あたししか見えない
「ちょ……。何、それ?」
庭に出たあたしを待っていたのは、とんでもなく大きな白いレンズのついたカメラだった。
その下には、レンズを支える太い脚までついている。
「これって、鳥とかスポーツ選手を撮ったりするのに使うヤツじゃないの?」
とんでもなく高いヤツなのは、あたしにも分かる。
大樹のお父さんは社長だし、こういう高そうなものを持っていても不思議じゃない。
「これで、ふつうの人とか撮れるの?」
「これは、そんなに離れなくても撮れるやつだから」
レフ板とかいうヤツを3脚で固定し、お兄ちゃんに指定されたところに立つ。
「それじゃ撮るぞ」
味気ない掛け声だ。
せめて「はい、チーズ!」くらいのノリが欲しいな。
カシャカシャカシャカシャ……
ちょ……なんで連写?
ビックリしたじゃん。
お兄ちゃんが近づいてきて、撮影結果を見せてくれた。
「うっわ……。何これ、プロじゃん」
背景の草木がキレイにボケて柔らかな緑色の背景になる。
あたし以外にピントがあっているものがない。
なんというか美少女補正されている感じがした。
さっき連写された、驚いた顔までなんだかすごくいい。
あたししか見えない……。
そう言われてるような写真だった。
大樹が、あたしをこんなふうに撮ってくれたんだ。
そう思えて、ジーンときた。
あたしだけが、ものすごく引き立って見える。
スマホにも背景をぼかすやつがあるけど、それとは次元が違う。
「すっご……」
「白玉で撮ると写りが違うんだよ」
白玉というのは、白く塗られた特別なレンズのこと。
撮りたいもの以外をキレイにボケさせられるんだって。
「ところで、それどのくらいの値段なの?」
「このレンズとカメラだけなら300万円くらいかな」
だけならってことは、まだ他にも持ってるな。
皆月さんの1000万円にはおよばないとしても、とんでもないお坊ちゃまだね。
もしかして、これを買ったから馬を買うのをあきらめたのか?
「あたしも撮ってみたい」
あたしはお兄ちゃんに使い方を教えてもらって、お兄ちゃんにカメラを向けた。
ファインダーを覗くと、そこに見えるものがとても美しかった。
思わずシャッターを押すのを忘れかけたほどだ。
こうして白玉で撮った、お兄ちゃんもイケメン補正がかかっているように見える。
すごいな白玉。
何を撮っても超絶キレイに写るんですけど。
いいな。
このカメラ、楽しい。
お兄ちゃんが夢中になるのもわかる気がする。
レンズの下の1本脚を外して持たせてもらったが、とんでもなく重かった。
1本脚の偉大さを痛感した。
このあと、いろいろ撮りあいっこした。
ふざけて、あんなポーズしたり、こんなポーズしたり……
最後には、3脚を持って来てもらって、
セルフタイマーでツーショット写真撮ったりもした。
あたしは自分の写真と、お兄ちゃんの写真を大量に手に入れた。
写真を撮ってもらうだけのはずだったのに。
なんだか、大樹との距離が少し近くなった気がした。
お兄ちゃんが、白玉で撮った私の写真を待ち受けに設定していたのをこっそり見ていた。
私もスマホの待ち受け画面を、今日の写真に変えようと思ったのだけど……。
いろいろ考えた末、白玉で撮ったツーショット写真にした。
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