義妹を見に来たら、ゆるキャラだった
「葉月、日曜予定空いてる?」
「日曜? ちょっと待って?」
あたしは、スマホの予定を確認する。
午前中は、仕事が入ってる。
2時くらいに戻れるかどうかかなぁ。
「う~ん、午後2時すぎならなんとか」
「なら、ちょうどいいか?」
ちょうどいい?
「ちょっと合わせたいヤツがいるんだ」
例の嘘告白の女か……。
「う、うん。わかった」
まさか、ホントに家に呼ぶとは?
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
日曜
今日は声優の仕事だ。
この町の超ドローカルなゆるキャラ「ミーニャン」の声当てだ。
超低予算のお仕事だ。
ゆるキャラの動きに合わせて、声を当てていく。
「よいしょぉ。それぇ~……それじゃあ、またニャ~」
「お疲れ様」とマネージャー。
「中の人は着ぐるみをすぐ脱がないんですね」
かなり暑いだろうに……
「一応、子どもたちのイメージを壊したくないから、後から脱ぐようにしたいという意向らしいわ」
ふぅん、プロ意識が強い人なのかな?
もしくは、子供好き?
仕事を終えて帰路についたのだが……
駅を降りてから、ずっと付いてくる人がいる。
痴漢?
いや、でも、スカート履いてるな。
ちょっと横道に逸れてやり過ごすか。
あたしが横道に逸れると、あたしを追うことなく進んで行く。
なんだ、やっぱり気のせいか?
でも、進んで行く方向が同じなんだけど?
その女はあたしより先に我が家について、呼び鈴を押した。
え? ということは、この女が嘘告白の相手?
玄関ではちあわせるのは嫌だった。
なので、少し間を置いて、あたしも家に入る。
「ただいまぁ~」
「よいしょぉ」と座る。
すると、さっきの女があたしの両手を掴んだ。
「ミーニャン!!」
「え?」
「ミーニャン!!」
さっきの女が繰り返す。
「ミーニャンって?」
お兄ちゃんが聞く。
「この町のご当地ゆるキャラなんです」
その女が言う。
「知らないなぁ」
「市民とは思えないですニャ」
さっきの女は、ミーニャンのモノマネをする。
つられて、あたしも
「市民とは思えないですニャ」
「ミーニャン!!」
あ、やべ……。
「え~と、ミーニャンのファンなんですか?」
「私。ミーニャン」
「ごめん、全然わかんない」
「あ、私。ミーニャンの中の人」
「え? あの着ぐるみの中の人?」
「そう!」
「そして、声の人」と指さされる。
「あ……。うん。うん? もしかして今日も?」
「そう。今日も中に入ってたの。何か声の感じが似てたからぁ~」
それは、うれしい。
だけど……
置き去りにされたお兄ちゃんがポカンとしてる。
「よくわからないけど、同じ仕事してるみたい」
あたしが不明瞭な説明をする。
「ふ~ん」
お兄ちゃんは、それ以上は聞かなかった。
わかったのか?
それで?
面倒になっただけか?
それと、この子に嘘告白なのか聞くのか……。
同じ仕事してる人に疑惑向けたくないんだけどな。
改めて彼女を見る。
顔は悪くない。体型はポッチャリ型。胸は……でかっ。
お兄ちゃんがおっぱい星人だったら、コロリといきそうだな。
あたし、胸は大きくないし……。
ミーニャンはガンガン動くキャラだから、
中の人してるってことは、運動神経はいいんだろうな。
「ちょ、ちょっと。よくわかんないんだけど」
あたしは知らない第三者を装う。
「あ、あぁ。そうだな」
「え~と、この子は元同じクラブの皆月美晴。
こいつは俺の妹の葉月」
「妹と言っても、血は繋がってないけどね」
なんで、あたしは、こんなこと言ってるんだ。
「よろしく葉月ちゃん」
美晴はそう言って、あたしの手を両手で挟む。
なんだか、スキンシップが多い子だな。
「私、友だちの賭けに負けて、誰かに告白することになって……」
「ふぅ~ん?」
自分で認めちゃうんだ。
「知らない人だといろいろ面倒なので、知ってる人がいいかなと」
「知り合いなの?」
あたしは知らないフリをした。
「元同じクラブって言ったろ?」
「お兄ちゃん、部活してたっけ?」
「いや、乗馬クラブ。土日しか行ってないけど」
「あぁ、そっち……」
ん?
学生で乗馬クラブって、そこそこ裕福ってこと?
お嬢様ってこと?
一応、新しいお父さんも資産多いらしいし。
「なんか訳アリみたいだったので、一旦仮OKして……」
告白OKしたんだ?
「ふぅ~ん。好みのタイプだったの? キープ?」
タイプじゃないって言ってたくせに。
「いや、全然」
あれ?
「ちょっとぉ。本人の目の前でそういうこと言う?」
美晴はあざとく顔をふくらませ、ムカついていることをかわいく演出しようとしている。
「そうはいっても、そっちも、俺のこと好みじゃないだろ」
「うん。そうだけど」
「いつも、大人の人が好みって言ってたもんな」
「うん」
ふぅん。相手の好みまで知ってるんだ。お兄ちゃん。
「それで、あとでメッセージで、私、振られたの」
「は? そういう振り方あり?」
ちょっと雑すぎない?
「そう思うよね。ありえないよね?」
「いや、ライムも嘘告白だろって言っていたし……」
お前、ライム(AI)信者か!?
ちょっと、ホッとしているあたしがいた。
ちょっと、ほんのちょっとだよ。
「なのに、今日呼び出されちゃって?」
振ったんなら呼ぶ必要ないじゃん。
「なんか妹に合わせるように、AIに言われたって」
お前、なんでもかんでもAIの言いなりか!
もっと自分で考えようよ。
まぁ、言ったのあたしだけど。
「振ったんなら、あたしに合わせる必要ないじゃん」
「そうなの?」
「そうだよ」
――美晴視点。
「まぁまぁ、ふたりとも……」
私はふたりを制する。
「私も、長谷川くんの妹さんを見たいって言ったんだし……」
「え? そうなの?」
「うん」
どんなに美人なのかと思って見にきたら……
顔は悪くないけど、私の方が超絶美人じゃない。
背も低いし、私より胸も小さい。
いかにも男知らなそうだし、鈍くさそう。
こういうのがいいわけ?
まぁ、声はかわいいけど。
それだけだわ。
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