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とてもとても……うすい壁:「本音」から始まるラブコメディ:毎日AM6時更新  作者: 秋月心文


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12/27

乗馬大会

 皆月は、大手の乗馬クラブに移籍した。

 学生の身で、超絶強力な自馬を持っている。

 親にポンと買ってもらったらしい。

 価格1000万円以上のドイツ産の輸入馬だ。

 アマチュアレベルじゃない。

 跳躍力がハンパない。

 ミーティアという名前が付けられている。


 馬と一緒に来て欲しいと、推薦入学を打診してくる大学も多いらしい。


 皆月を妬んでいるヤツらも多いようだ。


 あいつの出番も、そろそろか。

 あいつの性格はともあれ、競技中はカッコイイんだよな。

 待機馬場にいるミーティアを見ていたら、何か違和感を感じた。

 手綱に切り込みが入れられていた。


 皆月の番は、次か。

 ひとつ前のヤツの競技はまだ始まっていない。

 まだ、交換の時間はあるな。

 待機馬場にいるミーティアの前に出て、自分の手綱を持って、直接前に立ちはだかった。


「危ないですわ」

「手綱が切られてるぞ」

「え?」

「そのまま出たら、間違いなく怪我をする。

 すぐに変えろ。俺のヤツを貸してやる」


「あなたはどうしますの?」

「今回は諦める。俺の出番は、お前の次の次だからな」

 装具の交換が間に合わないだろう。

「変えるぞ。いいか?」

「えぇ、お願いしますわ」

 俺は手早く、手綱を交換した。


「自分のと違って慣れないだろうが、お前なら、なんとかするだろう」

「えぇ、問題ありませんわ」

「優勝をかっさらってこい」

「言われるまでも、ありませんわ」


 そして、皆月の名前がコールされた。

 皆月は、本馬場に入場していった。


 そこからは、皆月とミーティアの独壇場だった。

 さすがドイツ馬。高い障碍も余裕で飛翔する。

 もちろん、その有り余るパワーを邪魔せずついていける技量は必要だが。


 今回、非常に急回転なコース設定の部分があった。

 そこで、あいつらを落とす予定だったのだろうな。

 でも、ちゃんとした装具があれば余裕だろう。


(あら? この手綱。いつものより使いやすいですわ。

 ミーティアと私なら、今回程度の地方大会なら、手綱なしでも容易に飛べそうですけど、貸してもらった以上は、勝たないと申し訳が立ちませんわ)


 その後、多くの選手たちが出場したが、例の急回転の部分で、多くが苦戦していた。

 中には、速度を落として、減点0で回っている者もいたが。


 あの設定は、正直、やりすぎだったと思う。

 ある意味、俺が出なくて正解だったかもな。

 一応、それなりの自信はあったんだけどな。


「あれ?、お兄ちゃん出なかったんだ」

「あぁ、ちょっと、忘れ物しちゃったからな」


 先ほどの第1ラウンドよりも、障害の数が減らされた短縮コース。

 ここからは純粋なタイム勝負、減点0同士の『ジャンプオフ』だ。

 他の選手たちが慎重に、かつスピードを上げてタイトなインコースを回っていく。


 だが、皆月とミーティアの走りは次元が違った。

 「俺の手綱」は驚くほど馬の口に馴染み、急カーブの手前での一瞬のブレーキ、そして立ち上がりの指示がダイレクトにミーティアに伝わる。


「いつもより、驚くほどこちらの意志が伝わりますわ……!」


 皆月は他の誰も攻めきれなかった斜めからの不可能な角度で障害に突っ込み、ミーティアの有り余るパワーで一気に飛翔。

 着地と同時に最短ルートを駆け抜け、他を圧倒する爆速のタイムで掲示板のトップを塗り替える。


 こうして、結局、皆月がブッチギリの成績で優勝した。

 選手の多くが「1000万円……」とボヤいていく。

 余程、恨まれているらしいな。


「お兄ちゃん、1000万円って何?」

「皆月の持ち馬だよ?」

「持ち馬? 高校生でしょ?」

「そういう世界だよ」


 そして、汗をにじませたミーティアを引いて、皆月が戻ってきた。

「今回の借りは、いつかお返ししますわ」

「あぁ」


 ミーティアを洗い場に繋いでおくと、ミーティアに近づくヤツがいた。俺は、スマホのカメラをそいつに向けて連写した。

 カシャカシャカシャカシャカシャカシャ……

「うあぁぁぁ」

 カララン。そいつの手からナイフが落ちた。

「困るんだよ。これ俺の手綱なんだから」

 ナイフを足で抑えつけてそう言った。

 証拠写真も撮ってある。

 なんなら、後で皆月にプレゼントしておこう。

 まわりに人が集まってきた。

「こいつにナイフで襲われた~」

 とたわ言を言うと、野次馬は去っていった。

 代わりに警察官がやってきた。

 器物損壊の罪は問えるだろうか?

 俺の写真は未遂の証拠しかないが。

 と思ったら……。

「私、ミーティアの周りには監視カメラを仕込んでおりますの」

 だそうだ。

 言われてみると、あちこちに設置してやがる。

 多すぎないか?

「8K画質でしてよ」

 それだけ精細なら、バッチリ写ってるだろう。

 俺が手を貸すまでもなかったかな。

 警察は手綱を損壊させている証拠の映像と、壊された手綱を確認すると、犯人を連行していった。

 正当な理由なく(他人の馬の装具を切るためという不当な目的で)隠し持っていた刃物を所持していたという罪でも問われるらしい。


 とはいえ、皆月はいろいろなヤツらに妬まれている。

 今後も、こういうことが続きそうだな。

「そうそう、あなたの手綱、とっても使いやすかったんですけど」

「いいだろ、これ。最近のお気に入りなんだ」

「あとで、メーカーとか型番とか教えて欲しいですわ」

「後で送っておくよ」

「今後は、複数の装具を用意しておきますわ」

 まったく、懲りないヤツだ。

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