頼っちゃうぞ
「意中の女子を振り向かせるにはどうしたらいいと思う?」
「女子? ネコじゃなくて?」
俺は、相談する相手を間違えたと後悔した。
こいつは小原洋治。
脳の80%がネコに汚染されていると自称している男だ。
こんなヤツだが、恋愛相談をするなら、俺はこいつしか思いつかなかった。
洋治は少し考えた末、妙に自信ありげな顔をした。
「いいか大樹。恋愛で一番ダメなことはなんだと思う?」
言われるまでもない。
「嫌われることだろ」
「チッチッチッ。違うんだな。一番ダメなのは無関心だ」
「無関心? 嫌われることよりも?」
理解できん。
「そうだ。無関心ということは、記憶の片隅にも残らない」
「でも、嫌われるよりマシだろ」
「嫌われるということは記憶に強く残る」
「まぁ、そうだな」
よくわからないが、まずは記憶に爪痕を残せと?
「記憶に強く残った存在は、どうしても気になってしまう」
「うん」
「そうしているうちに相手のことをより知っていく。
『こいつ、思っていたより嫌なヤツじゃないかも……』とな」
うん? ちょっと待て!
「結局、いっぺん嫌われてみろと?」
「そうは言っていない。記憶に残ることをしろと言うことだ」
そう言われてもなぁ。
「たとえば?」
「相手に何か頼ってみろ。面倒なものほどいい」
「は?」
「うざがられない?」
「そうなればそうなったで、記憶に残ることに成功している」
なるほど……。
「『あたしが苦労かけた人』にランクアップできるぞ」
女子っぽい口マネをして、そんなことを言う。
あまりの奇行にキョトンとしていると、洋治は続けた。
「要は、他の男より関心を持たれるようになるってことだ」
ふむふむ……
「どういうのを頼ったらいいの?」
「相手が得意なこと。もしくは、大樹が苦手なことだな。
そうでないと……」
「そうでないと?」
「頼んでも断られる」
「そりゃそうか……」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ねぇ、陽菜」
「どうした葉月?」
「意中の男子を振り向かせたいんだけど?」
「男子? イヌじゃなくて?」
あたしは、相談する相手を間違えたと後悔した。
陽菜は脳の半分がイヌに汚染されていると自称している女。
それでも、あたしが一番話しやすい親友だ。
「もちろん、人間の男子だよ」
すると陽菜は、あたしが思ってもみなかった答えを返してきた。
「相手に何か頼ってみたら。できるだけ面倒なものを」
「は?」
「面倒ごとを押しつけろと?」
「うん。面倒なことほど相手の記憶に残るからね」
「ふぅん……」
とはいえ……
「どういうのを頼ったらいいと思う?」
「相手が得意なことか、葉月が苦手なことでないと、ふつうに断られるでしょ」
「なるほど……」
相談しておいてなんだが。
陽菜がイヌ以外のことでまともなことを言うとは思わなかった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
2人は知らなかった。
自分たちが同じ恋愛テクニックを教わっていたことを。
しかも、それを教えた2人は兄弟だった。
その恋愛テクニックは兄弟の両親が実際に使ったものだった。
ただし、まさか同じ日に同じ相談を持ちかけているとは、2人とも知る由もない。
かくして、2人は相手に頼るネタを探しはじめる。
2人の「頼っちゃうぞ」作戦が開始される。
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