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妖花街にて保育士をすることになりまして。  作者: 小花衣いろは
番外編 其の三

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祈りを込めて (第十六章の騒動の後)



「ん~? このあと、どうやって折るんやったっけ?」


 吾妻は、黄色の折り紙を折っては開いて、また折っては元に戻して、難しそうな顔をしている。


「ここは、こうやって、中を開いて折るんでしょ」

「あ、せやった!」


 隣で紫色の折り紙を折っていた十愛が教えてあげれば、吾妻はパッと表情を明るくして折り進めていく。


「吾妻に、十愛に桜虎? それに湯希も……四人で折り紙をしているの?」


 大広間の前を通りかかった透は、四人が熱心に折り紙をしていることに気づいて足を止めた。


「うん。杏咲への贈り物を折ってるんだ」

「杏咲先生に?」


 透が視線を動かせば、畳の上にはいくつかの折り鶴が落ちている。


「前に杏咲が読んでくれた絵本に書いてあったんだ。鶴を千羽折ることで、願いが天に届いて叶うんだって。だから杏咲が早く元気になりますようにって、思いを込めてプレゼントすることにしたんだ」


 十愛の言葉に目を瞬かせていた透だったが、頬を緩めて優しい顔つきになる。


「……そっか。皆の思いが込もっている千羽鶴をもらえば、杏咲先生もすぐに元気になるだろうね」

「へへ、せやろ?」

「俺も一緒に折ってもいい?」

「うん、いいよ」

「オレさまが折り方、教えてやるよ!」


 透も輪に混ざって色とりどりの鶴を折っていれば、鍛錬を終えた影勝と火虎、付き添っていた柚留がやってきた。


「ん? 皆で何してるんだ?」

「あんな、杏咲ちゃんに、鶴を千羽作ってプレゼントするんや!」

「ああ、千羽鶴のことだね」


 病気のお見舞いなどで千羽鶴が贈られることを知っていた柚留は、なるほどと頷く。そして、影勝の手を引いて皆の輪に混ざろうとする。


「……おい、この手は何だよ」

「影勝も一緒に折ろう」

「何でオレが……」

「ほら、火虎も、もう皆と一緒に折ってるよ? 影勝だって、杏咲先生には早く元気になってもらいたいでしょ?」

「……」


 影勝は、無言で折り紙を一枚手に取った。そして見様見真似で折り始めるが、当然、折り紙などほとんど折ったことはないし、鶴の折り方も知らない。


「影くん、そこ違うで」

「あ?」

「影勝、そこは、こうやって開くんだよ」

「……チッ。んなこと、分かるわけねーだろ」


 文句を言いながらも、途中で投げ出すこともなく、影勝は折り鶴を完成させた。形は少々不格好だが、影勝なりの思いが詰まった折り鶴だ。



 ――結局、お見舞いの日までに、鶴を千羽折ることはできなかった。


 けれど大きな紙袋の中に詰まった色とりどりの鶴には、その一羽一羽に、強い想いが宿っている。それは杏咲にも伝わるはずだ。


「柚くん、影くん。杏咲ちゃんにちゃんと届けてな」

「うん、任せておいて」

「ああ」


 杏咲のお見舞いには、子どもたちの中から代表して、柚留と影勝が同行することになった。


「柚留、影勝。おまたせ」


 二人が玄関先で待っていれば、遅れてやってきた透は、薄桃色の綺麗な折り鶴を一羽持っている。


「その折り鶴、どうしたの?」

「これも、杏咲先生の回復を願っている子からの贈り物だよ」


 透は、一人で塞ぎ込んでいる玲乙に、皆で千羽鶴を折っていることを伝えて、部屋の前に折り紙を置いておいた。


 そして今朝。玲乙の部屋の前を見てみれば、この折り鶴が一羽置いてあったのだ。


 透は持ってきた折り鶴を、影勝が持っている紙袋の中にそっと忍ばせた。



「よし。それじゃあ行こうか」




 ――杏咲がいないだけで、いつもの離れが全く別の場所のように感じられた。


 彼女が子どもたちにとって、そして自分にとっても、どれだけ大切な存在になっていたのか。それを身に染みて感じた一週間だった。


 伊夜彦の判断により、杏咲とは暫く会えない日々が始まる。それを伝えなければならないことを考えると、少し気が重くもある。


 だけど、まず何よりも、彼女が元気でいる姿を見て安心したい。

 またあの陽だまりのような笑顔を見たい。


 今一番に思うのは、それだけだ。



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