お兄ちゃん、どこに連れていく気?
それは、突然のことだった。
「大樹くん、この町を案内してくれない?」
「どの辺を案内しましょうか?」
「そうねぇ、名所。遊ぶところ。食い歩きするようなところ。」
「わかりました」
確かにこの町は初めて来たので、まだよくわかっていない。
「それじゃ、出かける準備をしてきますね」
「あたしも準備してくる」
お兄ちゃんとあたしが出かける準備を終えたところで……
「ごめんね。大樹くん、私、ちょっと用事ができちゃった。
葉月だけ、案内してくれるかしら?」
「「え?」」
あたしたちは、顔を見合わせる。
これって、デートというヤツなのでは?
とはいえ、家族を案内するつもりだったのだろう。
お兄ちゃんの服装はデートって服装じゃないぞ。
あたしもだけど。
それにしても、お兄ちゃんの背中のカバンはなに?
どこ、行く気だったのかな?
お母さんは、あたしにだけわかるようにウインクしてくる。
確信犯だ。
計画的犯行というヤツだ。
仕方がない。乗ってやろうじゃないか。
「それじゃ、お兄ちゃんよろしく」
あたしの切替の速さに、お兄ちゃんが混乱している。
「ほら、行くよ」
こうして、あたしは無理やりお兄ちゃんを連れだした。
お母さんは、私たちに軍資金を渡してくれた。
2万円……。
結構、いろいろできるぞ。
お兄ちゃんも覚悟が決まったようだ。
「山に登ってみるか。この町が一望できる」
「山?」
この町には山がある。だけど標高はさほど高くない山だ。
最近建ったタワーの方が高いんだけど?
ということは、あたしでも知っている。
「あぁ、ここの山はいいぞ」
「ふぅん」
ホントかよ?
「あ、コンビニ寄らないと……」
「コンビニ?」
「お前、服はMサイズで着れるほう?」
「あ、うん」
なんだ、服でもプレゼントしてくれるのか?
「ここでも、いいか」
寄ったのはドラッグストアだった。
コンビニ違うじゃん。
レジで何かを買っていた。
少し気になったので、覗いてみると――。
な!
女性もののパンツ?
……と靴下?
レジでは女性店員が、いぶかしい顔でお兄ちゃんを見ていた。
ですよね~。
モノがモノなので、中身の見えない銀色の袋に入れてくれた。
お前、一体、あたしを、どこに連れて行く気だ。
お持ち帰りするつもりなのか?
まぁ、同じ家だから、お持ち帰りといえばお持ち帰りだが……。
あたしの不純な妄想をよそに、お兄ちゃんはケロっとしている。
そこから少し歩くと、ロープウェー乗り場に着いた。
タワーができてから、山は人気がないのか、
今日は休日だというのに、ガラガラだ。
あたしたちだけで、ロープウェーを貸し切り状態にできた。
ロープウェーから山側の景色を見るのは悪くない。
でもこのロープウェー、町の方があんまり見えないんだが?
ロープウェーは、進行方向だけがガラス張りだが、
後ろにはガラスがついていなかった。
頂上の駅に着くと、展望台とは違う方向に向かっていく。
どっちに行くんだろう。
だんだん、人気の少ない林に入っていく。
え?
何、ちょっとまさか?
あたしの妄想は絶好調だ。
「着いたぞ!」
前に見えるのは、ログハウスって感じの建物と、
小さな事務所みたいなところ。
大きな砂場。
ここは……。
「乗馬クラブ 大黒山」と書いてあった。
は?
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