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不承転生者の魔法学園生活  作者: ウバ クロネ
【第8章】魔法武闘会、ついに開催です
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8−40 復活の賜物

(ふふふ……流石はミアレット様。華麗なる作戦勝ちですね)


 ここはオフィーリア魔法学園・女子寮。とりあえずはまだ「モリリンの部屋」とされている一室で、カテドナはモリリンに注意を払いつつ……手元のデバイスでミアレットの奮闘を嬉々として観戦していた。

 「卑怯」だの「姑息」だのと、発言の趣旨からしても、ミアレットは自身の戦法をあまり快く思っていないようだったが。悪魔たるカテドナに言わせれば、ミアレットの戦術は「工夫」でこそあれ、「卑怯」ではない。


(ミアレット様は必要以上に謙虚でいらっしゃる。実力もあるのですから……もう少し、誇ってもいいでしょうに)


 ミアレット至高フィルター越しであろうと、なかろうと。カテドナには、ミアレットが自分の実力をあまりに過小評価しているように見える。だが……カテドナの「ミアレット考」は正しくもあり、ある意味で間違いでもあった。


 確かに、ミアレットは自身の存在を「見た目も実力もパッとしない」と思っており、それは周囲の評価とはあまりに一致しない。彼女は教員達がこぞって認める、優等生。それを「実力がない」と卑下するのは、謙遜以上に嫌味にも聞こえるだろう。そして、「ミアレットが謙虚過ぎる」というカテドナの視線は、この部分では正しい。

 だが、一方で……ミアレットは周囲からチヤホヤされたいとか、威張りたいとか、承認要求を満たしたいと思ったことは一度もない。正直なところ、目立つ事を全力で避けたいとさえ思っている。しかし、悲しいかな。ミアレットは中身が大人であるが故に、無自覚にも歳不相応に鋭いため、自然と目立っているのだ。その事に彼女は原因が分からないなりにも、悲嘆しているなんて……実力主義上等なカテドナには、理解し得ない事であった。


「うぅ〜ん……」


 カテドナがあれやこれやと、ミアレットの奥ゆかしさについて考えていると。脇のベッドから、微かな声が聞こえてくる。どうやら、モリリンが目覚めたようだが……カテドナは彼女の呑気で間延びした声に、「ミアレット万歳!」な思想を中断させられて、チッと舌打ちをした。


「あ、あれ? ここ……私の部屋?」

「……今のところは、でしょうかね。この部屋はすぐにあなたの部屋でもなくなる予定ですよ、モリリン・ファラード」

「……! あっ、あなたは確か、ミアレットの! それに、私の部屋でなくなると言うのは……あぁ、そうか。そういう事ですわね」


 まだ少しだけ、目眩がするのだろう。額に手を充てながら、モリリンが身を起こすが……カテドナの姿を認めて、取り乱すこともなく、淡々と置かれている状況を確認し始める。

 どうやら、彼女は自分が深魔になった事も覚えている様子。カテドナの冷たい指摘にも「当然ですわね」と肩を落としているのを見る限り、深魔になる前の高飛車なだけだった彼女とは別人のようだ。


(そう言えば……DIVE現象で沈静化した後は、宿主の精神は安定傾向になると言われていましたね。なるほど。モリリンの異常な素直さは、復活の賜物ですか)


 怪我の功名とするには荒々しいし、何よりも危険ではあるが。運よく深魔の暴走状態から生還できた場合、宿主の精神状態は穏やかにシフトチェンジする傾向がある。深魔に変貌する事自体が、あまり良くない状態ではあるのだが……この生還による「前向きな変化」は、深魔沈静化のトロフィーと併せて、数少ない利点だったりする。


「あぁ、本当に馬鹿馬鹿しい。私、ミアレットに負けただけじゃなくて、助けられましたのね……。でも、こんな状態で生き延びても、無駄ですわ。……魔力が本当にないのですもの」

「意外と冷静なのですね? まぁ……ミアレット様に助けられたという視点を持てるだけ、以前のあなたよりは遥かにマシでしょうか」

「言えてますわね。えぇ……本当に、私はお馬鹿でしたわ。深魔になる前に、ちゃんと気づけていたら……こんな事にはならなかったのに」


 まぁまぁ、なんて清々しい反応かしら。

 カテドナはモリリンを見つめながら……「ミアレットを害する相手は、片っ端から深魔にしてしまえばいいのでは?」なんて考えに至ったところで、フルフルと首を振っては迷案を打ち消す。いくらミアレット至上主義を掲げるカテドナでも、それが明らかな反則であると判断できるというもので。勢いでやらかす天使のお姉様達とは異なり、カテドナはやっぱり常識的で冷静なメイドさんであった。


「アケーディア様から、あなたには聞かなければならないことが山ほどあると、お伺いしております。そのご様子ですと……きちんと自覚もありそうですね。まぁ、必要以上に気を落とさない事です。おめおめと生き延びたのですから、ご自身ができる事をなさればよろしいかと」

「そうね。……そうするわ」


 あらまぁ、これまた潔い反応ですこと。

 毒気のある言葉にさえも、萎れた様子で返事をされれば……常々冷徹なカテドナとて、冷酷な鬼ではない。あまりの傷心加減が可哀想になったようで、小さく「仕方ありませんね」と呟くと、固有空間から自慢のティーセットを呼び出して……やや無愛想に、モリリンにお茶の誘いをかける。


「身を弁えているのでしたら、結構。……その素直さに免じて、特別にお茶を淹れて差し上げましょう」

「お茶ですの? あなたが?」

「えぇ。これで私はメイドでございますから。お茶くらい、完璧に淹れて差し上げますわ。アケーディア様のご質問に答えるにも、気力が必要というもの。……そのように消耗したままでは、あの方を満足させる事はできません」


 ピシャッと言い切り、妙な言い訳をデッチあげたカテドナは流れるような手付きで、手際良くお茶を準備し始める。そうして、さして待たされる事もなく傾けられたポットからは、最上の香りを纏った飴色の紅茶がティーカップへと注がれていく。


「さぁ、冷めないうちにどうぞ」

「いただきます……んぅ! あぁぁぁ……! こ、こんなに素晴らしいお茶を頂いたのは、初めてですわ……! あなた、お茶の名手でいらっしゃるの⁉︎」


 お茶の名手? なんですか、それは。

 滑稽な二つ名に首を傾げつつも、ほんのり嬉しいカテドナではあったが。極めてドライな表情を装って、当然の疑問を投げかける。


「何を大袈裟な。貴族ともなれば、日常的にお茶を嗜んでいたでしょうに」

「……そんな贅沢ができる程、ウチは裕福じゃなかったのよ。名ばかりの伯爵家ですから」


 あれ程までに見栄を張っていたのに、今のモリリンは自分の生家を「名ばかりの伯爵」と認めてしまえる程に諦めているらしい。家柄を笠に着て、鬱陶しいまでに取り巻き達に囲まれていた彼女とは本格的に別人ではなかろうかと……カテドナはついぞ憐憫を通り越して、疑い始めていた。


「でしたらば、いい思い出になりましたか? ……お代わりもありますし、ご遠慮なさらずにどうぞ」

「えぇ、是非に頂くわ。確かに、この味わいはいい思い出になりそうね」


 微笑みと一緒にティーカップを返してくるモリリンに、「2杯目はアレンジティーに致しましょうか」と、意外なサービス精神を発揮するカテドナ。成り行き任せの不思議な組み合わせではあるが、「今はゆっくり致しましょう」が目下、彼女達の総意である。

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