お兄ちゃんの本音が丸聞こえ
今日が、俺の人生を変える特別な日になるとは、
俺には予想すらできていなかった。
俺の親父が再婚することになった。
相手には、俺と同じくらいの歳の子どもがいる。
しかも、これから一緒に暮らすらしい。
どんなヤツなんだろうな。
いかついヤツじゃないといいけど。
俺の名は、長谷川大樹。
高専(高等専門学校)に通っている。
最近は高専でも女子が増えていると聞いていたが、うちの学校にはひとりもいない。
女子には興味はあるが、女子とは無縁な生活を送っている。
今日は近所の喫茶店で、
相手の家族と対面する日がやってきた。
ブォォン。
すごい音とともに、
イタリア製の高級スーパーカーが店の駐車場に止まった。
だが、そのクルマには、
痛々しいほどの男性アニメキャラのプリントが……。
そのクルマを降りて店に入ってきたのは、
コテコテの大阪のおばちゃんみたいな人と、
メガネかけた中学生くらいの息子だった。
あれか? あれなのか?
思わず親父の方を見た。ホワワンとした顔をしている。
おいおいマジか? ああいうのが趣味なのか。
おばちゃんが着ているトラ柄のシャツとスカートが、何とも痛々しい。
息子の方は、子ども向けアニメの女性キャラのプリントが入ったシャツを着ている。
これも、なかなか痛々しい。
おいおい、大丈夫か。俺?
ゴクリッ……。
「なんや、おらへんなぁ」
と言いながら、その2人は俺たちの横を通り過ぎて行った。
誰かを探しているらしい。
通り過ぎてくれたことに、少し、いや、かなりホッとした。
次に、女優みたいな超絶美人が、娘さんみたいな子を連れて来店している。
あれは……違うな。
親父とはつり合わない。
親父は現実主義者だ。
叶わぬ夢は見ようとしないハズだ。
それに、どう見ても若すぎる。
女優さんみたいな人は店内をキョロキョロしていた。
案外、天然なのかな。
次に「インテリそうなおばさん」が、
背の高い男性と共に来店した。
あれか? あれだろうな?
これまでの中で、一番それっぽい?
親父は理系一筋で、今はIT企業の社長をしている。
思えば、俺のおかんもあんな感じだったっけ。
おばさんは、ブツブツと何かをつぶやいている。
男性の方は、それが聞こえてそうなのにスルーしている。
いや、耳にイヤホンを入れてるから聞こえないのか。
同じくらいの歳と聞いていたのだが、かなり年上に見えるが。
俺も明日から、あの中に入るのか。なんか嫌だな。
「あぁ、見つけた大蔵さん」
大蔵は、俺の親父の名前だ。
さっきのトラおばちゃんか? そうなのか?
ふり返ると、さっきの女優みたいな人が立っていた。
え? えぇぇ?
思わず親父の方を見た。ホワワンとした顔をしている。
単に、この人に会う予定を思い浮かべてただけか?
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
女優みたいなキレイな人と、
その娘さんが俺たちの対面に座った。
娘さんも、なかなかのカワイイ子だ。
しかし、俺は、女性免疫の少ない高専男子。
これだけカワイイ同年代の女子を見ると、
エッチなことを妄想しそうになる。
だけど、これから兄弟になろうという間柄だ。
そういう考えを持ってはいけない。
でも、見ると考えてしまう。
しかたないので、
俺は極力、娘さんの方を見ないようにした。
「はじめまして、大樹くん。
私は、祐子って言います。こっちは娘の葉月」
「よろしく」
どうやら、親父は、娘さんとも面識があるらしい。
俺はできるだけ娘(葉月)の話を避けて、
親父とこの人のなれそめなどに話を振るようにした。
それにしても、親父、やるじゃないか。
こんなに美人でやさしそうな人が母親になるのは悪くない。
ちょっと天然なところは心配になるが……。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
あたしは、葉月。
お母さんが再婚して、名字が長谷川に変わった。
死んじゃったお父さんの望みで、中高一貫の女子校に通っている。
制服がカワイイ学校なので、とても気に入っている。
死んじゃったお父さんは、あたしの理想そのものだった。
イケメンで、やさしくて、頼りになる人だった。
だから、あたしは男性に対して、特に悪いイメージを持っていない。
子どものころは、大きくなったら、絶対にお父さんと結婚すると言い張って、お母さんを困らせていたらしい。
男性に持っているイメージは、そのくらいだ。
イケメン俳優を見ても、特にときめくものは感じない。
それだけ、お父さんのイメージが強すぎた。
たぶん、あたしは、生涯独身だろう。
お父さんを超えるような男性が現れるとは思えない。
あたしは、声優を目指している。
というか、一応事務所と契約しているので、声優ではある。
だけど、声優志望の子は引く手あまたにいる。
だから、無名なあたしには、ほとんど仕事は来ない。
先日した仕事もAIの音声合成の元データだ。
なんでも、有名な声ではないからという理由で選ばれたらしい。
失礼しちゃう。
でも、仕事は、仕事。
もらえることを、ありがたいと思わないと。
あたしの声は、AIのライムというキャラの声として使われるそうだ。
同居することになったお兄ちゃんは、あたしに興味がないらしい。
いつも、あたしを見ないようにしている。
理由は知らないけど。
特に、悪いイメージを持たれていないようではあるのだけど。
お父さんから、「人と話すときは、ちゃんと目を見て話すんだよ」と教えられて以来、そうするようにしてきた。
だから、目を見ないで、話されるとちょっとザワザワする。
学校から帰ってきて、部屋に入った。
今日から一人部屋だ。
制服から私服に着替えていたら、声が聞こえた。
隣の部屋だ。
お兄ちゃんの部屋からだ。
ちょっと!
全部丸聞こえなんだけど。
この家、壁薄すぎない?
でも、まぁ、個室があるだけマシか。
ひとり部屋だからといって、変なことするつもりもない。
困ることはないか。
お兄ちゃんは、なにやら、AIに相談しているようだ。
音声で。
AIって文字入力で使うのがふつうなんじゃないの?
「ねぇ、ライム……」
=はい、なんでしょう=
あたしの声のAIじゃん。
ふふん。
いつも、無視してくれるバツだ。
ちょっと聞いてやろう。
壁に耳を当てて聞いてみた。
「……が再婚して、妹ができたんだ。
血が繋がっていないんだ。
めちゃくちゃかわいいコなんだ」
かわいいだと?
なに、それ、超うれしい。
あたし、男の子にそんなこと言われたことなかったんだけど。
「ものすごくかわいいんだ」
おいおい。照れるじゃないか。
あんまり、かわいいと連呼するなよ。
「たぶん、世界一かわいいと思う」
言い過ぎだろう……。
そりゃ、自分自身、かわいい方だと自覚はあるよ。
でも、世界一とか思ったことないわ。
「顔も、目も、口も、声も、何なら体つきまで……
全部、ドストライクなんだ」
ちょ……
ちょっと待って!
「性格だっていい。よく気がつく。人が嫌がることはしない」
あいつ、あたしが聞いてるって気づいてないのよね?
ってことは、これ、あいつの本心?
だんだん、顔が熱くなってくるのを感じた。
「正直、大好きだ。付き合ってくれと告白したいくらいだ」
な!?
急に顔が熱くなった。かなり……。
「あいつを見てしまうと、どうしてもエッチな想像もしてしまう。
でも、女性って、そういう目つきで見られるのは嫌だろう。
だから、あいつの方を見ないようにしてたんだ」
へぇ?
あぁ、そういうことだったの。
あいつが目をあわせようとしないのは照れてたからなのか。
「あれ? ライム……」
どうやら電源が切れているか、音声を拾えなかったらしい。
ちょっと、悪戯心が生まれた。
見てろ、声優候補の本気を見せてやろうじゃないか。
AIのライムのような発声になるように心がけて……
=妹さんとの距離感に困ってるんですね?=
「あぁ、そうなんだ。大好きなんだ。嫌われたくないんだ」
わかったから、あんまり、大好き言うな。
こいつ、人が聞いてないと思って……。
=妹さんも、あなたに近づきたいと思っていますよ=
「でも、エッチな想像しちゃいそうで……」
=妹さんだって、もうほぼほぼ大人です。
嫌いな相手にそういう目で見られるのは嫌ですが、
好きな相手にそういう目で見てもかまいませんよ=
ん? あたし何言ってんだ?
「好き? いや、ありえないでしょ。
妹は、美人で、かわいくて、性格最高で……」
もう、これ、何の罰ゲーム?
ほめ殺しなんだけど……
「体つきも俺好みで……」
だから、そこで、いちいち体のことを言うな。
こっちもエッチな想像しちゃうじゃないか。
「そんな子が、俺みたいに冴えない男を、
好きになるはずないじゃないですか?」
まぁ、そこは否定しないけど……
それなのに、あたし、ものすごく照れている。
=大丈夫ですよ。きっと大丈夫です。自信を持ちましょう=
「ありがとう。ライム」
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