けてきたのかしら?」
「いや? あのまま続けていても、俺は負けてましたよ、お嬢」
「ふ〜ん……そう?」
敗者は闘技場控室に留まることはできない。そんな事情もあり、ガヴェトは護衛対象でもあるお嬢こと、アレクトレシアと同僚・ノインに報告混じりの挨拶にやって来たが。お嬢の反応は冷めていると見せかけて……なかなかに粘着質なのだから、ガヴェトは内心で「やれやれ」と思わずにはいられなかった。
「……面白い噂を流してみたのに、これじゃ意味がないじゃない。あの下級生がこんなにやるなんて、想定外もいいところだわ。王子達の関心が薄れれば、ウチにもチャンスが巡ってくるのに」
「チャンスねぇ……」
アレクトレシアが言わんとしていることを察して、ノインとガヴェトは揃って肩を竦める。気がつけば魔法学園を駆け巡っていた「ローヴェルズの王子達は優秀な婚約者を探している」という噂は何を隠そう、アレクトレシアが発信源だった。
アレクトレシア自身は王子様ではなく、「推しのマモン先生」に夢中ではあるが、きちんとロメリア公国の一員としての使命は忘れていない。そして、父・ロメリア公の望みは「女神の愛し子」を手中に収めよ。願わくば、嫡男の嫁として据えられるよう懐柔せよ……という、若干横暴なオーダーだった。
「お父様の考える事は理解できない……なんて、言えないかしら。私はたまたま魔法の才能に恵まれたけれど。……お父様やお兄様は魔法が使えなくて、苦しい思いをしているのだもの。次世代こそは……って思うのも、仕方ないわ」
なんて、言いつつ。アレクトレシアは「はぁ……」と、思わしげなため息を吐く。物憂げに瞳を伏せ、頬に手を充てているアレクトレシアではあるが。ノインとガヴェトはアレクトレシアの「乙女な顔」を前に、「まーた、始まった」と遠い目をせざるを得ない。
「でも、次世代に望みをかけるのなら、私の子供でもいいのよね。……あぁ! マモン先生と既成事実を作れたらば、どれだけいいかしら!」
「いや、お嬢。それはいくらなんでも、無謀ですよ……」
「それに、そんな事をしたらば、それこそロメリア公が黙っていないと言うか……」
「そちらは、おいおい考えるとして……ミアレットが女神の愛し子かも知れないって情報は、外には漏れていないわよね?」
おいおい考えるも何も、万が一の可能性すらなさそうだが。恋する乙女というのは、何かと無謀になりがちである。
ローヴェルズの王妃レースに明け暮れる令嬢達を「下らない」と蔑む同じ口で、王子様達よりもガードの硬い大悪魔様への思いを熱っぽく語るのだから、アレクトレシアも同じ穴の狢……どころか、同じ穴の女豹なのかも知れない。根本は同じと見せかけて、アレクトレシアの恋愛観は夢見がちな令嬢のそれではなく。「既成事実を作る」事を目論んでいる時点で、かなり策略的かつ、享楽的であった。
「それは大丈夫ですよ、アレクトレシア様。大々的には公表されていない情報ですし、ヴァンダートで知っている者はいないかと」
「ならいいわ。ここではちょっと噂になっているけど……ヴァンダートに伝わっていないのなら、問題ないかしらね」
ノインの答えに、ひとまずは安堵の表情を見せるアレクトレシア。
魔力適性の有無が物を言う世相において、「突出した魔法能力」を利用したいと考える者が後を絶たないのは、自然な事かも知れない。それこそ、ローヴェルズの王子様達だって「優秀な血筋を確保したい」がミアレットとの交流の出発点だったのだ。同じように、新興貴族として一旗揚げようとしているロメリア家にとっても、「女神の愛し子」は是非に手に入れておきたい強力なカードだ。
「折角、私達が先に見つけたのだもの。他の連中に横取りされるなんて、つまらないわ。だから、ノイン。……分かっているわね?」
「もちろん、承知してますよ。……ヴァンダート出身者の監視は継続します」
「それで、結構よ。くれぐれも、ミアレットと接触させないようにして頂戴」
現代のヴァンダート地区はロメリア公国のような小国が乱立し、「王家を名乗ったモン勝ち」の状況である。そんな中で、魔力適性で箔付けしたいと考えるのも、無理からぬこと。要するに……彼らもミアレットの「イレギュラーな血筋」を興国の起爆剤にしたいと狙っているのだ。それを他の「同業者」に奪われるのは、面白くも何ともない。
「それはそうと……様子からしても、あの子が愛し子と見て間違いないかしら。ガヴェトが負けるような相手ではないにせよ、あれだけ魔法を連発できるのですもの。平民にしては、魔力量が多すぎるわ」
「俺もそう思いますよ。最初から最後まで、ミアレットさんは涼しい顔をしてましたし。俺だったら、とっくに魔力切れしてますね」
「まぁ、そうだったの? それじゃぁ……」
「だから、さっきから言っているでしょうに。俺はわざと負けたんじゃなくて、身の危険を感じたから撤退したんですよ。あのまま続けてたら、真っ黒焦げでしたね」
ふーん……そう? 次の対戦相手だと言うのに、ミアレット自身への興味はさほどないのか、アレクトレシアは退屈そうに相槌を打つ。いずれにしても、少しは接点を持てればいいかしら……と、軽く考えているけれども。とある魔法道具の存在を前に、ミアレットをライバル視することになるなんて……この時点のアレクトレシアには想像もできないことであった。




