第三十一話 遺跡調査
初めての依頼を受けてから、十日ほどが経った。あれからアロアは暇を見つけてはアンジェラ教本神殿にいる神父様の元を訪ね、新しい聖魔法の修得に励んでいる。
僕はと言えば、一人でも出来る簡単な依頼を引き受けては記憶の手掛かりを探していた。けれど成果は芳しくなく、記憶の手掛かりになりそうなものは何一つとして見つからなかった。
腕輪についても、皆が寝静まった後で幾つか調べてみた。どうやら腕輪が変化した武器は、僕の手から離れると元の腕輪に戻る仕組みになっているらしい。それから腕輪を変身させる為の言葉も、幾つか新しく見つけ出す事が出来た。
そうして、新しい生活にも少しずつ慣れてきたある日の事――。
「おいリト、来た! 遂に来たぜ!」
僕が食堂内の掃除をしていると、いつものように一足早くギルドに依頼を見に行っていたランドが慌てた様子で駆け込んできた。一体何事かと、僕はランドを振り返る。
「どうしたの? ランド」
「来たんだよ、新しい遺跡調査の依頼が!」
そう興奮気味に告げるランドの目は、今までに見た事がないくらいキラキラと輝いている。僕はそんなランドに圧倒されながら、とりあえず言葉を返した。
「遺跡調査って……前に言ってた、国から依頼されるっていうあれ?」
「そうそう、ギルドで希望者を募って、何組かのチームに分けてやるんだ。遺跡調査を狙ってる奴は多いから、いつも必ず参加出来る訳じゃねえけど……」
「……で、何で戻ってきたの? 参加希望出さないの?」
不思議に思って僕が聞くと、ランドは大きく鼻を膨らませた。そして、雑巾を持ったままの僕の手をがっしりと掴み言った。
「お前も来い!」
「へ?」
思わぬ言葉に、思わず目を瞬かせる。ランドは戸惑う僕を無視して、更に続けた。
「お前さ、いくら自分の記憶を探すのが目的だからってせこい依頼ばっかちまちまやり過ぎ! たまにはこう、ほら、男ならさ、どかんと一攫千金目指そうぜ!」
「あ、あの、いや、僕は別に……」
「アロアちゃんは今アンジェラ神殿だよな? アロアちゃんも誘って三人で、レッツお宝探し! つー訳でとっつぁん、リト借りてくぜー!」
「ち、ちょっと、話を聞いてよー!」
必死で抵抗を試みるも、結局僕はランドの勢いに負け、そのままギルドに行く事になったのだった。
今回の調査対象の遺跡は、フェンデルから東に徒歩で三日ほど行った所にある港町の外れにあるらしい。今回は国からの依頼という事で、港町までは国が用意してくれた馬車で行く事になった。
「あそこは俺も一回調査に行った事があるんだけどさ、とにかく下に深いんだ。しかも、夜になると海から潮が入ってきて半分以上水没しちまうから、なかなか奥まで立ち入った調査が出来ないんだよ」
「へえ……」
ランドから説明を受けながら、ガタゴトと揺れる馬車の振動に身を任せる。僕とアロア、それからランドは幸い同じチームとなって遺跡に赴く事になった。
「海の近く……って事は、海神ユノキス様ゆかりの遺跡かしら」
「ユノキス様って?」
「この世界の海の生き物をお作りになられた神様よ。航海の守り神でもあるから、船乗り達は海に出る前には必ずユノキス様に祈りを捧げるんですって」
「流石アロアちゃん、シスターなだけあって神様に関する知識が豊富だねえ」
「ううん、私はそんな……」
ランドの賛辞に、アロアが恥ずかしそうに顔を赤らめる。その様子に少しもやっとしたけど、ランドにもアロアにも非はないのだからと僕は心にまとわりつくもやもやを振り払った。
「まあ、誰の遺跡かとかんな難しい事は俺には解んねえけどさ。まだ未踏破の部分があるって事は……それだけ、凄いお宝が眠ってる可能性も高いって事だ!」
「……ねえ、ランドは何でそんなにお宝が欲しいの? 一攫千金にこだわらなくても、稼ぐ方法は幾らでもあるんじゃない?」
まだ見ぬお宝に目を輝かせるランドに、僕は思い切って、前から気になっていた事を尋ねてみた。するとランドは「あー……」と呟き、何だか言いにくそうに頭を掻いた。
そんなに言いにくい事を聞いてしまったのだろうか。そう思って質問を撤回しようとしたけど、その前にランドが口を開いた。
「……うちな。貧乏なんだよ。で、弟や妹も沢山いてさ。俺が稼ぎ頭って訳。今のご時世、金が欲しいなら盗賊退治なんだけど俺弱いじゃん。素材集めとかも、一生懸命やったって稼ぎはたかが知れてるじゃん。そうすっと、家族に楽をさせてやるにゃどかんと一発稼ぐしかねえかなってさ」
「……そうだったんだ」
初めて聞くランドの家庭の事情に、僕は胸を打たれる。ランドは自分の為じゃなくて、家族の為に一攫千金にこだわってたんだ。
あまり乗り気じゃなかった遺跡調査だけど、ランドの為に頑張ってみてもいいかもしれない。僕はそう思った。
「……頑張ろうね。ランド」
心から、僕はそう言った。ランドはいつもの調子に戻ると、鼻の頭を擦りながら笑った。
「おう! 今度こそでっかいお宝、見つけてやるからな!」
幌の隙間から入り込む風に、潮の香りが混じり始めていた。




