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とてもとても……うすい壁:「本音」から始まるラブコメディ:毎日AM6時更新  作者: 秋月心文


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毎年、告白して(第1部:最終話)

 今朝から大樹がおかしい。


 なんだか、最初に会ったときみたい。

 目が合うのを妙に避けてくるんだが?


「ねぇ、大樹」

「ひゃい」


 ひゃいって……


「しょうゆ取って」

「あ、あぁ」


 こんな感じである。


 おかしい。

 おかしすぎる。


 普段なら「はいよ」って普通に醤油を渡してくるはずだ。

 なのに、今の動きはまるで不審者だ。

 手がプルプル震えている。


 ……あ、なるほど。


 意識はしてくれたらしい。

 もしかして仕掛けすぎたのか?


 告白は男の人からがいいなって言っただけのはずなんだけど。

 「すぐにでも告白するべきなのか」とか考えてパニックになってるのかな?

 ふふん、かわいいところあるじゃない。


 せっかくだし、もう少し揺さぶって反応を楽しんでみよう。


「ねえ、大樹」

「ぐふっ!?」

 味噌汁を飲もうとしていた大樹が、盛大にむせた。


「な、なに!? 何か用か!?」

「いや、なんか顔赤いよ? 熱でもあるの?」

「べ、別に! 部屋が暑いだけだ!」


 分かりやすすぎる。

 「告白したらOKしてくれるかな?」ってライムに相談してたのを知ってるぞ。

 そのライムの中身があたしだとは夢にも思わずに。


 本当はあたしのことが好きなくせに。

 昨日のライムとのやり取りで「告白されたらOKする」って言ってるんだ。

 もう勝算100%なんだよ?

 なのに……

 告白してくる気配が全然ない。


 踏み込んでくるどころか、逆に動揺してくるときた。

 このヘタレ。


 なんだか見ていて、だんだんともどかしくなってきた。

 このままだと、いつまで経ってもこの気まずい空気のままだ。


 仕方ない。

 あたしから少し背中を押してあげるか。


 その夜――


 あたしは身を乗り出して、大樹の顔をじっと覗き込んだ。


 冗談っぽく

「いつ告白してくれるの?」

 と聞いてみた。


 それに対して、大樹は大きく深呼吸をしてから口を開いた。

「お、俺たちは、ずっと……」


 深呼吸して、それか?

 それに「ずっと」て何よ?


「このまま一緒にいたいんだけど」


 このまま……ということは、男女としてでなく、兄弟として一緒にいたいと?

 いや、っていうか、ずっとっていつまでの話?


「ずっと?」

「ずっとは、ずっとだよ。一生だよ」


 え?

 なんか、意味不明なんですけど。

 結婚せずにずっと、この家にいろとでも言いたいの?


「それは、あたしに結婚するなってこと?」


 大樹は、下を向いてもじもじしている。

 やがて意を決したように、言ってきた。


「俺以外とは結婚するなということだよ」

「は? はぁ?」

「それってプロポーズ?」

「それとはちょっと違う」


 違うのかよ?


「俺たち学生だろ。結婚とか早いと思うんだ」


 まぁ、そうだけど。


「お互い卒業したら……ってことね」

「うん」


 ふ~ん、卒業したら結婚かぁ。

 まぁそういうのも、悪くないかもね。


「卒業したら……」


 大樹は、一気に言い切れない。

 大樹らしい。


 まぁ、待つよ。

 うん、待つよ。


「卒業したら付き合おう」

「へ? は? そっち?」


 なんでだよ!


 奥手にもほどがある。


「学生のうちはお互い学業とか仕事でいっぱいいっぱいだろ」

「そうだけど、全く時間をつくれないわけじゃないんだけど」

「いや、俺の方はむずかしいかな」


 そっか……。

 ふ~ん、そっか……。


 う~ん。


 それは、なんだか釈然としない。


 あたしは一計を講じた。


「条件がある!」

「条件?」

「1年契約にしましょう」

「え?」


 今度は、大樹の方が展開についてこれないようだ。


「卒業までの間に気が変わったらどうするのさ」

「俺は変わらない」

「あたしはわからない。だから……」

「だから?」


 あたしは、大樹の口を指で押さえて、こう言った。

「毎年告白して契約更新しなさいよ!」


「え?」

「毎年、あたしを本気にさせなさいと言ってるの」

「なかなかハードルが高いな」


 そのくらい、しなさいよ!


「卒業まで待つ……という時点でハードル高いわ」

「そんなもんか」

「だいたい、付き合うのが卒業までというのは長すぎるな」


「いや、それまで全く付き合わないわけじゃない」

「は? どっちだよ」

「それまでは兄弟として付き合うって話だよ」


 そうきたか。


 うん。

 それは、わかる。


「あぁ。なるほど。だけど……」

「だけど?」


「毎年、告白更新してね!」

「あ、あぁ。わかった約束する」


 あたしは、大樹の口をもう一度指で押さえて、こう言った。

「絶対、ぜ~ったい、約束だからね」

 なんだか、楓ちゃんの受け売りのような発言になった。


「あぁ。約束する」

 大樹も、そう繰り返した。

 これなら、大丈夫だろう。


 こうしてあたしたちは付き合う確約を交わした。

 実際に付き合うのはだいぶ先のことだ。


 まぁ、いかにも、あたしたちらしい。

 あたしは、この関係を気に入っている。


 ――だけど。


 翌日――


「おまえと話しているとAIのライムと話してるみたいで安心できるんだ」

 まぁ、最近、ほとんどあたしが話してるしな。

「実は、ライムの代わりに葉月が答えてたの知ってるんだ」

「なっ!?」

 この前、それとなく、あたしの意思表示をしてたのを知っててここまで引きずってたのかよ。

 何て遠回りな発言するんだ。

 まぁ、でもいかにも大樹らしい。


 ……あれ?

 ということは、一昨日の発言のことも知ってたのか。

 顔が熱くなった。

 昨日、自分で「脈ありですね」なんて言ってしまってる。

 もぅ、なんだかなぁ。


    ――おわり――

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