19 兎
よろしくお願いします。
私を乗せた二輪は、爆音と共にUターンをすると、猛スピードで来た道を引き返しだした。
振り返ると、突然現れて、後ろから追いかけてくる黒い霧。
それでも兄の二輪は素晴らしい加速でその黒い霧を振り切ろうとしていた。
多分、兄には黒い霧など見えてはいないと思うのだが。
然し、黒い霧は兄の二輪よりも早いスピードで追いかけてきていた。
もうすぐで、あの鉄の門を抜ける事ができる。
なんとか、あの鉄の扉を抜ける事ができたなら。
黒い霧はすぐ後ろに迫ってきていて、今にも私をつかもうとした時、二輪は鉄の門を越えた。それと同時に黒い霧は二輪に追いつき後輪をつかもうとしてきた。
黒い霧は、鉄の門から出られないのではなかった。
それもそのはずだ。
黒い霧は、私達の街にやってきて、私を此処へ連れてきたに違いないのだ。
国道へ出る道はT字路だ。
兄は二輪を減速しなければ、正面の山の壁に激突だ。
もちろん、兄は減速をした。
だめだ、追いつかれた。
黒い霧は私の足元の後輪を掴み、後輪を持ち上げた。
その時、施設の門の外にある森の中から1匹の兎が飛び出してきて、黒い霧に噛み付いた。ムーだ、私のたった一人の心の中の友人、小さな男の子、兎のムーだ。
黒い霧は地響きのするような恐ろしい声で唸ると、鉄の門へと引き返していった。
兄はT字路をウインカーも出さずに大きくバンクし見事に右へ折れた。
私の住んでいた街とは正反対の方向だ。
ありがとうございました。




