4D映画は、女子に優しくない
──葉月視点。
「ねぇ、ライム。女子から伏字のメッセージが送られてきたんだけど?」
は?
どういう事態?
「こういうのって、何を意味してると思う?」
あたしに、それを聞く?
あ、AIに聞いてるんだった。
=それは、誰からですか?=
「皆月さんだけど」
=きっとデートを嫌がってるのでしょう。
皆月さん抜きのデートにすれば、解決です=
「え?」
=AIの判断は正しいです=
「あ、あぁ。そうだな」
・ ・ ・ 日曜10時 ・ ・ ・
──大樹視点。
この町で『フューチャーアゲイン』を上映してるのは1か所しかない。
複数の映画を上映しているメトロシネマズだ。
しかも、ここのは4Dという仕掛けがしてあるらしい。
こういうのは初めてなので、とても楽しみだ。
通常の鑑賞チケット料金+1,500円の追加料金がかかる。
それを込みでチケットを購入する。
割り勘なので、自分の分だけだ。
これ、3人分俺が払うんだったら、ちょっと涙目だったな。
あれ?
伏字さんが待っていた。
「やぁ、皆月。なんでいるの?」
「あなたが誘ったんじゃありませんこと?」
「でも、なんか伏字のメッセージを送ってきてたし、怒りのメッセージなのかなと思って」
「え?」
皆月美晴は、自分のスマホを見た。
この小説では書けない内容になっていた。
皆月は、その内容を見て顔が真っ赤になった。
「こ、これ? どんな風に届いてますの?」
俺のスマホを皆月に見せた。
=しかたないから、■■■■■あげますわ=
「ふふっ。なんですか、これ」
「お前が送ったんじゃないか」
「操作ミスですわ」
それにしては連続してないか?
「変な漢字変換になっただけですわ」
「変な感じ変換?」
「変な感じ」に変換する機能か?
そういうのがあるんだな。
まぁ、最近のスマホは機能付きすぎてるもんな。
「あ、あぁ。そういうのがあるんだな?」
「え? えぇ。その通りですわ」
「割り勘にしたいんだけど、構わないか?」
「えぇ、問題ありませんわ。
なんならポップコーンとか飲み物をおごって差し上げますわ」
「マジか。金欠なんで助かるよ」
「ありがとうございます。ごちそうさまです」
義妹もちゃっかり便乗する。
席は3人並んでいる席にした。
俺が真ん中で、両手に女子という感じになった。
なかでも、葉月は、世界一だ。
なんだか、チラチラ見て来る奴らがいる。
俺は、周囲の妬みを一心に受けているようだ。
ちょっと、自慢げな気持になってしまう。
それが勘違いだったと気づいたのは後になってからだった。
上映前には、今後の上映予定映画の紹介などが流れる。
正直、両脇に女子というのは、非常に緊張するんだが……。
そのせいか、異常に喉が渇く。
飲み物を飲むと、ポップコーンとかを食べたくなる。
気がつくと、自分の席にあったものを半分以上飲み食いしてしまった。
「何やってんのお兄ちゃん。あたしの分けたげる」
そう言って葉月は、自分のポップコーンの容器から俺の容器にポップコーンを注ぎ込んだ。
「ありがとう。葉月」
ビー――ッ。映画館の照明が消える。
草むらをかき分けていくシーンから始まった。
主人公の動きに合わせて、椅子が揺れる。
足元で何かが動き、本当に草むらを通ってる感じがする。
すげぇな。こんな仕掛けまであるんだ。
高専生としては、リアルな感覚よりも、それを表現しているメカの方に興味津々だ。
自分なら、どうやって実現するか、いろいろ考えてしまう。
受けた感触から、どういう仕掛けなのか考えてしまう。
いかん、いかん、高専生の悪いクセだ。
しかし、一度考えだすと、止まらん。
雨のシーンに変わった。
顔や、手に水がかかる。
わっ!?
薄く水滴が付くミストなのだろう。
服が濡れるほどの勢いはないようだ。
霧吹きみたいな仕掛けかなぁ。
また、考えてしまう。
バトルシーンになった。相手との殴り合いだ。
殴られたり、衝撃を受けたりすると、背中やお尻を突かれるような振動が走る。
おぉ、これはスゴイ。リアルだ。
主人公たちは火に囲まれた。
焦げた匂いがしてくる。
首元から熱風が吹きつけ、火に囲まれている感覚がさらに強くなる。
匂いと熱風のコンボで、ホントに燃えてるんじゃないかと、あたりを見渡してしまったくらいだ。
敵の銃弾が主人公の顔の近くをかすめる。
それに合わせて耳元や顔の横を突風が出る。
まるで、本当にかすめたみたいだ。
主人公たちはなんとか火から逃れることに成功した。
バイクに乗った状態で、再びバトルが始まる。
かなりアクロバティックなシーンが続く。
というか、スゴイ揺れるな、これ。
めっちゃ揺れるんだけど。
ふと皆月の席を見ると、手を付けてない山盛りのポップコーンがボロボロと落ちていた。
当然ジュースも……。
ですよね~。
思えば、この劇場に山盛りのポップコーンを持って入ったのは、俺たちだけだった。
そういえば、売店の店員さんも、ポップコーンを山盛りで頼んだとき、制止していたような気がするな。
皆月が圧で押し切って、買ったんだっけ。
素直に店員さんの助言を聞いておくべきだったな。
皆の視線が激しかったのも「絶対こぼすぞ。あいつら……」ということだったみたいだ。
葉月を見てたのじゃないと、わかったのは少し残念だった。
俺は始まる前に飲み食いしすぎたせいで、全くこぼれずに済んだ。葉月の方も、俺に分けたことで、こぼれずに済んでいた。
いやはや、4Dおそるべし。
こうして、映画を見終えた。
「めっちゃ、楽しかった」と葉月。
「あぁ、良かったよな」と俺。
ん? 皆月が静かなんだが……。
あ~、メイクが落ちて、酷い顔になっちゃっていた。
ちなみに葉月は、基本すっぴんだ。
あいつがメイクしてるのを見たことがない。
スマホで検索してみる。
メイクが落ちないように、水演出を消すこともできたらしい。
俺も、今、知った。
皆月には、ちょっと悪いことしちゃったようで申し訳ない。
ということで、映画を見終えたが、俺たちは皆月のお色直しを待つことになった。
そんな間も、俺は、仕掛けのことばかり考えていた。
今日はデートのはずだった。
でも俺は、4Dの仕掛けとデートしていたのかもしれない。
そんな1日だった。
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