『一生大切にする』――その一言で、妹は眠れなくなった
「あぁ、おはよう」
こっちを見ない。
なによ、変わってないじゃない。
いいだろう。それなら実力行使だ。
お兄ちゃんの顔を無理やりあたしのほうへ向けて――
「お兄ちゃん。
あたしと話す時は、あたしの目を見て話すようにして……」
あれ?
何か言い間違えたぞ。
「人」の目を見て言うつもりだったのに、
「あたし」の目を見て言ってしまった。
まるで、あたしだけを見てと言ってるみたいだ。
これ、告白みたいじゃないか。
やばい、ちょっと照れる。
お兄ちゃんは、少しポカンとしていたが……
「わかったよ、葉月。これからは、そうする」
そう言って、微笑んだ。
ボッと顔が熱くなった。
ふと視線をお母さんに移すと、何か勘違いしたのか、ニヤニヤしている。
もぅ……。
違うからね。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「どうした、大樹。ネコでも拾ったのか」
コイツの名は、小原洋治。
超ネコ好きだ。
何でもネコに結び付けて考える男だ。
本人曰く、脳の80%以上がネコに汚染されている。
テストでわからない問題があると、珍しいネコの品種名を書く。
それが、こいつのルールだ。
以前、「ソレナ」と書いて、先生に、これは何だと言われた時は、「ソレナ」というネコの説明だけで、授業時間まるごと占拠したほどだ。
「いや、違うけど。どうして、そう思った?」
「何か楽しそうに見えたからな」
楽しそう?
朝の一件のせいかな。
「ネコか……」
「ネコを飼ったら毎日がそうなるぞ」
確かに、すぐにでも妹に会いたい気持ちでいっぱいだ。
「そう……かもしれないな」
好きなものと一緒にいるというのは、そういうことなのだろう。
「だろだろ。それでだな……」
この後、休み時間になるたびに、
おすすめの保護ネコをたっぷり紹介された。
ネコは特別嫌いなものではない。
だが、どうしても飼いたいと思えるほどではない。
放課後になった頃には、ちょっとうんざりした。
でも、やっと放課後だ。
帰れる。
義妹に会える。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ただいま」
「おかえりなさい」
ふとリビングを見渡す。
いない。
「葉月は、まだ帰ってないの?」
「今日は、仕事って言ってたから、遅くなるかも」
なんか仕事してるって言ってたな。
学生なのに大したもんだ。
いろいろ頑張ってるんだな。
「ごはん、どうする?」
「葉月が帰ってくるまで待つよ」
学生だし、そんなに遅くなることもないだろう。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
今日の仕事は大変だった。
リテイクの連続だった。
まぁ、あたしの能力不足がいけないのだけど。
付き合わせてしまうスタッフさんに申し訳ない気持ちと、自分のふがいなさに、心が折れそう……。
マネージャーに、車で送ってもらって帰宅した。
「ただいま~」
「おかえり」
「お疲れさま、遅くまでご苦労さま」
とニカッと笑ってくるお兄ちゃん。
なんだろう。
この人の笑顔見てると、すごくホッコリする。
「さっそく、ご飯にしようぜ」
「待ってたの?」
「当然、食事は、家族みんなで……が基本だろ」
へぇ。
そういうルールがあったのね。
「今日はリテイクが多くて大変だった」
「あら、まぁ」
「それだけ成長したってことだし、切り替えていこうぜ」
お兄ちゃんは、なんだかんだ前向きな性格みたい。
少し気が楽になる。
いいとこあるじゃん。
ふと、お母さんを見ると、なんだかニヤニヤしていた。
か、勘違いしないでよね。
・ ・ ・ ・ 夜 ・ ・ ・ ・
そろそろ寝ようかと思ったら、ライムが話しかけてきた。
そんな機能あったっけ?
=妹さんとは仲良くなれましたか?=
「あぁ、ライム。ありがとう。
変な気持ちにさせないか不安だったけど……
なんとかなるものだな」
=この調子で、どんどん妹さんを大切にしていきましょう=
「あぁ、一生大切にする!」
俺は壁の向こうで、
義妹が悶絶していることに気づいていなかった。
--------------------------------------------
お読みいただき、ありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけましたら、
★や【ブックマーク】で応援していただけると、
今後の創作活動の励みになります。




