祈りを込めて (第十六章の騒動の後)
「ん~? このあと、どうやって折るんやったっけ?」
吾妻は、黄色の折り紙を折っては開いて、また折っては元に戻して、難しそうな顔をしている。
「ここは、こうやって、中を開いて折るんでしょ」
「あ、せやった!」
隣で紫色の折り紙を折っていた十愛が教えてあげれば、吾妻はパッと表情を明るくして折り進めていく。
「吾妻に、十愛に桜虎? それに湯希も……四人で折り紙をしているの?」
大広間の前を通りかかった透は、四人が熱心に折り紙をしていることに気づいて足を止めた。
「うん。杏咲への贈り物を折ってるんだ」
「杏咲先生に?」
透が視線を動かせば、畳の上にはいくつかの折り鶴が落ちている。
「前に杏咲が読んでくれた絵本に書いてあったんだ。鶴を千羽折ることで、願いが天に届いて叶うんだって。だから杏咲が早く元気になりますようにって、思いを込めてプレゼントすることにしたんだ」
十愛の言葉に目を瞬かせていた透だったが、頬を緩めて優しい顔つきになる。
「……そっか。皆の思いが込もっている千羽鶴をもらえば、杏咲先生もすぐに元気になるだろうね」
「へへ、せやろ?」
「俺も一緒に折ってもいい?」
「うん、いいよ」
「オレさまが折り方、教えてやるよ!」
透も輪に混ざって色とりどりの鶴を折っていれば、鍛錬を終えた影勝と火虎、付き添っていた柚留がやってきた。
「ん? 皆で何してるんだ?」
「あんな、杏咲ちゃんに、鶴を千羽作ってプレゼントするんや!」
「ああ、千羽鶴のことだね」
病気のお見舞いなどで千羽鶴が贈られることを知っていた柚留は、なるほどと頷く。そして、影勝の手を引いて皆の輪に混ざろうとする。
「……おい、この手は何だよ」
「影勝も一緒に折ろう」
「何でオレが……」
「ほら、火虎も、もう皆と一緒に折ってるよ? 影勝だって、杏咲先生には早く元気になってもらいたいでしょ?」
「……」
影勝は、無言で折り紙を一枚手に取った。そして見様見真似で折り始めるが、当然、折り紙などほとんど折ったことはないし、鶴の折り方も知らない。
「影くん、そこ違うで」
「あ?」
「影勝、そこは、こうやって開くんだよ」
「……チッ。んなこと、分かるわけねーだろ」
文句を言いながらも、途中で投げ出すこともなく、影勝は折り鶴を完成させた。形は少々不格好だが、影勝なりの思いが詰まった折り鶴だ。
――結局、お見舞いの日までに、鶴を千羽折ることはできなかった。
けれど大きな紙袋の中に詰まった色とりどりの鶴には、その一羽一羽に、強い想いが宿っている。それは杏咲にも伝わるはずだ。
「柚くん、影くん。杏咲ちゃんにちゃんと届けてな」
「うん、任せておいて」
「ああ」
杏咲のお見舞いには、子どもたちの中から代表して、柚留と影勝が同行することになった。
「柚留、影勝。おまたせ」
二人が玄関先で待っていれば、遅れてやってきた透は、薄桃色の綺麗な折り鶴を一羽持っている。
「その折り鶴、どうしたの?」
「これも、杏咲先生の回復を願っている子からの贈り物だよ」
透は、一人で塞ぎ込んでいる玲乙に、皆で千羽鶴を折っていることを伝えて、部屋の前に折り紙を置いておいた。
そして今朝。玲乙の部屋の前を見てみれば、この折り鶴が一羽置いてあったのだ。
透は持ってきた折り鶴を、影勝が持っている紙袋の中にそっと忍ばせた。
「よし。それじゃあ行こうか」
――杏咲がいないだけで、いつもの離れが全く別の場所のように感じられた。
彼女が子どもたちにとって、そして自分にとっても、どれだけ大切な存在になっていたのか。それを身に染みて感じた一週間だった。
伊夜彦の判断により、杏咲とは暫く会えない日々が始まる。それを伝えなければならないことを考えると、少し気が重くもある。
だけど、まず何よりも、彼女が元気でいる姿を見て安心したい。
またあの陽だまりのような笑顔を見たい。
今一番に思うのは、それだけだ。




