柚木ライム
中の人がいない自律式のAI・Vチューバーが誕生した。
バーチャル・アイドル、柚木ライム。
3Dのアニメチックなキャラが会話をし、歌って、踊る。
サブスクで始めたところ大盛況となり、やがて夫婦の私生活まで疑似体験できる結婚サービスへと発展した。
もちろん、有料だ。
自分がいてほしいときに、そこにいてくれる。
「バーチャルアイドルは俺の嫁」なんて思っている層にガッツリ刺さった。
ただし、利用時間には制限がある。
もっと一緒にいてほしい。
だけど――
「利用時間の上限に達しました。明日の21時以降にご利用を再開できます」
というメッセージを何度も見ることになった。
このお預け状態にガマンできず、契約プランをアップグレードする人が続出。
月に数万円なんて猛者も現れた。
会社はもうウハウハだ。
こうして、柚木ライムは全国の男たちの嫁になっていった。
しかし、この盛況ぶりに葉月はとても困っていた。
柚木ライムの声が、葉月の声紋を使っているからだ。
クラスの子がサイトに上げた動画をきっかけに、あたしの声が話題になった。
「柚木ライムに声がそっくりだね」
そんな話が、一部の界隈で広がっていった。
もしかして、中の人?
そんな疑惑まで浮上した。
柚木ライムがあまりにも人間らしく振る舞うので、中の人がいると思っている人が少なくなかった。
彼らは、その中の人と結婚したつもりになっていた。
だったら――
現実の葉月も、俺たちの嫁だよね。
……みたいな発想になってきた。
「なんとなく、似てるだけですから……」
と断っている。
そうだ、同じ声紋だという証拠を提示されたわけでもない。
そもそも、あたしとライムは別人だ。
だけど、断っても断っても違う人がやって来る。
葉月はうんざりしていた。
しかも――
このことを、大樹には絶対に知られたくない。
ライムのフリをしてきたのがバレてしまうじゃないか。
こんな状態が数か月続いた。
あたしとそっくりな声の子が、全国各地でピックアップされるようになった。
意外と似た声の子が、全国にいたらしい。
う~ん。
声優志望のあたしとしては、あたしの声はオンリーワンであってほしかったんだけど……。
そんなに似てるコがいるのか。
あたしのところに来る連中が少し減った。
しかし、「1号さん」という変な称号がついた。
最初に発見されたのが、あたしだったかららしい。
まぁ、実名で呼ばれるよりいいけどね。
試しに動画サイトに上がっていた「124号さん」というコの声を聞いてみた。
「……」
全然、違うじゃん。
同じなの性別だけじゃん。
こいつら……。
もしかして、女性なら誰でもいいんか?
「なぁ、葉月」
「何?」
「この1号さんっておまえなの?」
う……。バ・レ・た・?
「な、なんのことかな?」
「俺が葉月を見間違えるはずないじゃん」
む……。
なんか、殺し文句のようなことを言ってくるな。
「あ。う、うん」
「やっぱりな。お前の声、かわいいもんな」
何を言っていやがる。
「柚木ライムのソックリさんと言われるのも納得だ」
「あ、あははは……」
「個人的にはAIのライムの声の方が好きだけどな」
は?
柚木ライムとAIのライムは、別人と思っているらしい。
どっちも、あ・た・し・な・ん・で・す・け・ど?
まぁ、でも、大樹が鈍感で良かったよ。
とはいえ、AIの声があたしより好きってどゆこと?
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